貴方は俺を愛せない

和泉奏

文字の大きさ
275 / 356
雪華(せつか)

12

しおりを挟む


今帰ってきたらしい。
上品な高級感のあるコートを着たまま、オレを見下ろしている。

その姿に安堵し、彼の名を口にしようとして、


「嗚呼…、良かった」

「……――っ、…んぇ…?」


零れる寸前の目尻の涙を拭われ、ひんやりとした手のひらが濡れた頬に添えられて、「つ、ゃ、」と変な声が零れる。

微かに頬を撫でるように動いた手のひらは、かなり甘くてやわらかいお菓子のように、ひどく優しい。


「痛かったですよね。悪い猫のせいで、怖い目に遭わせてしまいました」


(……『悪い猫』?)


ほんの一瞬、向けられた彼の視線の先にいるだろう対象に、ふるふると首を振る。


「っ゛、ううん、…オレのせいだ。にゃんこは何も、」

「いいえ」


否定するオレの言葉を切り捨てるように即座に返される。

体温を感じさせない、冷気が含まれている声だった。

ゾクリと震え、思わず目を惹かれるほど優美な微笑みを零す。
でも、怖いほど美しく整っている彼の顔は…その、表情が、瞳さえも、つめたく冷えきっていて、


「……え…、?」


戸惑う。
肩を抱いている手に少し力が込められて、震える。


「襲われていた可能性もあったのですから、純粋な夏空様を外に誘い出すようなことをした『あれ』が悪いんですよ」

「っ、ち、違…っ、本当に、違うんだ。にゃんこは、何も悪くない…っ!ただ、オレと遊ぼうとした…、っ、だけ、で…っ、」


ひやり、と背中が凍える。

その矛先は、オレに向けられていない。

にゃんこに責められるべき原因はないのに、なんで、

(…――怖い、)

さっくんは怒ったり不機嫌になると、冷たくなる。

怒鳴ったりとか、殴ったりは絶対にしないけど…そうじゃなくて、そんなのとはくらべられないぐらい、こわい。

いつも優しいから、どんな時でも優しくやわらかく微笑んでくれるから、…こういう時は格別に、自分がそれだけのことをしたのだと身体中に感じさせられて、ガクガク震えてとまらなくなってしまう。


「…夏空様に怒っているわけではないのですが、」


流石に気づいたらしい。小さく謝罪の言葉を口にする。
戸惑ったように目を伏せ、オレが自分で身体を支えていられる状態になっているのを確認すると、そっと離れた。

もう、ズキズキとした痛みはない。
そうではなく、今は別のことで頭がいっぱいだった。



「……俺が、怖いですか?」


微かに自嘲気味な笑みを零したような、なのにいつもより僅かに弱い声音が零される。

それでも、顔を上げることができなくて、「…っ、…ぁ、」うつむいたままとりとめなく唇を動かした。

何を言えばいい。
にゃんこのせいじゃないって言っても、さっきの発言から絶対に信じてもらえないだろう。

でも、これではまたあの日と同じだ。
にゃんこに無理矢理にやらせようとした、あの時と一緒になってしまう。

(だから、このやり方はだめだ)

……浅く、深呼吸をする。

意を決して顔を上げるが、視線が合うことはなかった。

俯き加減に前髪が微かにかかっている彼の目には、先ほどまでの冷ややかさは感じ取れない。

そのことに安心して、今度はゆっくりと息を吸った。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

仕方なく配信してただけなのに恋人にお仕置される話

カイン
BL
ドSなお仕置をされる配信者のお話

薔薇摘む人

Kokonuca.
BL
おじさんに引き取られた男の子のお話。全部で短編三部作になります

処理中です...