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雪華(せつか)
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しおりを挟む「さ、」
「ああ、そうだ。夏空様が御所望されていた、ケーキの上に乗せるトナカイやサンタさんのお菓子を買ってきたので、これで良かったか見ていただきたくて、」
ふいと視線を逸らしたまま、オレの言葉を聞きたくないとでもいうように重なる言葉。
まるで、オレに言われるかもしれない何かに怯えているみたいに。
まるで、近づいたさっくんに対して身体を震わせたオレを、避けているみたいに。
(……まったく、さっくんは)
自然に、頬が少し緩んでしまう。
仕方がないなぁというような、……困って持て余した表情なのに、何故かちょっと嬉しそうな笑みを零してオレを見る時のさっくんの気持ちが、なんとなくわかった気がしてしまった。
腕を、上げる。
「雨宮 咲人」
「……――っ、」
両頬を包むように手を添え、ちょっと強引にこっちを向かせた。
多少嫌がられたり、避けられたりするかもしれないと思ったが、無抵抗だった。
されるがままに、…僅かに驚き、狼狽えたようにオレを目に映す。
「主人の名前を言ってみろ」
「……?いきなり、何を、」
困惑している相手の言葉を遮り、「はやく」と催促する。
小さく息を呑み、二度ほど瞬きをして、その薄い唇が動く。
「音海 夏空 様、です」
思う通りに導かれた正解の答えに、ん、と頷いて肯定する。
主人とか執事とか、できるだけそういう単語は使いたくないけど。
でも、今はこの方法しか思いつかなかった。
それに、さっくんもそれを望んでくれてるって言ってたから。
だから、『だろう、そうだろう』とふむふむ満足げに首を縦に振った。
つまり、だ。
「……なぁ、さっくん」と、慣れてるやりとりのはずなのに、少しばかり乾いて感じる唇を動かす。
「オレが、…一番なんだよな?」
過去に教えてもらったことをなぞるようにして、問う。
ちょっと卑怯な言い方かもしれない。
恋人の話が引っかかっているところはあるが、会ったこともない相手を気にしても仕方がないだろう。
だから、それだけ、聞けたらいいと思った。
そうしたら、このもやもやした感覚も、消えると確信してたから。
よくわからないこの胸のあたりのぐちゃぐちゃした気分が、スッとすると信じてたから。
……だから、それしか口にできなかった。
手は、頬に触れているのに、
彼のその美しく整った顔に触れているはずなのに、
返事を得る、その瞬間までの時間、
血の気が下がり、次第に手の感覚がなくなっていくような錯覚に陥った。
…けど、
「はい。俺の一番は、夏空様です」
彼は、そう、答えた。
そう、答えてくれた。
そのことに、笑みを作る。
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