君の愛に狂って死ぬ

和泉奏

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変わらないこと

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***


それからも数日、彼は病室を訪れた。

先日のように取り乱すことはなく、それに何故か椅子に座ろうとせずに入口の近くに立ったままでいるから、余計に気まずい空気感だけが滲む。

……口に出しては言えないけど、何もわからない状態でキスされて、かなり戸惑った。

毎日目が覚めるのを待ってくれていたという看護師さんの話からも、少なくとも友人以上の関係性であることは確かなんだろう。

ただでさえ全部忘れてるのに、追及していいことなのかわからず何も言えなかった。

何か話そうと、思考を巡らして「まだ、記憶戻ってなくて…すみません」と多分一番気になっているだろうことを白状すれば「悪くないのに謝らなくていい」と嘆息する。


「記憶が消えても、そういうところは変わらないんだな」

「…え?」

「呆れるくらいお人好しで天然な性格をしてるくせに、余計なことにはすぐ気が付く」


何か悪いことでも思い出したように、苦々しい表情をする。


「あの日も、キスされたことを責めるどころか俺の顔の傷が治って良かったって言ってた」

「……あれは、…痛そうだったから、」


最初に会った日から1日あけた次の日。

元通り、何事もなかったように綺麗な顔に「怪我、治ったんですね」と驚きつつも安心して口に出してしまったのを思い出す。


「真白は?」


不意に聞かれて、「へ?」と思考が追いつかずに問い返せば「怪我」と短い単語が零される。


「ほとんど治りました。あとは安静にして、何か問題がなければ退院できるそうです」


背中の傷跡は酷すぎて跡が残るかもしれないと言われたけど、言わない方がいいだろう。
来るたびに体調や怪我の具合を気にしてくれている彼に、余計なことで心配をかけたくない。

あとは、どこに退院するのかとか、家族がいるのかという大事な問題があるけど、何故か看護師さんたちにはそれは考えなくていいと言われた。

とりあえず今は休むことだけに集中してほしい…って言われても、…不安にはなる。

机の上に置かれている以前好きだったらしい本やプリンを見て、目を伏せる。


「色々してくれてるのに、…何も返せなくてすみません」

「真白が普通に過ごせてるなら、それでいい」


頭を下げて謝るオレに、優しく微笑んでくれる。

そう言ってくれるけど、このままではいけないと思うのに。
どうしてそんなに良くしてくれるんだろうと、罪悪感に苛まれる。

俯いていた顔を上げれば、目が合った。
複雑そうな表情を滲ませ、オレの頭に伸ばした手を中途半端に止めて下ろす。

………もしかしたら、撫でようとしてくれたのかもしれない。

けど、その行動について言及することもなく「また明日来る」とだけ残し、彼は病室を後にした。



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