8 / 17
喪失
1
しおりを挟む彼のすらりとした形の良い指先が撫でる。
頬を包むように、低い体温の手が肌に触れる。
「覚えてない?」
「…っ、なに、を…」
息が触れるほど近づく端整な顔に、ごく、と喉を上下に鳴らす。
人に近づかれることを嫌いそうな性格をしているのに、無意識なのか癖なのか、時々距離が近すぎる。
「”琉夏”って漢字ではこう書くんだって、教えてくれた時のこと」
目の前にいるオレではない、オレを通して別の誰かを想起している眼差し。
「こうやって、俺があんたに何度も触れたこと」
「……」
”覚えてない”と言葉にするのは簡単だ。
実際に、…まだ何も思い出せていないのだから。
けど、「……真白は酷いな」と呟く彼の顔は、平静に保とうとしているけれど僅かに苦痛が滲んでいる。
それを見たら、何も言葉にできなかった。
その代わりに、ぎこちない唇で……ごめん、と小さく零す。
一方的にすべてを忘れられてしまうのは、どういう気持ちだろうと思う。
彼のその表情を見るたび、オレが傷つけてしまっていることを実感させられて、胸が苦しくなる。
「ルカ、が本当の名前だったんだ…」
こみ上げる罪悪感。
じっと見つめれば、僅かに視線が逸らされる。
「じゃあ、オレと琉夏さんは、」
「琉夏でいい」
すぐに居心地が悪そうに訂正が入った。
呼び捨ては慣れないけど、…もし不快でないのならと、頷く。
「オレと琉夏は…どういう関係だったの?」
「………」
「オレがつけたって…どういう意味…?」
つけたという言葉の解釈が名付けたということか、それともまた別の意味なのか。
肌に彫ってあることもそうだ。
余程の深い関係じゃないと、ありえないだろう。
そもそも、太腿の内側に男の名前が刻まれてるなんて、知ってるどの関係にも当てはめることはできそうになかった。
29
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
天然くんは無自覚に手強い
結衣可
BL
営業部の敏腕先輩・真壁洋司は、30歳前後にして社内で一目置かれる存在。
冷静で仕事もできるが、恋愛はいつも軽い気持ち——「来るもの拒まず」で誰か一人に執着したことはなかった。
そんな彼の前に現れたのは、新人の佐倉有紀。
天然で人懐っこく、悪気なく距離の近い言動をするため、男女問わず人気者。
その無邪気さに翻弄される真壁。らしくないと思いつつも、心は変化していく。
一方、有紀もまた、遊び人だと思っていた真壁が自分にだけ見せる真剣な顔や、不器用な優しさに気づき始める。
次第に「僕だけを見てほしい」という独占欲が芽生え、やがて涙ながらに「僕だけにしてください」と告げることに——。
遊びの恋愛しか知らなかった男と、初めて本気で人を好きになった天然後輩。
仕事場とプライベートの狭間で、二人の関係はテンポよく、甘く、“ただの先輩と後輩”から“かけがえのない恋人”へと変わっていく。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる