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第二話『私、ハーツ・ラバーになりたい!』
その4 たった一人の
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★魔闘少女ハーツ・ラバーズ!
第二話『私、ハーツ・ラバーになりたい!』
その4 たった一人の
teller:小枝拓海
ねーちゃんは、昔から馬鹿みてえにおとなしい女だった。
おどおどしてて、びくびくしてて、うじうじしてて。
すぐ泣くし、すぐ諦めるし、怖がりだし。
恥ずかしがり屋で、人と関わることが苦手で、身長も声も小さくて、とろくて。
いっつもオレの背中に隠れてて、『たっくん』、『たっくん』ってオレの後ろをついて回って。
ねーちゃんは、友達ができたことがない。
いっつも一人でいて、華やかな女子のグループを羨ましそうに、焦がれているように遠巻きに見つめていた。
勇気出して話しかけりゃいいのに。
何でそんな簡単なことができねえんだよ。
オレはいつも呆れてた。
後ろ向きで、ネガティブで、被害妄想激しくて、オレはそんなねーちゃんに何度も何度もムカついてきた。
でも、ほっとけなかった。
あんなんでも、一応はオレの『ねーちゃん』だから。
ずっと、一緒にいたから。
『こらっ! オレのねーちゃんいじめてんじゃねーよ!』
『やべっ、シスコンだ!』
『逃げろ逃げろ!』
『おいまちやがれ! オレはしすこんなんかじゃねえ!』
昔から男子にちょっかいかけられてばっかりで、みつあみを引っ張られてからかわれてえぐえぐ泣いてて。
そんなねーちゃんを助けるのは、守るのは、いつもオレの役目だった。
ねーちゃんが、髪を結ばなくなったのは、いつからだっけな。
イジメって程じゃねえけど、いつも近所の男子にからかわれて泣いていたねーちゃんの元に、オレはいつも駆けつけて。
『ねーちゃん、なくんじゃねーよ。そんなんだからあいつらがますますおもしろがんだよ』
『ごめんね、ごめんね、たっくん』
『だーかーら、なくなって』
わしゃわしゃと、いつもオレはねーちゃんの頭を撫でていた。
ったく、これじゃあどっちが年上かわかんねーっつーの。
『ほら、かえるぞ』
『……ひっく……うっく……』
『て、つないでてやるから』
いつもオレは、ねーちゃんに手を差し伸べていた。
小学校からの帰り道は、ずっとその小さな手を握っていた。
クラスの奴らに見られてからかわれることもしょっちゅうだったし、すげー恥ずかしかったし、正直めちゃくちゃ嫌だったけど。
ねーちゃんは、オレの手をぎこちなく握った後は、いつも少しだけ安心したような顔をしたんだ。
『たっくん、ごめんね』
『あやまるくらいなら、もっとつよくなれよ』
『……うん……』
『……そんなかおすんなよ』
『ごめんなさい……』
ねーちゃんは、何でもかんでもすぐに謝って。
謝れば何でも許されると思ってんじゃねーぞって何度も怒ったのに、その癖は直んなかった。
……ほんと、ばかじゃねーの。
『……じゃあ、おわびにおむらいす』
『ふえ?』
『かえったら、ねーちゃんがおむらいすつくってくれよ』
『おむらいす……』
『オレ、ねーちゃんのつくるおむらいすが、いちばんすきだ』
親父とおふくろは凄く自由な両親だった。
所構わずいちゃついて、楽天的で、能天気で。
料理が趣味のくせに、わけわかんねーもんばっか作って。
そんな家で育ったオレにとっては、ねーちゃんの作るメシは、家の中での数少ない楽しみだった。
オレの言葉に、ねーちゃんは、こくりと頷いて。
きゅ、とオレの手を握る力が強くなって。
いつまでもオレが傍にいてやれるわけじゃねえんだぞって言いたかったけど。
それを言ったら、ねーちゃんがまた泣きそうな気がして、オレは結局何も言えなかった。
◆
……何で、オレ、昔の夢なんか見てんだ。
ぼんやりしたまま、ベッドから起き上がり、頭を掻く。
昨日のアレ、夢だったのかな。
喋るコウモリ、ねーちゃんが地球を守る為にアニマとかいう変な怪物と戦わなきゃなんねえっていう、アレ。
夢に決まってるよな。
泣き虫で怖がりのねーちゃんが、そんなことできるわけねーんだ。
ふと、控えめにとんとん、とドアをノックする音が聞こえた。
「た……たっくん……起きてる……?」
だから、『たっくん』なんて呼ぶんじゃねえよ。
オレ、もう中学生になるんだぞ。
いつまでも、ガキのまんまじゃねえんだ。
「……起きてる。んだよ」
がちゃ、とこれまた控えめにドアが開く。
小柄なねーちゃんがおどおどしながら顔を出した。
「お……おはよう……」
「……はよ」
「……あ、あのね……昨日の、こと、なんだけど……」
昨日?
眉を顰める。
「たっくんが……私のこと心配してくれたの……その、凄く、嬉しかった。……ありがとう。でも、私は……」
その言葉で、夢だと思い込もうとしていた昨日の記憶が鮮明に蘇る。
同時に、どうしようもない怒りが沸き上がってきて。
枕元に置いていた携帯電話と財布を衝動的に引っ掴む。
ずかずかとねーちゃんに歩み寄り、その肩を掴み、無理矢理退かす。
「た……たっくん……」
「うるせえ、ついてくんな」
噛みつくように言い放ち、階段を下りてスニーカーを履く。
今はもう、全てにイライラしていた。
「たっくん……朝ごはんは……?」
「いらねえ」
靴紐を結んだ所で、ねーちゃんに向き直り。
「ねーちゃんなんか、大っ嫌いだ」
ねーちゃんの、大きな瞳が揺れる。
今にも涙が零れ落ちそうだった。
ねーちゃんが泣く前に、背を向けて家を飛び出す。
ばかやろう。
ほんとに大っ嫌いだったら、地球よりも大事、なんて言うわけねーだろ。
こんなに心配するわけねーだろ、気にかけてやるわけねーだろ。
何でわかんねーんだよ、ばか。
ねーちゃんの、ばか。
ハーツ・ラバーだか何だか知らねえけど、ねーちゃんにできるわけねーだろ。
怖いのも、痛いのも、苦手で嫌いなくせに。
すぐ泣くくせに、すぐ心折れるくせに。
どこまでも弱々しいくせに。
オレがいなきゃ何にもできねーくせに。
変わりたい?
ふざけてんじゃねーよ。
あれ、そういや。
……ねーちゃん、何でポニーテールなんだろ。
◆
と、まあ。
苛立ちのまま、感情の赴くまま飛び出してきちまったわけだけど。
……オレ、この町に引っ越してきたばっかなんだった。
とにかく一人になりたくて、人を避けて、変な道に来ちまったけど。
……これ、オレ、ちゃんと家に帰れんのか?
……まあ、オレはねーちゃんなんかと違ってそこらへんしっかりしてっから、大丈夫だと思うけど。
落ち着ける場所が欲しい。
誰にも邪魔されずに済む空間が欲しい。
そんな時、ふと視界に入ったのは、廃ビルのような建物だった。
ぼろっちいな、何かの跡かな。
何となく興味を惹かれて、扉のドアノブを捻ってみる。
鍵、開いてる。
不用心……っつーか、誰も使ってねーのか?
危ない場所かもしんねーけど、ちょっとくらいいいよな、なんて思って。
オレは、ビルの中に入って行った。
つかつかと歩いてって、やっぱボロいな、と再確認して。
応接室っぽい部屋の前で足を止める。
ここなら、ゆっくりできっかも。
そう思って、ドアを開けて。
「……あれ……」
そこは、そこだけは人が使ってそうな空気だった。
今は誰もいない、けど。
クッションとか、菓子の袋とか置かれてて。
なんか、部屋みたいになってる。
大人、が使ってるようには見えない。
そうだとしたら、他の場所にも大人がいるはずだし。
何だろう、ここ。
「え」
突然、だった。
目の前が、真っ暗になった。
どすん、と体に衝撃がかかり、急な出来事に対応できず尻餅をつく。
……何か、降ってきた?
反射的に閉じていた目を開ける。
「は」
間抜けな声が、洩れた。
女子。
女が、オレの上に乗ってる。
親方、空から女の子が。
……じゃなくて!
何でだよ!?
混乱してるオレに馬乗りになってる女が、ぼんやりとオレを見つめていた。
右目の下に、ホクロがある。
切れ長の紫色の瞳が、ぼうっとオレの姿を捉えている。
多分、すげえ美人だ。
黒い髪が、すげーサラサラしてる。
こういう髪型、なんていうんだっけ、ハーフアップだっけ。
女が、ゆっくりと口を開いた。
「……だれ……?」
「……お前こそ……誰だよ……」
んん、と女が眠たげな声を洩らす。
ふと、女が元いたであろう場所を見上げてみる。
クッションと、毛布。
簡易ベッド、みたいになってる。
こいつ、ここで寝てたのか?
で、寝返り打ったらうっかりオレの所に落ちてきた、と。
……いやいやいやいや!
馬鹿だろこいつ!
「……まあいいや」
「は?」
何がまあいいんだよ。
そう思う暇もなく、女が目を閉じてオレに向かってぱたんと力が抜けたように倒れてきた。
……は?
「お、おい!? 何してんだよ!? 離れろよ! おい! 馬鹿!」
「……ごめん……寝かせて……昨日、あんま眠れなかったから……うう、ねむい……」
「いや、眠いじゃなくて! お前馬鹿じゃねえの!? 普通こんなとこで寝るかよ! っつーか、オレの上で寝んな! おい! 危機感ねえのか! 離れろって!」
「……あと五分……」
「あと五分じゃねーよ! 今すぐ退けよ! おい! おいってば!」
「ぐう……」
「寝んな!!」
オレの叫びも無視して、女が安らかな寝息を立て始める。
おいおいおい、マジで寝てんじゃねえよ、こいつほんとに馬鹿だろ!
っつーか、やばいだろこれ、おい。
女子とこんな密着したことなんてねーよ。
ねーちゃんとだってここまでくっついたことねーよ。
っつーか、なんか胸に柔らかいもん当たってんだけど!
これやべえだろ!
ふっざけんな!
ばか!
なんか、多分、シャンプーの匂いとか、そういうのするし。
顔近いんだよ、馬鹿。
心臓がどかどか騒いでる。
血が沸騰しそうで、顔が熱い。
変な汗が出てくる。
離れようと身を捩じらせたら、女がぎゅう、と甘えるように抱きついてきた。
くっつくんじゃねえ!
人を抱き枕代わりにするんじゃねえ!
いや、もうほんと色々やべえから!
「……おいぃぃぃぃ……」
そんな、オレの溜息にも近い声が、良くわからない部屋に虚しく響いていた。
第二話『私、ハーツ・ラバーになりたい!』
その4 たった一人の
teller:小枝拓海
ねーちゃんは、昔から馬鹿みてえにおとなしい女だった。
おどおどしてて、びくびくしてて、うじうじしてて。
すぐ泣くし、すぐ諦めるし、怖がりだし。
恥ずかしがり屋で、人と関わることが苦手で、身長も声も小さくて、とろくて。
いっつもオレの背中に隠れてて、『たっくん』、『たっくん』ってオレの後ろをついて回って。
ねーちゃんは、友達ができたことがない。
いっつも一人でいて、華やかな女子のグループを羨ましそうに、焦がれているように遠巻きに見つめていた。
勇気出して話しかけりゃいいのに。
何でそんな簡単なことができねえんだよ。
オレはいつも呆れてた。
後ろ向きで、ネガティブで、被害妄想激しくて、オレはそんなねーちゃんに何度も何度もムカついてきた。
でも、ほっとけなかった。
あんなんでも、一応はオレの『ねーちゃん』だから。
ずっと、一緒にいたから。
『こらっ! オレのねーちゃんいじめてんじゃねーよ!』
『やべっ、シスコンだ!』
『逃げろ逃げろ!』
『おいまちやがれ! オレはしすこんなんかじゃねえ!』
昔から男子にちょっかいかけられてばっかりで、みつあみを引っ張られてからかわれてえぐえぐ泣いてて。
そんなねーちゃんを助けるのは、守るのは、いつもオレの役目だった。
ねーちゃんが、髪を結ばなくなったのは、いつからだっけな。
イジメって程じゃねえけど、いつも近所の男子にからかわれて泣いていたねーちゃんの元に、オレはいつも駆けつけて。
『ねーちゃん、なくんじゃねーよ。そんなんだからあいつらがますますおもしろがんだよ』
『ごめんね、ごめんね、たっくん』
『だーかーら、なくなって』
わしゃわしゃと、いつもオレはねーちゃんの頭を撫でていた。
ったく、これじゃあどっちが年上かわかんねーっつーの。
『ほら、かえるぞ』
『……ひっく……うっく……』
『て、つないでてやるから』
いつもオレは、ねーちゃんに手を差し伸べていた。
小学校からの帰り道は、ずっとその小さな手を握っていた。
クラスの奴らに見られてからかわれることもしょっちゅうだったし、すげー恥ずかしかったし、正直めちゃくちゃ嫌だったけど。
ねーちゃんは、オレの手をぎこちなく握った後は、いつも少しだけ安心したような顔をしたんだ。
『たっくん、ごめんね』
『あやまるくらいなら、もっとつよくなれよ』
『……うん……』
『……そんなかおすんなよ』
『ごめんなさい……』
ねーちゃんは、何でもかんでもすぐに謝って。
謝れば何でも許されると思ってんじゃねーぞって何度も怒ったのに、その癖は直んなかった。
……ほんと、ばかじゃねーの。
『……じゃあ、おわびにおむらいす』
『ふえ?』
『かえったら、ねーちゃんがおむらいすつくってくれよ』
『おむらいす……』
『オレ、ねーちゃんのつくるおむらいすが、いちばんすきだ』
親父とおふくろは凄く自由な両親だった。
所構わずいちゃついて、楽天的で、能天気で。
料理が趣味のくせに、わけわかんねーもんばっか作って。
そんな家で育ったオレにとっては、ねーちゃんの作るメシは、家の中での数少ない楽しみだった。
オレの言葉に、ねーちゃんは、こくりと頷いて。
きゅ、とオレの手を握る力が強くなって。
いつまでもオレが傍にいてやれるわけじゃねえんだぞって言いたかったけど。
それを言ったら、ねーちゃんがまた泣きそうな気がして、オレは結局何も言えなかった。
◆
……何で、オレ、昔の夢なんか見てんだ。
ぼんやりしたまま、ベッドから起き上がり、頭を掻く。
昨日のアレ、夢だったのかな。
喋るコウモリ、ねーちゃんが地球を守る為にアニマとかいう変な怪物と戦わなきゃなんねえっていう、アレ。
夢に決まってるよな。
泣き虫で怖がりのねーちゃんが、そんなことできるわけねーんだ。
ふと、控えめにとんとん、とドアをノックする音が聞こえた。
「た……たっくん……起きてる……?」
だから、『たっくん』なんて呼ぶんじゃねえよ。
オレ、もう中学生になるんだぞ。
いつまでも、ガキのまんまじゃねえんだ。
「……起きてる。んだよ」
がちゃ、とこれまた控えめにドアが開く。
小柄なねーちゃんがおどおどしながら顔を出した。
「お……おはよう……」
「……はよ」
「……あ、あのね……昨日の、こと、なんだけど……」
昨日?
眉を顰める。
「たっくんが……私のこと心配してくれたの……その、凄く、嬉しかった。……ありがとう。でも、私は……」
その言葉で、夢だと思い込もうとしていた昨日の記憶が鮮明に蘇る。
同時に、どうしようもない怒りが沸き上がってきて。
枕元に置いていた携帯電話と財布を衝動的に引っ掴む。
ずかずかとねーちゃんに歩み寄り、その肩を掴み、無理矢理退かす。
「た……たっくん……」
「うるせえ、ついてくんな」
噛みつくように言い放ち、階段を下りてスニーカーを履く。
今はもう、全てにイライラしていた。
「たっくん……朝ごはんは……?」
「いらねえ」
靴紐を結んだ所で、ねーちゃんに向き直り。
「ねーちゃんなんか、大っ嫌いだ」
ねーちゃんの、大きな瞳が揺れる。
今にも涙が零れ落ちそうだった。
ねーちゃんが泣く前に、背を向けて家を飛び出す。
ばかやろう。
ほんとに大っ嫌いだったら、地球よりも大事、なんて言うわけねーだろ。
こんなに心配するわけねーだろ、気にかけてやるわけねーだろ。
何でわかんねーんだよ、ばか。
ねーちゃんの、ばか。
ハーツ・ラバーだか何だか知らねえけど、ねーちゃんにできるわけねーだろ。
怖いのも、痛いのも、苦手で嫌いなくせに。
すぐ泣くくせに、すぐ心折れるくせに。
どこまでも弱々しいくせに。
オレがいなきゃ何にもできねーくせに。
変わりたい?
ふざけてんじゃねーよ。
あれ、そういや。
……ねーちゃん、何でポニーテールなんだろ。
◆
と、まあ。
苛立ちのまま、感情の赴くまま飛び出してきちまったわけだけど。
……オレ、この町に引っ越してきたばっかなんだった。
とにかく一人になりたくて、人を避けて、変な道に来ちまったけど。
……これ、オレ、ちゃんと家に帰れんのか?
……まあ、オレはねーちゃんなんかと違ってそこらへんしっかりしてっから、大丈夫だと思うけど。
落ち着ける場所が欲しい。
誰にも邪魔されずに済む空間が欲しい。
そんな時、ふと視界に入ったのは、廃ビルのような建物だった。
ぼろっちいな、何かの跡かな。
何となく興味を惹かれて、扉のドアノブを捻ってみる。
鍵、開いてる。
不用心……っつーか、誰も使ってねーのか?
危ない場所かもしんねーけど、ちょっとくらいいいよな、なんて思って。
オレは、ビルの中に入って行った。
つかつかと歩いてって、やっぱボロいな、と再確認して。
応接室っぽい部屋の前で足を止める。
ここなら、ゆっくりできっかも。
そう思って、ドアを開けて。
「……あれ……」
そこは、そこだけは人が使ってそうな空気だった。
今は誰もいない、けど。
クッションとか、菓子の袋とか置かれてて。
なんか、部屋みたいになってる。
大人、が使ってるようには見えない。
そうだとしたら、他の場所にも大人がいるはずだし。
何だろう、ここ。
「え」
突然、だった。
目の前が、真っ暗になった。
どすん、と体に衝撃がかかり、急な出来事に対応できず尻餅をつく。
……何か、降ってきた?
反射的に閉じていた目を開ける。
「は」
間抜けな声が、洩れた。
女子。
女が、オレの上に乗ってる。
親方、空から女の子が。
……じゃなくて!
何でだよ!?
混乱してるオレに馬乗りになってる女が、ぼんやりとオレを見つめていた。
右目の下に、ホクロがある。
切れ長の紫色の瞳が、ぼうっとオレの姿を捉えている。
多分、すげえ美人だ。
黒い髪が、すげーサラサラしてる。
こういう髪型、なんていうんだっけ、ハーフアップだっけ。
女が、ゆっくりと口を開いた。
「……だれ……?」
「……お前こそ……誰だよ……」
んん、と女が眠たげな声を洩らす。
ふと、女が元いたであろう場所を見上げてみる。
クッションと、毛布。
簡易ベッド、みたいになってる。
こいつ、ここで寝てたのか?
で、寝返り打ったらうっかりオレの所に落ちてきた、と。
……いやいやいやいや!
馬鹿だろこいつ!
「……まあいいや」
「は?」
何がまあいいんだよ。
そう思う暇もなく、女が目を閉じてオレに向かってぱたんと力が抜けたように倒れてきた。
……は?
「お、おい!? 何してんだよ!? 離れろよ! おい! 馬鹿!」
「……ごめん……寝かせて……昨日、あんま眠れなかったから……うう、ねむい……」
「いや、眠いじゃなくて! お前馬鹿じゃねえの!? 普通こんなとこで寝るかよ! っつーか、オレの上で寝んな! おい! 危機感ねえのか! 離れろって!」
「……あと五分……」
「あと五分じゃねーよ! 今すぐ退けよ! おい! おいってば!」
「ぐう……」
「寝んな!!」
オレの叫びも無視して、女が安らかな寝息を立て始める。
おいおいおい、マジで寝てんじゃねえよ、こいつほんとに馬鹿だろ!
っつーか、やばいだろこれ、おい。
女子とこんな密着したことなんてねーよ。
ねーちゃんとだってここまでくっついたことねーよ。
っつーか、なんか胸に柔らかいもん当たってんだけど!
これやべえだろ!
ふっざけんな!
ばか!
なんか、多分、シャンプーの匂いとか、そういうのするし。
顔近いんだよ、馬鹿。
心臓がどかどか騒いでる。
血が沸騰しそうで、顔が熱い。
変な汗が出てくる。
離れようと身を捩じらせたら、女がぎゅう、と甘えるように抱きついてきた。
くっつくんじゃねえ!
人を抱き枕代わりにするんじゃねえ!
いや、もうほんと色々やべえから!
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そんな、オレの溜息にも近い声が、良くわからない部屋に虚しく響いていた。
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