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第二話『こどものぼうけん』
その2 賑やかな青春
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★貴方の隣で呼吸がしたい。 第二話『こどものぼうけん』その2 賑やかな青春
教室で聖くんを容赦なく殴り飛ばした後、わりかし平気そうだった聖くんを自分の席に座るよう促して、私はHRを終えた。
生徒たちは各々談笑したり、予習をしたり、ちらちらと遠巻きにこちらの様子を窺ったりしている。
『新しく赴任してきた教師』という肩書きの私が物珍しいのだろう。
それに、聖くんを殴って悪目立ちしてしまったのもある。
こういう視線は苦手だったので、立ち去ってしまいたい気持ちもあったが、次の授業は私が担当する数学だった。
特にここから離れる理由もない。
聖くんの話によるとこれほどの人外が、異文化が揃った異世界だと言うのに、この『プレザント・ナイトメア』の言語やカリキュラムは私の『元の世界』とほぼ同じだと言うのだから、未だに信じ難い。
『軽いパラレルワールドのようなものなのだよ』と聖くんは笑っていたが、そう簡単に適応できるほど私の頭は柔らかくなかった。
「あの、千歳先生!」
ふと女子生徒の声で名前を呼ばれ、私の意識は回想から現実へと引き戻される。
視線を少し下にやれば、雪のように真っ白な髪をおかっぱにした――獣の耳と尻尾を生やした少女が立っていた。
未だに、この動物の耳付きの人間が街を闊歩している世界観には情けないことに慣れずにいる。
それと、これも聖くんに訊いたことだが。
この世界では、よっぽどの事情がない限り、他人のことはファーストネームで呼ぶのが文化らしい。
馴れ馴れしくはないかと思ったが、郷に入っては郷に従え、だ。
彼女が私をファーストネームで呼ぼうがどうしようが、それが文化なら仕方ない。
幸い、特に不快感もない。
この世界の人間は英名がほとんどで、私や小夜さん、聖くんのような元の世界で言う所の和名の人間はごくまれだと言うが、それでも輪からは浮かないと言うのだから随分と都合良く世界ができているな、と思った。
なんてことを考えていたら、獣耳の少女が、ぺこりと頭を下げてくる。
「初めまして。私、フウリ・ユーランって言います。先生、新しく来たならまだ学校に不慣れですよね? 困ったことがあればいつでも言ってください! 私、去年はクラスで委員長を務めていたし、今年もできればやりたいと思っているので……このクラスの生徒のことも、そこそこ知ってると思うし、少しはお力になれると思いますっ」
「……そうですか。それは助かります。ありがとうございます、フウリさん。……聖くんが迷惑をかけるかもしれませんが、できれば聖くんのことも、よろしくお願いします」
「ふふっ、任せてください!」
そう言って、フウリさんは笑う。
随分としっかりした女の子だな、と思った。
歳の割に、落ち着きがある。
視野も広い。
そう、感心していると。
「おっ、早速センセーの世話焼いてんのか! 相変わらずフウリはえらいな!!」
「ぎゃっ!?」
赤い短髪の、三白眼が鋭くて笑った口元からギザギザの歯を見せる少年がぐしゃりと無遠慮にフウリさんの頭を撫でてきた。
途端に、フウリさんが潰れたかのような悲鳴を上げる。
少年は、フウリさんの頭をぽんぽんと撫でたかと思うと、ぴょんっと高くジャンプして教卓の上に乗ってきた。
「よっす! 千歳センセー! オレはリクト・ガレーウィル! センセー、さっきのパンチ鋭かったな! なんか武道とかやってたのか?」
「リクトくん、ですね。教卓から降りてください。話はそれからです」
「そうだ! バカリクト! 先生の前で礼儀がなってない!」
フウリさんがリクトくんの襟首を引っ掴んで無理矢理教卓から引きずり下ろす。
ずるずると、ゆっくり床に足を着けたリクトくんは、私とフウリさんを見てニッと笑った。
同時にフウリさんが、がみがみとリクトくんに説教を始める。
心なしか、フウリさんの口調が私に接している時より砕けている。
まあ、教師と生徒で態度が違うのは当たり前なのかもしれない。
「あの二人のこと、気になる? 先生!」
今度は別方向から声が飛んできた。
視線をやると茶髪に首からヘッドホンを下げ、パーカーの背中から翼を生やした少年がにこにことこちらに笑顔を向けていて。
……鳥人、というやつだろうか。
「あ、オレ、テラ! テラ・トンプソン! よろしくね、先生! リクトとフウリちゃんのことなら気にしなくていいよ。いつも通りのことだから! あの二人、幼馴染なんだよねー」
「……なるほど」
「で、さっきリクトが聞いてたけど先生ってなんか武道とかやってんの? やってないの?」
「別にやっていませんよ。学生時代、住んでいた地区が比較的荒れていたので降りかかる火の粉を払っていたら自然と鍛えられましたが」
「おおっ! 元ヤンだ!」
「断じて違います」
淡々と答える私に対し、テラくんは妙に嬉しそうで、親しげだ。
そんな賑やかな生徒たちに囲まれ、少しはこの空気に溶け込めているのかと思えた頃。
視界の端に居た、予習中であろう小夜さんと一瞬目が合って。
気まずそうにふい、と視線を逸らされた瞬間――どうしようもなく、胸が苦しくなった。
教室で聖くんを容赦なく殴り飛ばした後、わりかし平気そうだった聖くんを自分の席に座るよう促して、私はHRを終えた。
生徒たちは各々談笑したり、予習をしたり、ちらちらと遠巻きにこちらの様子を窺ったりしている。
『新しく赴任してきた教師』という肩書きの私が物珍しいのだろう。
それに、聖くんを殴って悪目立ちしてしまったのもある。
こういう視線は苦手だったので、立ち去ってしまいたい気持ちもあったが、次の授業は私が担当する数学だった。
特にここから離れる理由もない。
聖くんの話によるとこれほどの人外が、異文化が揃った異世界だと言うのに、この『プレザント・ナイトメア』の言語やカリキュラムは私の『元の世界』とほぼ同じだと言うのだから、未だに信じ難い。
『軽いパラレルワールドのようなものなのだよ』と聖くんは笑っていたが、そう簡単に適応できるほど私の頭は柔らかくなかった。
「あの、千歳先生!」
ふと女子生徒の声で名前を呼ばれ、私の意識は回想から現実へと引き戻される。
視線を少し下にやれば、雪のように真っ白な髪をおかっぱにした――獣の耳と尻尾を生やした少女が立っていた。
未だに、この動物の耳付きの人間が街を闊歩している世界観には情けないことに慣れずにいる。
それと、これも聖くんに訊いたことだが。
この世界では、よっぽどの事情がない限り、他人のことはファーストネームで呼ぶのが文化らしい。
馴れ馴れしくはないかと思ったが、郷に入っては郷に従え、だ。
彼女が私をファーストネームで呼ぼうがどうしようが、それが文化なら仕方ない。
幸い、特に不快感もない。
この世界の人間は英名がほとんどで、私や小夜さん、聖くんのような元の世界で言う所の和名の人間はごくまれだと言うが、それでも輪からは浮かないと言うのだから随分と都合良く世界ができているな、と思った。
なんてことを考えていたら、獣耳の少女が、ぺこりと頭を下げてくる。
「初めまして。私、フウリ・ユーランって言います。先生、新しく来たならまだ学校に不慣れですよね? 困ったことがあればいつでも言ってください! 私、去年はクラスで委員長を務めていたし、今年もできればやりたいと思っているので……このクラスの生徒のことも、そこそこ知ってると思うし、少しはお力になれると思いますっ」
「……そうですか。それは助かります。ありがとうございます、フウリさん。……聖くんが迷惑をかけるかもしれませんが、できれば聖くんのことも、よろしくお願いします」
「ふふっ、任せてください!」
そう言って、フウリさんは笑う。
随分としっかりした女の子だな、と思った。
歳の割に、落ち着きがある。
視野も広い。
そう、感心していると。
「おっ、早速センセーの世話焼いてんのか! 相変わらずフウリはえらいな!!」
「ぎゃっ!?」
赤い短髪の、三白眼が鋭くて笑った口元からギザギザの歯を見せる少年がぐしゃりと無遠慮にフウリさんの頭を撫でてきた。
途端に、フウリさんが潰れたかのような悲鳴を上げる。
少年は、フウリさんの頭をぽんぽんと撫でたかと思うと、ぴょんっと高くジャンプして教卓の上に乗ってきた。
「よっす! 千歳センセー! オレはリクト・ガレーウィル! センセー、さっきのパンチ鋭かったな! なんか武道とかやってたのか?」
「リクトくん、ですね。教卓から降りてください。話はそれからです」
「そうだ! バカリクト! 先生の前で礼儀がなってない!」
フウリさんがリクトくんの襟首を引っ掴んで無理矢理教卓から引きずり下ろす。
ずるずると、ゆっくり床に足を着けたリクトくんは、私とフウリさんを見てニッと笑った。
同時にフウリさんが、がみがみとリクトくんに説教を始める。
心なしか、フウリさんの口調が私に接している時より砕けている。
まあ、教師と生徒で態度が違うのは当たり前なのかもしれない。
「あの二人のこと、気になる? 先生!」
今度は別方向から声が飛んできた。
視線をやると茶髪に首からヘッドホンを下げ、パーカーの背中から翼を生やした少年がにこにことこちらに笑顔を向けていて。
……鳥人、というやつだろうか。
「あ、オレ、テラ! テラ・トンプソン! よろしくね、先生! リクトとフウリちゃんのことなら気にしなくていいよ。いつも通りのことだから! あの二人、幼馴染なんだよねー」
「……なるほど」
「で、さっきリクトが聞いてたけど先生ってなんか武道とかやってんの? やってないの?」
「別にやっていませんよ。学生時代、住んでいた地区が比較的荒れていたので降りかかる火の粉を払っていたら自然と鍛えられましたが」
「おおっ! 元ヤンだ!」
「断じて違います」
淡々と答える私に対し、テラくんは妙に嬉しそうで、親しげだ。
そんな賑やかな生徒たちに囲まれ、少しはこの空気に溶け込めているのかと思えた頃。
視界の端に居た、予習中であろう小夜さんと一瞬目が合って。
気まずそうにふい、と視線を逸らされた瞬間――どうしようもなく、胸が苦しくなった。
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