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第三話『貴方はいい子よ』
その8 らぶりーらぶりー・あんどあいらびゅー
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★貴方の隣で呼吸がしたい。 第三話『あなたはいい子よ』その8 らぶりーらぶりー・あんどあいらびゅー
teller:タクト・マックスウェル
今日のシニユ・アルワンテは、いつもと鬱陶しさの種類が違った。
いつもの猫みたいな気まぐれな雰囲気の裏っかわに、浮ついた弾むようなふわふわした雰囲気が見える。錯覚として。
そんないつもと少し違う笑顔で、いつもと少し違う足取りで。
帰路を一人往く俺にアルワンテは勝手に纏わりついている。うっぜ。
「んだよ、今日は一段とぽやっぽやして。花かなんかが舞って飛んで来そうでうざってえ。撃つぞ」
「にゃひひ、にゃひっ」
銃身をちらつかせても、アルワンテは中身を伴わない笑い声を上げて、スキップするかのように軽やかに、俺を少しだけ追い越す。
高い位置から不安定に姿勢を傾けてくるアルワンテと視線が合った。強制的に。
「にゃひ。知ってました? タクトくん? シニユさんって素敵な女性なんですって」
「は? 頭沸いてんのか?」
「にゃひひ、沸いてますよ、あたま。嬉しくて」
本当に機嫌が良いらしい。
いつもののらりくらりとした空気が、今日はほんの少しだけ晴れやかさがある。
雲の合間みたいな、仄かな温度がそこにあった。
妙に生温い空気の中、秘密を少しだけ打ち明けるような、少しふざけたトーンでアルワンテはこしょこしょと言う。
「ここだけの話なんですけどさ。ずーっと言ってなかったんですけどもね。シニユさんね、シニユさんにもね。なーんか、かわいくなりたいなーって思ってた時期もあるわけですよ。なれませんでしたけどね。笑っちゃいますけどね。にゃひ、にゃふふ」
自虐的な台詞に眉を顰める。
そりゃ他人の自虐なんて大抵はつまらない。
だけど俺が引っかかったのはそこじゃなくて。
こいつは、自分の影の部分をこんな風に表に出すやつだったろうか。
もっとこいつは狡猾で陰鬱だった。
生まれ持った不死鳥の炎に照らされて誤魔化しているだけで、こいつはずっとそうだった。俺が知る限り。
それが苦手だった。本音を巧妙に隠して俺の安全を侵そうとしてくるこいつが、俺は嫌いだったのに。
「銃、まだ手放さないわけねー、タクトくんはさ。ちぃ先生にあんなにキレられてた癖に」
「……手放せるかよ」
だって銃は、俺を守る武器で魔法。
非力な俺の安全を守り、俺の気力を呼び起こす。
それもまあ、あの千歳センセーには通じなかったわけだが。それでも俺は、この銃が――好き、なんだと思う。だから手放せるわけがない。
俺が銃への愛着に浸っていると、気を散らすように視界がアルワンテが割り込んでくる。
今日もこいつは、俺の世界を簡単に壊す。
だからそれが、とても気に食わないわけだ。
「シニユさんが言われて嬉しかった言葉を、アレンジしてタクトくんにも伝えますですのさ」
上機嫌の理由を、喜びを、幸せを、勝手に押し付けてくる。巻き込んでくる。
侵略行為にも程があるそれを、アルワンテは見慣れちまった掴みどころのない笑顔で実行してきた。
「タクトくん、いい子ですよ。とても、いい子。頑張り屋さんの、強い子。にゃひひ、にゃひ、シニユさんはわかってますよ」
「……うっぜ。嬉しくねーよそれ。ってかついてくんな」
「えー? やだよやですよ、ついてきますよ諦めませんて」
次の言葉を紡ぐ声色は、やっぱり新鮮だった。
いつもと似たフレーズなのに、諦観がいつもより少ない台詞が、ただただ世界に響く。
「諦め悪いんですよ。シニユさん不死鳥なんで、なーんどでも立ち上がれちゃうわけなんだなあ」
ああなるほど、確かに。
目の前で笑う不死鳥は、何かを生き直してる気がした。それも今から。この瞬間から。
――そんな運命的な瞬間に俺を巻き込むな。
溜息混じりで足早になる俺のすぐ傍で、新しく燃えた光はからころと揺れて笑っていた。
うるせ。
teller:タクト・マックスウェル
今日のシニユ・アルワンテは、いつもと鬱陶しさの種類が違った。
いつもの猫みたいな気まぐれな雰囲気の裏っかわに、浮ついた弾むようなふわふわした雰囲気が見える。錯覚として。
そんないつもと少し違う笑顔で、いつもと少し違う足取りで。
帰路を一人往く俺にアルワンテは勝手に纏わりついている。うっぜ。
「んだよ、今日は一段とぽやっぽやして。花かなんかが舞って飛んで来そうでうざってえ。撃つぞ」
「にゃひひ、にゃひっ」
銃身をちらつかせても、アルワンテは中身を伴わない笑い声を上げて、スキップするかのように軽やかに、俺を少しだけ追い越す。
高い位置から不安定に姿勢を傾けてくるアルワンテと視線が合った。強制的に。
「にゃひ。知ってました? タクトくん? シニユさんって素敵な女性なんですって」
「は? 頭沸いてんのか?」
「にゃひひ、沸いてますよ、あたま。嬉しくて」
本当に機嫌が良いらしい。
いつもののらりくらりとした空気が、今日はほんの少しだけ晴れやかさがある。
雲の合間みたいな、仄かな温度がそこにあった。
妙に生温い空気の中、秘密を少しだけ打ち明けるような、少しふざけたトーンでアルワンテはこしょこしょと言う。
「ここだけの話なんですけどさ。ずーっと言ってなかったんですけどもね。シニユさんね、シニユさんにもね。なーんか、かわいくなりたいなーって思ってた時期もあるわけですよ。なれませんでしたけどね。笑っちゃいますけどね。にゃひ、にゃふふ」
自虐的な台詞に眉を顰める。
そりゃ他人の自虐なんて大抵はつまらない。
だけど俺が引っかかったのはそこじゃなくて。
こいつは、自分の影の部分をこんな風に表に出すやつだったろうか。
もっとこいつは狡猾で陰鬱だった。
生まれ持った不死鳥の炎に照らされて誤魔化しているだけで、こいつはずっとそうだった。俺が知る限り。
それが苦手だった。本音を巧妙に隠して俺の安全を侵そうとしてくるこいつが、俺は嫌いだったのに。
「銃、まだ手放さないわけねー、タクトくんはさ。ちぃ先生にあんなにキレられてた癖に」
「……手放せるかよ」
だって銃は、俺を守る武器で魔法。
非力な俺の安全を守り、俺の気力を呼び起こす。
それもまあ、あの千歳センセーには通じなかったわけだが。それでも俺は、この銃が――好き、なんだと思う。だから手放せるわけがない。
俺が銃への愛着に浸っていると、気を散らすように視界がアルワンテが割り込んでくる。
今日もこいつは、俺の世界を簡単に壊す。
だからそれが、とても気に食わないわけだ。
「シニユさんが言われて嬉しかった言葉を、アレンジしてタクトくんにも伝えますですのさ」
上機嫌の理由を、喜びを、幸せを、勝手に押し付けてくる。巻き込んでくる。
侵略行為にも程があるそれを、アルワンテは見慣れちまった掴みどころのない笑顔で実行してきた。
「タクトくん、いい子ですよ。とても、いい子。頑張り屋さんの、強い子。にゃひひ、にゃひ、シニユさんはわかってますよ」
「……うっぜ。嬉しくねーよそれ。ってかついてくんな」
「えー? やだよやですよ、ついてきますよ諦めませんて」
次の言葉を紡ぐ声色は、やっぱり新鮮だった。
いつもと似たフレーズなのに、諦観がいつもより少ない台詞が、ただただ世界に響く。
「諦め悪いんですよ。シニユさん不死鳥なんで、なーんどでも立ち上がれちゃうわけなんだなあ」
ああなるほど、確かに。
目の前で笑う不死鳥は、何かを生き直してる気がした。それも今から。この瞬間から。
――そんな運命的な瞬間に俺を巻き込むな。
溜息混じりで足早になる俺のすぐ傍で、新しく燃えた光はからころと揺れて笑っていた。
うるせ。
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