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第三話『貴方はいい子よ』
その7 あなたは恐らくきっと可愛い
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★貴方の隣で呼吸がしたい。 第三話『あなたはいい子よ』その7 あなたは恐らくきっと可愛い
「昨日、シニユと二人で話していただろう」
シニユさんと二人で会話を交わした翌日、昼休み。
授業を終えて職員室に向かっている途中、聖くんが急に私の前に立ち塞がった。
杖をついて、にやにやとこちらを見て。
何とも腹立たしい笑みを浮かべる男の子だ。
「……見ていたんですか」
てっきり、聖くんはまたフィーナさんと遊んでいると思ったのだが。
と言うよりもシニユさんに話し掛ける以前に、聖くんがフィーナさんときゃっきゃと話しながら教室を出て行った場面を、私は確かに目撃していた記憶があるのだが。
少し訝しんでいると、聖くんはふふん、と得意気に笑う。
にやり、とますます笑みを色濃くして、彼は胸を張った。
「見ていなくてもわかるさ。なんたっておれは、神様だからね!」
「はあそうですか、凄いですね」
「うん、本気にしてないな? ちぃ」
スルーして聖くんの隣を横切ろうとしたのだが、がしりと腕を掴まれてしまった。
何でもわかるとは、本当に何でもありな神様なのだな、この子は。
「そう冷たくするでないよ、ちぃに冷たくされたら、おれ、泣いちゃうのだよ」
「……私がシニユさんと話していたからと言って、どうだって言うんですか」
「いや、浮気かと思って」
殴った。
ここ数日で、一番力を入れて聖くんを殴ったかもしれない。
もしかしたら、聖くんとフィーナさんを襲っていた魔物を殴った時よりも力を込めてしまったかもしれない。
聖くんががくん、と床に沈む。
と言うか潰れる。
少し動かなくなった彼を冷たく見下ろしていると、聖くんはよろ、と杖を頼りに立ち上がった。
まだ息があったか、しぶとい。
「……ちぃは冗談が通じないよね」
「言っていいことと悪いことがあるでしょう」
聖くんは、私がどれだけ小夜さんを想い、愛し、それ故に現在どれだけ苦しんでいるのか、一番わかっているであろうに。
一番、と言うか、私の気持ちを唯一知り、理解している聖くんに私の愛を軽んじられたことに、無性に腹が立った。
もともと気は短い方かもしれないが、小夜さんが絡むと私はどうも駄目だ。
冷静な思考が一切できなくなる、大人の対応、と言うものができなくなる。
私なんかに導かれる立場の生徒たちが、少々可哀想だな、と思ってしまった。
勿論、その中には聖くんも含まれているが、彼の場合はそこそこ自業自得の割合が多くの比率を占めていると思う。
「あ、シニユだ」
気分を切り換えたのか、聖くんが少し弾んだ声を上げた。
それに何となく反応して私が振り向くと、シニユさんがタクトくんの頭を撫でて構っている場面が視界に映った。
タクトくんに腕を振り払われ、へらへらと退散するシニユさん。
やがてシニユさんが一人になったタイミングで、聖くんがいつもより幾分か軽そうな足取りで彼女に近付いた。
……嫌な予感がした。
「シニユ、シニユ」
「おやまあ、聖くんじゃないかい。どしたの。シニユさんに何か用ですかね?」
「シニユって、タクトのこと、好きなのかね?」
思わず溜息を吐き出した。
やっぱり聖くんはろくなことをしない。
私と小夜さんが付き合ってた頃、散々ちょっかいをかけていた時期と、まるで変わっていない。
確かにシニユさんのタクトくんへの距離感は近い。
でも、いくら男女とは言え、何でもかんでも恋愛に結び付けるのは、それは何だか違うだろう。
あまりにそればかりに囚われていると、大事な感情を見落としそうだから、私は思春期の少年少女を見るといつも心配になる。
……なんて、かく言う私も、良い大人になってから聖くんの指摘で小夜さんへの好意を自覚した身だが。
「へ、あ、ええ……や、ええ?」
突然。
突然、シニユさんの様子がおかしくなった。
いつものにこにこ笑顔が、僅かに崩れる。
少し頬が赤く、明らかに動揺している。
慌てているシニユさんを見て、聖くんが下世話な笑みを浮かべた。
「ほう? その反応を見るに図星――」
「いやいやいや、待った待った待った! そ、そんなんじゃないよー。やだなあ。大体さあ、シニユさんに、そういう女の子らしいこととか似合わなくない? キャラじゃないじゃん」
へらへら、とシニユさんがこの場を取り繕おうとするかのように笑う。
そのどう見ても偽りの笑顔は――あまり好きじゃないな、と思った。
ますますシニユさんをからかう姿勢に入った聖くんを止めるべく、襟首を強く引っ掴む。
勢いが良すぎて首が絞まったのか、ぐえ、と聖くんが声を上げた。
まあこの程度の痛み、聖くんは甘んじて受け入れるべきだろう。
私は聖くんをシニユさんから引き離し、呟く。
「……女性らしい事柄が似合わないなど、そう自分を卑下しなくてもいいのでは?」
「ふぎゃっ!? ちぃ先生までシニユさんをからかう気ですか!?」
「断じて違います。あなたがタクトくんをどういった意味で気に入っているかなんて、あなたの自由ですから。追及する気はありません。ただ」
「……ただ?」
「どういった形であれ、他人を思いやれる貴方は、素敵な女性だと思いますよ」
シニユさんがぽかん、と口を開いた。
珍しい表情だった。
しばらく静寂に世界は包まれたわけだが、それはようやっとシニユさんの下手くそな笑い声で破られて。
「あは……あはは、やだなあ。ちぃ先生、あんまそういうこと女の子に言ってると、勘違いされちゃうよー」
「……それは困るので、肝に銘じておきます。私には、心に決めた人がいるので」
しん。
さっきとは別の意味で、私たち三人の間に静寂が訪れる。
ただ一人、聖くんが笑いを堪えるように肩を震わせていて、それにとても腹が立ったのでもう一発強く頭を殴っておいた。
「昨日、シニユと二人で話していただろう」
シニユさんと二人で会話を交わした翌日、昼休み。
授業を終えて職員室に向かっている途中、聖くんが急に私の前に立ち塞がった。
杖をついて、にやにやとこちらを見て。
何とも腹立たしい笑みを浮かべる男の子だ。
「……見ていたんですか」
てっきり、聖くんはまたフィーナさんと遊んでいると思ったのだが。
と言うよりもシニユさんに話し掛ける以前に、聖くんがフィーナさんときゃっきゃと話しながら教室を出て行った場面を、私は確かに目撃していた記憶があるのだが。
少し訝しんでいると、聖くんはふふん、と得意気に笑う。
にやり、とますます笑みを色濃くして、彼は胸を張った。
「見ていなくてもわかるさ。なんたっておれは、神様だからね!」
「はあそうですか、凄いですね」
「うん、本気にしてないな? ちぃ」
スルーして聖くんの隣を横切ろうとしたのだが、がしりと腕を掴まれてしまった。
何でもわかるとは、本当に何でもありな神様なのだな、この子は。
「そう冷たくするでないよ、ちぃに冷たくされたら、おれ、泣いちゃうのだよ」
「……私がシニユさんと話していたからと言って、どうだって言うんですか」
「いや、浮気かと思って」
殴った。
ここ数日で、一番力を入れて聖くんを殴ったかもしれない。
もしかしたら、聖くんとフィーナさんを襲っていた魔物を殴った時よりも力を込めてしまったかもしれない。
聖くんががくん、と床に沈む。
と言うか潰れる。
少し動かなくなった彼を冷たく見下ろしていると、聖くんはよろ、と杖を頼りに立ち上がった。
まだ息があったか、しぶとい。
「……ちぃは冗談が通じないよね」
「言っていいことと悪いことがあるでしょう」
聖くんは、私がどれだけ小夜さんを想い、愛し、それ故に現在どれだけ苦しんでいるのか、一番わかっているであろうに。
一番、と言うか、私の気持ちを唯一知り、理解している聖くんに私の愛を軽んじられたことに、無性に腹が立った。
もともと気は短い方かもしれないが、小夜さんが絡むと私はどうも駄目だ。
冷静な思考が一切できなくなる、大人の対応、と言うものができなくなる。
私なんかに導かれる立場の生徒たちが、少々可哀想だな、と思ってしまった。
勿論、その中には聖くんも含まれているが、彼の場合はそこそこ自業自得の割合が多くの比率を占めていると思う。
「あ、シニユだ」
気分を切り換えたのか、聖くんが少し弾んだ声を上げた。
それに何となく反応して私が振り向くと、シニユさんがタクトくんの頭を撫でて構っている場面が視界に映った。
タクトくんに腕を振り払われ、へらへらと退散するシニユさん。
やがてシニユさんが一人になったタイミングで、聖くんがいつもより幾分か軽そうな足取りで彼女に近付いた。
……嫌な予感がした。
「シニユ、シニユ」
「おやまあ、聖くんじゃないかい。どしたの。シニユさんに何か用ですかね?」
「シニユって、タクトのこと、好きなのかね?」
思わず溜息を吐き出した。
やっぱり聖くんはろくなことをしない。
私と小夜さんが付き合ってた頃、散々ちょっかいをかけていた時期と、まるで変わっていない。
確かにシニユさんのタクトくんへの距離感は近い。
でも、いくら男女とは言え、何でもかんでも恋愛に結び付けるのは、それは何だか違うだろう。
あまりにそればかりに囚われていると、大事な感情を見落としそうだから、私は思春期の少年少女を見るといつも心配になる。
……なんて、かく言う私も、良い大人になってから聖くんの指摘で小夜さんへの好意を自覚した身だが。
「へ、あ、ええ……や、ええ?」
突然。
突然、シニユさんの様子がおかしくなった。
いつものにこにこ笑顔が、僅かに崩れる。
少し頬が赤く、明らかに動揺している。
慌てているシニユさんを見て、聖くんが下世話な笑みを浮かべた。
「ほう? その反応を見るに図星――」
「いやいやいや、待った待った待った! そ、そんなんじゃないよー。やだなあ。大体さあ、シニユさんに、そういう女の子らしいこととか似合わなくない? キャラじゃないじゃん」
へらへら、とシニユさんがこの場を取り繕おうとするかのように笑う。
そのどう見ても偽りの笑顔は――あまり好きじゃないな、と思った。
ますますシニユさんをからかう姿勢に入った聖くんを止めるべく、襟首を強く引っ掴む。
勢いが良すぎて首が絞まったのか、ぐえ、と聖くんが声を上げた。
まあこの程度の痛み、聖くんは甘んじて受け入れるべきだろう。
私は聖くんをシニユさんから引き離し、呟く。
「……女性らしい事柄が似合わないなど、そう自分を卑下しなくてもいいのでは?」
「ふぎゃっ!? ちぃ先生までシニユさんをからかう気ですか!?」
「断じて違います。あなたがタクトくんをどういった意味で気に入っているかなんて、あなたの自由ですから。追及する気はありません。ただ」
「……ただ?」
「どういった形であれ、他人を思いやれる貴方は、素敵な女性だと思いますよ」
シニユさんがぽかん、と口を開いた。
珍しい表情だった。
しばらく静寂に世界は包まれたわけだが、それはようやっとシニユさんの下手くそな笑い声で破られて。
「あは……あはは、やだなあ。ちぃ先生、あんまそういうこと女の子に言ってると、勘違いされちゃうよー」
「……それは困るので、肝に銘じておきます。私には、心に決めた人がいるので」
しん。
さっきとは別の意味で、私たち三人の間に静寂が訪れる。
ただ一人、聖くんが笑いを堪えるように肩を震わせていて、それにとても腹が立ったのでもう一発強く頭を殴っておいた。
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