オンラインゲームから戻れなくなったので、世界一を目指します。

武田龍流

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序章 運命

第3話 準備

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 土曜日の午前10時ごろ、日之元家、晴人の部屋
「お前ん家、結構広いよなー」
「まぁな。親父が結構稼いでるからな」
VRヘッドセットを取りだしながら「おかげで、こうしてやりたいことも、好きにやらしてくれる」と言って電源を入れた。起動を確認した晴人が、パソコンに一本のケーブルを繋ぐと、モニターにクロスタのホーム画面が映し出される。両手に握っているコントローラーで操作し、メニューから練習モードを開始する。
「よしっ、準備オッケー。じゃ、説明するねー」
「よろしく」
「まず、大きな違いから。パソコン版だと、三人称視点がデフォルトなんだけど、VR版は一人称視点しか、選べないようになってる。これは、ジャイロセンサーによる視点操作を、前提としているからなんだ」
晴人が首を動かすと、それに連動して同じ方向へと、キャラの見ている景色も回転する。
「はいはい。確かに、他の視点でプレイするなら、別の媒体でいいからね」
「あぁ、視点が気になるんだったら、この両手に持ってるコントローラーを、そのままPC版に接続すればいいからな」
「それって、全部のVR機器がPC対応ってことなの?」
「いいや、俺のはPC対応だけど、VR専用のやつもある」
「なるほどね」
「操作説明に戻るけど、俺のやつは、攻撃と固有アクションをモーション操作で、移動とジャンプやスキル発動とかは、ボタンとスティックでやってる」
「モーション操作って何?」
「パソコン版だと、それぞれ攻撃のキーを押すと、対応した攻撃が発動するだろ?それを、腕の動きで行うんだ。見てもらったほうが、わかると思う」
そう言って晴人は、腰の鞘に納刀されている剣に、手を掛けるようなポーズを取った。画面に移る剣士のキャラが、それに連動する。
「抜刀!」
掛け声に合わせ、晴人が勢いよく腕を振ると、キャラもその剣を引き抜いていた。続けて、腕を横に振ると、キャラが横薙ぎの攻撃を繰り出す。また、右下から左上へと腕を振れば、キャラは切り上げジャンプ攻撃を行う。
「ぉお、すご」
「な、凄いだろ。ただし、デタラメに動かしたり、元々のキャラができない動きをしても、攻撃は発動しない」
「つまり、しっかり真似をしないといけないわけだ」
「そういうこと。次はお前の番だ」
ケーブルを引き抜き、ヘッドセットを外した晴人から、それを受け取って装着する。すると、さっきまでモニターで観ていた景色が、目の前に立体映像として広がってゆく。高音質のヘッドホンからは、キャラの息遣いや風などの環境音が、微かだがはっきりと聞こえる。
「あ~、ヤバい。もうこれ、ゲームの世界じゃん」
「だろ?これでいつもやってるんだぜ」
「羨ましい限りですわ」
「あ、左薬指のボタンで一旦ホームに戻って、キャラとサブスキル構成とか変えていいよ」
「わかった」
人薬指のボタンから、退室を選択してホームにもどり、キャラ選択から《水の大魔導師 ヴァッサーラ》を選んで、練習モードに再び入る。
「えーと、ヴァッサーラって確かこう…」
腕を右から上へ一回転させ、左へ少し溜めてから右前に突き出す。それと同時に、背後から水の弾丸が発射され、ダミー人形を撃ち抜いた。
「やった!できたできた!お次は…」
両腕を下から真上に掲げ、真横に振り払う。すると、水の塊の壁が現れ、一瞬にして破裂した。発動したのは、ヴァッサーラの固有アクション《水式魔導防御壁すいしきまどうぼうぎょへきれつ》である。その後、様々な技やキャラを試し、だいたいの操作を一通り覚えた。
「練習は済んだか?」
「ああ、だいたい理解した」
「それじゃ、タイマンしようぜ」
「OK」
「部屋、作るわ。11853」
メニューのバトルルーム検索から番号を入力し、バトルに参加する。お相手は、晴人のサブアカウントの《伝説の英雄 アーサー》だ。対して俺が使うのは、持ちキャラの内の一つ《双剣の曲芸師 アクロバ》である。
「ヴァッサーラじゃないんだね」
「まだ使用回数に不安が…。そっちこそ、PC版で大丈夫なの?」
「お互いに不慣れな方がフェアだろ?といっても、最初は俺もPC勢だったんだけど(笑)」
「なんだよ(笑)やるからには本気だかんな。負けても言い訳は無しだぞ」
「わかったわかった。それじゃ、始めんぞ」
バトル開始のボタンが押され、ロード画面に移る。数秒後に1VS1専用のバトルフィールドが上空から映し出され、各スタート地点に俺と晴人のキャラが立っている。そして、カメラがキャラの前に移動し、それぞれ開始前の決め台詞を放つ。
『オイラのショーに加わりたい?やられ役なら空いてるよー』
『我が剣の前に立つというのなら、斬らせてもらいます!』
その後カメラが暗転し、一人称の視点に戻る。中央の〈READY?〉の表示が〈BATTLE START〉と変わり、文字通りバトルが開始される。開幕早々俺は、アクロバの固有アクション《伸縮自在の双剣》を使い、片方の剣を投擲して、台の壁面に突き刺す。そして、両方の剣を繋ぐワイヤーを縮ませて、刺さった剣の所まで移動し、台の上に飛び乗る。するとアーサーも、ジャンプ攻撃を使って上がって来た。壇上でお互いに睨み合い、剣を構える。
『ハァっ!』
アーサーが固有アクションの《英雄の覇気》を使用し、周囲に衝撃波が発生すると共に、金色のオーラを纏った。このオーラがある数秒間は、移動速度上昇と防御力無視が付与される。その次の瞬間には駆け出し、凄まじい速度で、アクロバとの距離を詰めて攻撃してくる。俺の反応が一瞬遅れ、回避が間に合わず攻撃を喰らう。耐力が少しだけ残ったが、すぐさま追撃の刃が飛んで来て、撃破されてしまう。
「いや、めっちゃ怖いんだけど」
一人称視点故に、目の前に男性が高速で斬りかかってくるわけで、血こそ出ずとも普通にホラーである。
「そりゃ、最初はそうよ。でも慣れるしかないんだなぁ~、これが」
そう言ってキルカメラで、挑発アピールをする晴人。数秒後にアクロバの身体が再構成リスポーンされると「ほらどうした?まだ1分も経ってないぞ~」と煽りを重ねる。
「やってやらぁ」
「ふん、やれるもんならな」
俺はアクロバを走らせ、剣を再び投擲する。今度の狙いはアーサーだ。速度の乗った剣は威力は増すものの、その分読まれやすく、攻撃によって軌道を逸らされてしまった。しかし、俺の狙いは直撃ではない。アクロバがもう片方の剣の柄をアーサーの方へ振り、ワイヤーが巻きついて拘束する。
「あ、やべっ」
ワイヤーを縮め、拘束状態にあるアーサーに、アクロバがパンチやキックでダメージを与える。アーサーの耐力が半分の所でワイヤーが解け、覇気を放ってダッシュによる反撃を仕掛けて来る。それを華麗にジャンプして回避し、再び投擲を行う。またアーサーには当たらなかったが、さっきと同じく柄を振った。しかし、ジャンプによって回避され、ワイヤーは空振ってしまう。それでもアクロバは、ハンマー投げのように振り回して、再びアーサーを狙う。だが、しっかり回避されて、また距離を詰められてしまい、アクロバも剣を引き戻して接近戦に対応する。アーサーの剣撃を受け止めながら、相手の隙を伺って反撃を刺し込んでいき、手数で着実にダメージを与えていく。だが、耐力が少なくなったところで、一旦距離を取られてしまった。回復させまいと剣を投擲するも、覇気の衝撃波で弾かれてしまい、引き戻している間に急接近してくる。防御力無視の攻撃の前では、あらゆる防御も無意味だ。その間は回避で何とかしないといけないが、回避後の後隙中に、至近距離での覇気によってよろけさせられ、そのまま倒されてしまう。
「あーも~、アーサーの固有アクションが強すぎるって」
「アレ?言い訳は無しじゃなかった?」
「畜生」
そのままバトルは続いたが、アーサーを倒すことはできなかった。
「でも、初めてにしては上出来よ」
バトル中は煽ってきた晴人が、慰めの言葉をかけてくる。
「うっさいやい。もっかいだ、もっかい」
「OK」
そうして数時間もの間、お昼休憩を挟みながらもタイマンバトルを繰り返した。慣れてきた俺は、段々と相手を倒せる回数も増え、勝ち試合数も多くなっていった。
「もうこんな時間か」
時計の針は5時半を指していた。
「それじゃ、そろそろ帰るわ」
「送ってくよ」
「いいよ。悪いし」
「お前、肝心なこと忘れてるだろ?」
「あ、」
晴人の提案で、あの話しは帰り道で話すことにした。
「それで、どう思う?」
「電脳空間テレポーテーション版のクロスタねぇ」
「やっぱり、VR版みたいになるのかな?」
「その可能性は高いね。俺のは、腕と頭の動きしか反映できないけど、上位グレードには手や指だったり、足や胴体まで反映できるものもあるから、モーション操作の部分は確定でいい」
「じゃあ、今回の練習は大当たりだね」
「そうなんだけど…」
「けど?」
「問題は感覚の方だ。現実と同等に感じるってことは、恐怖や苦痛も発生するわけだから」
「うわぁ、ゲームまで痛いのは嫌なんだが」
「それに、恐怖もVRの比じゃないはず」
「どうしよ、断ろっかな」
「まぁ、そこら辺の対策はしてると思うから大丈夫じゃね」
「うん…」
「VRは楽しかったろ?」
「うん。ぶっちゃけ欲しくなった。PCに戻れないかも」
「あれ以上のクオリティーでクロスタができるって、考えると…俺には想像できん」
「確かにあれ以上って考えると、めっちゃワクワクするな」
「帰ってきて、「もうあれ以外には戻れない」とか言いそうだな」
「あるかもな」
「こんなことなら、俺も応募すれば良かったぁ」
「当選者には、二人分もの席はありませんので」
「は ら た つ わぁ」
「ドンマイ」
そうこうしている内に、俺の家に到着する。
「それじゃ、また」
「あぁ、またな」
玄関を開けて「ただいまー」と言うと、お母さんが台所から出てくる。
「おかえり。夕飯できてるから、手を洗って来てね」
「わかった」
「あとそれと、お父さん、来週の土曜に、車出してくれるって。伝えて欲しいこととかあったら、教えてちょうだいね」
「うん、わかった」
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