オンラインゲームから戻れなくなったので、世界一を目指します。

武田龍流

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序章 運命

第4話 転移

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 土曜日の朝8時ごろ、東首都へ向かう茂龗家の車内
「お父さん」
「なんだ?颯」
「いつも仕事で疲れてて、休みの日ぐらいゆっくりしたいはずなのに、付き合ってくれてありがと」
それを聞いて、お父さんは嬉しそうに笑う。
「なーんだ、そんなことか。いいんだよ颯、お父さんもクロスタやってるし、月一の生放送を見るために、取ったような休みだからね」
「そうだったんだ」
「そうだったんだよ。にしても、まさか息子が当選するとはなぁ。羨ましいよ」
何に当選したのか、よくわかっていないお母さんが「それで、何に当選したの?」とお父さんに尋ねる。
「国の誇る最先端技術の一般テスターだよ。全世界から数十万もの応募者の中から、颯だけが当選したんだ」
「それって凄いのね。最先端技術については、お母さんよく分からないけど、数十万から一人ってだけで、何となくわかるわ」
「そうだ颯、向こうには何時に着いていればいいんだ?」
あ、そういえば詳しい予定、伝えられてなかったな。昨日になってスケジュールが公開されたので、仕方ないのだが。
「11時半、そこから、だいたい1時間の練習と準備をして、そのあと本番の1時間をするって感じ」
「じゃあ、それまでに朝食を取って観光して、用事が終わったら昼飯にしよう」
「わかった」
9時ちょっと過ぎ、東首都に到着した茂龗家一行は、朝食を済ませた後、色んな観光地を巡って、記念写真を撮ったり、食べ歩きなどをした。いつぶりだろうか、こうして家族全員で旅行するのは。そうして、楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。
「そろそろ時間か、研究所に向かうとしようか」
車に乗り込み、ナビを設定して目的地に向かう。東首都電脳科学研究所は、都心部から少し離れた位置にあり、住宅街を抜けた先で見えてきた。木々で囲まれた広大な敷地に、複数の建物で構成される研究所の横を通り、警備員の誘導に従って駐車場へ向かう。駐車場入口の役員の人に入場許可証を見せ、車を指定された場所に駐車させて、受付に向かう。正面玄関から建物に入ると、受付カウンターの隣に立っていた研究員の男性が、こちらに歩いてくる。
「こんにちは、あなた方が茂龗さん一家で間違いありませんか?」
「はい、私は父親の茂龗はやとです。こちらは妻の恵美めぐみと息子の颯です。本日は息子がお世話になります」
「私は電脳空間テレポーテーション研究の第一人者、水谷みずたに工奇こうき研究員です。あなたが颯さんですね?よろしく」
そう言って、俺に握手を求める。俺は差し出された手を取って「よろしくお願いします!」と元気よく返す。
「元気があって、いいですね。それでは、研究室に案内します」
水谷さんについていき、階段を一つ登って第四研究室と書かれた部屋に到着する。俺たちが研究室に入ると、そこには様々なケーブルに繋がれた装置と、大きなモニターやベットなどが置いてあった。
「わぁ、凄いですね。この装置がテレポーテーションさせるやつですか?」
数ある装置の中で、俺はテーブルに置いてある、いかにもそれっぽいヘルメットが気になった。
「それは頭部の構造をスキャンし、脳の信号を読み取る部分ですね。本体はこっちです」
水谷さんが指を指したのは、ベッドの横に置いてある、モノリスのような装置だった。
「コイツが、ベッド型スキャナーとヘルメット型スキャナーの両方から得た情報を処理し、電脳空間へと身体を構築させる装置です」
「へー、これもただのベッドではないんですね」
「ええ、使用者がリラックスした状態で自然にスキャンするには、この形が最適なんです」
「研究者って凄いですね。そこまで考えてるなんて」
「このくらい当たり前ですよ。準備がよろしければ、始めましょうか」
「はい!」
俺は水谷さんの指示に従って、専用のパジャマに着替えてベッドに横たわり、ヘルメットを装着する。
「電脳空間形成開始、データ管理システム起動、転移者スキャン開始」
おぉ、ワクワクしてきた。水谷さんがパソコンを操作し、声に出して確認しつつ、ひとつひとつ手順をこなしていく。
「電脳空間形成完了、データ管理システム準備完了、転移者構成プログラム調整開始」
隣りのモノリスがランプを点滅させ、僅かに電子音を発する。
「転移者スキャン完了、転移者構成プログラム調整終了、これから転移を開始します。大丈夫ですか?颯さん」
「はい」
するとお母さんが「いってらっしゃい」と微笑んだ。俺も、いつもの学校に行くように「いってきます」と返した。
「それでは…、転移開始!」
水谷さんがエンターキーを叩く音とともに、俺は意識を失った。そうして暗闇の中をさまよっていると、一点の光が射し込んだ。白い部屋の真ん中で、光の粒子がキラキラと、一人の少年の身体を構築していく。完成された身体に意識が入り、俺は目覚めた。
「ここは…」
窓もドアも家具もない。真っ白で無機質な部屋で、颯は自分の状態を確認する。衣類はさっきのパジャマを着ており、手や足はいつもと変わらないようにちゃんと動く。触れた感覚や空気の感触もある。
ハァー、フー
息の温度差もいつもと同じ、つねってみても「いたっ」と痛覚も存在する。ジャンプしてみたり、走ったりしてみても、重力や身体能力にも変化はない。
「ここは、現実なのか?それとも…」
照明もなしに明るい部屋を、不思議に思いながらうろついていると、壁にテレビが形成される。電源ボタンを試しに押してみると、第四研究室の映像が映し出され、こちらを水谷さんと両親が見ていた。そして、ベッドの上には俺の姿があった。
「颯さん、調子はどうですか?」
スピーカーから水谷さんの声がする。
「ここは、やっぱり電脳空間の中なんですか?」
「勿論、我々の創った電脳空間です。凄いでしょう?本当はその部屋が、現実と地続きで繋がっているのではないかと、錯覚する人も居るぐらいですから」
「お~い颯ー、お父さんが見えるかー」
後ろで手を振っているお父さん。リモコンが目の前に現れたので、それを使ってカメラを操作して、お父さんの方へと向けてズームする。
「見えるよー」
「ならよかったー」
なんだろうか、俺と両親との物質的な距離は近い筈なのに、何故か画面を通して映る光景には、とてつもない距離を感じていた。これがいわゆる、次元を隔てた壁なのだろうか?
「颯さん、大丈夫ですか?良ければ軽いウォーミングアップを行いますが?」
「えぇ、大丈夫です。それでウォーミングアップとは?」
すると白い部屋がテニスコートに変化し、服装も体育着になっていた。
「目の前のテニスラケットを取ってください。そうしたら定位置について、テニスボールを打ち返して下さい」
「わかりました」
テニスなら、学校の授業で軽くやっているし、打ち返すくらいならそれなりにできる。矢印の指している位置に立つと、何処からかホイッスルが鳴り、ポリゴン体のキャラクターが出現する。ポリゴン体はカゴに入ったボールを手に取って、サーブを打った。球速はそこまでなく、余裕をもって打ち返す。その後もポリゴン体は、サーブ以外にも様々なボールを放ち、段々と俺の余裕と体力を削っていく。ボールに追いつくことが難しくなってきた所で、ポリゴン体は消滅し、ウォーミングアップが終了する。
「お疲れ様、いい運動になりましたか?」
「あぁ、すげぇな。疲労感まで、しっかり再現させれてるなんて…」
「一応カットすることもできますが、戻った際の影響を考えると、忠実に再現しておいた方がいいですから」
「そう、なんですね…」
「もうそろそろ、クロスタの生放送が始まります。こちらも準備しましょう」
「わかりました」

 同日昼12時ごろ、マシマゲームズ社内スタジオ
「始まりました、今月のクロスタ公式生放送ことクロスタステーション!司会はわたくしななシンと」
「ゲームプロデューサーのヤマダPでお送りします」
「よろしくお願いしまーす」
「よろしくお願い致します」
「それでは、今回の生放送のタイムスケジュールを説明しまーす。バババンと」
七シンが手元の端末から、スライドを表示する。
「始めには、クロスタ部による活動記録のコーナー、その次が白熱!ゲスト陣とのエンジョイバトル!そして、有名歌い手によるライブステージことミュージックロスタ、ガチ勢によるガチガチバトルの5月大会決勝戦、最後にクロスタ最新情報をお届けするクロスタNEXTになります」
「いや~今回も盛りだくさんですね」
「そうですね、私的には今回の見所は、なんと言っても二番目のコーナーね。私、落選しましたから」
「すいません、事前に省かせてもらいました」
「酷いよヤマダP~」
「七シンさんには生放送の仕事があるので、そこはご了承下さい」
「もう仕方ありませんね。私は特等席で観させてもらいますから、国の誇る最先端技術の性能とやらをね」
「今回、電脳科学研究所さんの協力による企画なので、普段と一味違ったバトルになると思います」
「それは楽しみですね。ではヤマダPさん、いつものお願いしまーす」
「はい。では、クロスタってどんなゲームなのか、復習を兼ねて軽くご説明致します。スライドの方お願い致します」
「はーい」
「《クロス・スター・オンライン》とは、様々な世界から個性豊かな《スター》が集まり、戦場にて《クロス》するリアルタイム《オンライン》対戦アクションゲームになります。自分だけのスターとスキルを組み合わせて、沢山のゲームモードで他プレイヤーと競い合ったり、ストーリーモードでスターの世界を体験してみたり、スターの見た目を自分好みにカスタマイズしたり、コミュニティや集会所で仲間との交流を楽しむことができます」
「毎度毎度ありがとうございます。ぶっちゃけ、この生放送の視聴者は、だいたいクロスタプレイヤーだから、もうそろそろ要らない気がしてきますが」
「まだ要望があるので、今後もやります」
「はい、そんなクロスタの魅力をお伝えする生放送が、クロスタステーション(通称クロステ)でございます。では最初のコーナーと参りましょう。どうぞー」
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