オンラインゲームから戻れなくなったので、世界一を目指します。

武田龍流

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序章 運命

第5話 実践

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 生放送を電脳空間内のテレビで観ながら、俺は運営の用意した専用アカウントで、クロスタにログインする。すると、白い部屋が取り払われ、クロスタのホーム空間へと変化した。目の前には、初期設定のアーサーが立っており『お帰りなさい主殿あるじどの』と出迎えてくれた。とりあえず、宙に浮いているメニューをタッチしてみると、その中から沢山の項目が出現する。
「なるほど、ここはVRとの差は、ほぼないんだね」
キャラ選択画面へ移動して、使用キャラをアクロバに変更し、あとは適当にサブスキルを選んで、練習モードを起動する。いつも通り背景が黒くなってロードに入ったのだが、そこでいつもと違う変化が起こった。
「な、なんだ!?」
つま先からキラキラとエフェクトが発生し、徐々に上に向かって身体を昇っていく。
「だ、大丈夫なんですかこれ?」
「それは演出の一部なので、心配する必要はないですよ」
水谷さんの言葉を聞いて、俺は安心した。だが、全身を包むこのエフェクトは、一体どういう意味があるのだろうか?数秒後に俺は、それを理解することとなった。
「来たか?」
練習モードが開始され、俺は自由に動くことが出来るようになる。
「うわぁ、すご」
VRでは感じられなかった空気や装備の感触に、より鮮明でリアルに広がったバトルフィールド、光や影の表現も強化されている。クロスタでありながら現実味がある、もはや別世界に迷い込んでしまったかのようだ。しかし、その没入感を邪魔する要素が、ひとつだけあった。
「なんか変だな」
目線や声、手足の感覚が変だ。まるで自分が自分ではない、全くの別人のものであるかのようだった。まさかと思った俺は、水谷さんにひとつのお願いをしてみる。
「水谷さん。今の自分の姿って、ここから確認できますか?」
「元々の機能にないから、どうだろう?ちょっと試してみます」
数分間のタイピング音を経て「よし、完成した」と水谷さんがエンターキーを叩いた。すると、俺の目の前に鏡が出現する。そこに写し出された姿は、やはり…。
「お…俺、ゲームのキャラになってる!?」
さっき選択したアクロバが、そこに立っていた。俺が動けば、反転したアクロバも動き、俺が止まれば、反転したアクロバも止まる。
「それじゃあ、これは?」
試しに剣を振ってみる。
「はっ、せいっ、やぁっ!」
すると、予想通りに攻撃モーションが発生した。ここはVRと同じようだが、身体が勝手に動かされ、感覚がそれに追随するため、イメージにズレが発生する。
「あ、あーあーあー。あかさたなはまやらわ」
それに、動きだけではなく、声もアクロバのものになっているのだが、合成音声のためか、まだ多少の不自然さがあった。だが慣れてくれば、俺とアクロバが一体化しているように感じれた。
「おぉ…、これ変だけど、おもしろいな」
そうして、鏡の前で色々と動いて遊んでいると、手から片方の剣がすっぽ抜けた。それが、その先にあるダミー人形に突き刺さると、それを起点に攻撃モーションを誤って発生させてしまう。
「あ…、やばってうわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
その発動させてしまった攻撃は、アクロバの固有スキルである、《オイラの得意技!双剣アクロバット連撃》だった。目標一体に対して剣を当て、ワイヤーによる急接近から、連撃や空中移動に投げなど、様々な攻撃へ派生が可能な固有スキルである。
「た、たすけてぇえぇぇぇぇぇぇ」
この攻撃中は無敵で、一度発生するとコンボを完走するまで、誰にも止める術はない。その間、俺の身体は勝手に動き回させられることとなった。
「はぁっ、はぁっ、地獄を見た」
「大丈夫ですか颯さん?」
「あぁ、なんとか…。てか、こいつらって、いつもこんなことやってんのか…」
人知を超えたスピードで攻撃と移動を繰り出す身体、それを体感しているにも関わらず、俺には何が起きているのか、全く理解できなかった。いつもは外側から見て、状況とタイミングに合わせて、キーを押しているだけでよかった。しかし、自分の身を使うとなるとこのザマだ。こんな調子で、本番が上手く行くとは思えなかった。
「出番まで、あと何分ですか?」
「15分ですけど」
15分か…、それまでに、このキャラだけでも仕上げないと。そう決意した俺は、再び剣を投げた。

 同日昼12時半、マシマゲームズ社内スタジオ
「はい、クロスタ撮影部の皆さん、今回も素敵な写真をありがとうございましたー」
「ありがとうございました。いや~、凄かったですね。シーズン報酬のスキルと必殺技の組み合わせで、あんなワンショットが撮れるなんて思いませんでした。開発陣一同、今後も撮りがいや遊びがいのあるスキルを開発していきますので、応援の方をお願い致します」
「はい、お願い致します。ヤマダPのテンションが上がってきた所で、お次はこのコーナーです。白熱!ゲスト陣とのエンジョイバトル!」
スタジオ内が拍手や歓声で埋まる。
「それでは、ゲストお二人に登場してもらいましょう。どうぞー」
司会の合図で、舞台裏からゲストが登場し、カメラが向けられる。ゲストの内一人が男性で、もう一人はドグノラフィーのコスプレをした女性だ。
「どうも~、公式イラストレーターの山彦やまひこです~。よろしくお願いしまーす」
「そして、公式コスプレイヤーの46犬よろけんです。よろしくー」
ゲスト二人が自己紹介を終えると、スタジオが再び拍手で包まれる。
「山彦先生、46犬さん、よろしくお願いします。皆さんご存知の方はご存知かもしれませんが、お二人について軽い説明の方をさせていただきます。まずは、山彦先生の方から…」

 同刻クロスタ内、クロステ出演者用控え集会所
もうすぐ始まるな。そう思うと色々な緊張が抑えられない。
『かなり緊張が激しいようですが、大丈夫ですか?』
専用回線で水谷さんが心配をかけてくる。
「大丈夫です。むしろ、この状況で緊張しない方がおかしいですし」
微笑しながら『それはそうですね』と返事が帰ってくる。
『緊張状態を軽減するプログラムもありますから、必要になったら言って下さい』
「了解です」
そのとき、視界の端に効果音とともに通知が現れる。
〈電脳プレイヤー Xさん、まもなく出番です〉
この《電脳プレイヤー X》が、運営が用意したアカウント名だ。
「あ、呼ばれたので行きます」
『わかりました。頑張って下さい』
「はい!」
俺は元気よく応え、通信を切ろうとする。その切り際に、お父さんの「頑張れ~颯~!」の応援の声が聞こえたような気がした。お父さん、俺、頑張るよ。
「………」
出口へと向かう颯のその後ろ姿を、ただ見つめる一人の男が居た。
「覇王さん、どうかしましたか?」
覇王と呼ばれた男は、隣に立っていた男性に振り返ると、「なんでもないが」とだけ言ってベンチに腰をかけた。

 場面はスタジオに戻り、七シンがボードを使って、今回のバトルルール《チームフラッグ》の説明を始めようとしていた。
「では、今回のバトルルールについて説明します。《チームフラッグ》バトルとは、三対三の二チームに別れ、タイムアップまでにバトルフィールド上のフラッグを、より多く占領している方が勝利するルールとなっております」
手馴れたようにボードをひっくり返し、裏面に切り替える。
「今回はゲスト+αチームVS視聴者さんチームでの戦いとなります。参加の方は、このあとバトルルーム番号を発表していくので、メニューのバトルルーム検索から入力して下さい。参加は先着三名の早い者勝ちとなります。二回目以降のバトル参加は弾かせていただきますので、ご注意下さい」
説明をしている間に、ゲストの二人が準備を完了する。
「お、準備ができたようなので、始めましょうか」
七シンがタブレットの画面を見て、順に五つの数字を読み上げる。
「1…4…7…9…0、いいですか?14790ですよ、早い者勝ちですからね」
その言葉をいい切る前に、視聴者チームのメンバーが埋まる。
「お、早いですね~。では最初のバトル行ってみましょう!」
七シンの「せーの」に合わせて、一同がいつものバトル開始の掛け声を叫ぶ。
「「「「レッツ、クロススタート!」」」」
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