25 / 122
第24話 面影と零点
しおりを挟む「どうだ、ワシに傷ひとつでもつけてみよ。そうしたら話を聞いてやらんでもない。」
どこぞで聞き覚えのあるようなセリフ。
腹が立つが、傷ひとつつける以前に近づくことができるのか疑問だった。
そもそも武器がない。
「動かぬか。・・・動けぬか、ならばワシが動かねばな。」
ーブオオオゥウウウー
槍を右から左へ払っただけで、凄い太刀風だ。
「やるしかないのか。」
「・・・あの場所へ。」
頭の中でローラの声がする。なぜヒソヒソ話?
「だって、ドクロのおっちゃん、とぉーちょーしてんだもん。」
盗聴?ユウジたちが脳内で話していたことに気づいていたからだろうか。
「・・・ユウジ様、ユウジ様。右150度約150m。壁の側面2m上でございます。」
メルさん、あなたも内緒話ですか?ノリノリですね。
言葉を通じるようにしてくれたためか、単位が分かるようになったので言っていることの意味は分る。
「・・・来ますっ!」
ーズシュッッッッッゥゥゥゥッァァァー
先ほどより鋭い突きが正確にユウジに襲いかかる。
これはいけない。
「回転魔法陣、同時展開!分離してっ!」
同じ向きの回転する魔法陣がユウジの体を挟んだ。
瞬間に体の前に現れた魔法陣の風で真後ろの魔法陣に吸い込まれるユウジ。
「うわっ」
次の瞬間、背中から魔法陣が飛び出る。
「推進円陣、各自点火!必要数、自動で!」
背中にまた別の魔法陣が複数出て空中で姿勢を整えてくれる。
ーゴゴゴォオオオンー
遅れて前後の遠い場所から轟音がする。
緊急回避の技として、ユウジの体に攻撃が到達しそうな場合、その場所に魔法陣を展開する。
弾く場合は魔法陣の回転掃き出し口を相手に向ける。
強力な攻撃でその場にいると余剰の攻撃力でユウジが危険な場合は、魔法陣の回転吸い込み口を攻撃の来る方向に向け、衝撃力自体を空間転移させるのだ。
この場合、ユウジの後ろにもう一枚魔法陣を起動させ安全な後方に亜空間を移動させ退避させた。
そして魂座の槍の威力はもっと後方に出口を設定しておいた。
「・・・ユウジ、100mだからね。」ローラが告げる。
「・・・ユウジ様、約100m退きました。」メルが告げる。
なるほど、魂座は100mの言葉の意味は知らなさそうだな。上唇を少し舌で湿らせた。
「じゃ、ローラ、これくらいでよろしく。」
ユウジは親指と人差し指で丸を作った。
瞬間だった。
闇に光が煌めくと槍の衝撃波が乱発された。
ユウジは全面に魔法陣を張りジリジリと下がりながらそのすべての攻撃を吸収して躱す。
どんどんと近づいてくる。大砲のような威力だ。
「化け物がぁ」
思わず叫んでしまう。
「こんなにドッカンドッカンされたら壊れちゃうよう!」
前面に張る魔法陣は円の際が軋む。
衝撃波が放たれる度に、洞窟内が紅い怒りの色に染まる。
左右に飛んでも追いかけてくる。
魂座の槍の威力は周りの地面をもくり抜き、尋常ではない量の波石の破片を飛ばす。
「還流防壁!回しちゃってぇー」
ローラは、前面の魔方陣を強固にするためとこれらの破片の弾丸からユウジを守るため、圧縮した空気の膜をユウジに纏わせていく。
風が透明な鎧となりその身を守る。弾丸や爆風による破片などは通さない。
「敵、急速に近づくっ!上っ!」
天井の波石が一直線に殺気の赤を放つ。
ユウジは左右に盾のように魔方陣を生み出す。
そして右肘をあげ、その先にある魔方陣に右手を突っ込む。
「飽きたぞ!」
魂座は渾身の力で槍を叩きつけてきた。
ユウジは右の魔方陣から紅蓮の炎を引き出すと笑顔で左の魔方陣へ飛び込み、天井に仕込んだ魔方陣に即座に転移し、後ろから魂座に向かって振り下ろす。
真っ赤に燃える紅玉の瞳を
ーガキィィィンー
魂座は突くために前にあったハズの槍をすでに後ろに回していた。
紅玉の瞳の渾身の一撃はすんでで防がれている。
炎は骸骨の身を焼かない。すでに煉獄の火に焼かれつくした言わんばかりに。
「ほおう。驚いたな。」
ユウジは飛びのきざまに魔方陣で距離を取る。
「今のに反応するか。迅すぎるな。」
ローラの言う100mは空間転移を使用できる距離、メルのいう100mはユウジとマチルダの距離を測るものだったのだ。
つまり、攻撃を躱すと同時に100m後退してマチルダに近づき、100mの空間転移可能範囲で壁に刺さった紅玉の瞳を引き抜いて攻撃しようという腹だった。
苦肉の策が防がれて、焦るユウジの脳内に能天気な声が溢れた。
「マチルダぁ、おかえりぃ」
「ああ、お役に立てなくてすまない。いきなりの事で身動きが取れなくてね。」
「今、大変ですの」
これは場所を問わず女子会が始まりそうだ。
「マチルダ殿もそちらへ?」
ほんの少しの間なのに懐かしさを覚える。
「ああ、状況は最悪みたいね。協力させてもらうわ。」
元気そうな声に少し安心する。
「じゃぁ、マチルダ、火器管制お願い。メルその分の演算能力を表示機能と通信機能の充実に回して!」
「わかりましたわ」
パッと3人娘が目の前に現れた。でも実物がいるわけではない。
「スクリーン表示に私達の美しい姿を反映できるようにしました。追従モードは酔いますので部分固定モードにしますね。」
メルが自信満々の報告をしてくる。
「美しいのは分かるが、その格好は・・・。」
ツルツルの動きやすそうな服だが、なんというか・・・体の線が刺激的というか。
「こういうのはお約束なの!」
上半身だけ表示されているローラが騒いでいる。
どこの世界の約束なのだ?
「そんなことより、あの化け物はどうする気だい?」
ローラが消え、マチルダが表示された。ローラがうるさいのでメルが設定変更したようだ。
「あの間合いで、マチルダの攻撃を凌ぐのだからだな。」
手詰まりに近い、みんなどう思うと言いたい。
「言っても私、懐剣だからね。炎はオプションなのよ。」
マチルダがスクリーンの左で訴える。
「え、そうなのか?」
「そう、本来の使用目的と違うから・・・」
「来るっ!」メルがスクリーン右上で叫ぶ。
ーズガァアァァァァァッー
「何を呆けておる。」
あまりに至近距離で突きが放たれたために魔方陣で受けたが、槍は円陣の中に入ったままである。
「ほおう、おもしろい技だな。」
ーガッー
ユウジはマチルダの炎で首を掻き切ることを狙った。
しかしそれは魂座の兜の前立てに阻まれている。
俯く姿勢になったその兜の下に一瞬、生身の顔が覗いた。
・・・ユウジは見覚えのある顔のような気がした。
「!?」
次の瞬間、魂座は右手の槍を手放し、左手でユウジの首を絞めた。
すかさず右手は腰の刀の柄を握る。
このまま胴を薙ぐ気だ。
「どれ、顔を見せてみよ。面影があるか」
何を考えたのか知らないが一瞬、顔が近づいた。
ードギュゥゥゥンー
魂座は右胸を貫かれていた。・・・自らの槍で。
「・・・・零点接触」
その左手の手のひらには、ユウジが親指と人差し指で作った丸より少し大きめの回転魔法陣が光っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる