天蓋村の不可解な求人広告について

月影 朔

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第一部:ウェブ・ドキュメント『天蓋村(てんがいむら)に関する報告』

第6話:資料No.006(アルバイト情報誌)1992年

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【資料No.006】
資料種別: アルバイト情報誌のアーカイブ(スキャン画像)
発行年: 1992年

(雑誌紙面記録)

週刊チャンス! 1992年5月18日号

【〇〇県北エリアのシゴトを探すならココ!】

職種: スーパーマーケット 品出し・商品陳列スタッフ
店名: フレッシュマートてんがい
場所: 旧天蓋村(※)
給与: 時給 1,000円 (交通費全額支給)
資格:年齢・経験不問。コツコツ作業が好きな方。人よりも長く息を止められる方、歓迎いたします。
応募: まずはお気軽に下記までお電話ください!
※勤務地は天蓋ダム建設予定地に含まれますが、営業は継続しております。


【調査担当者による注釈】
「天蓋村」――この水没した地名を特定したことで、私の調査は新たな段階に入った。

これまでの闇雲なキーワード検索ではなく、「天蓋村」を軸に過去のあらゆる記録を再調査する。
それが、水底に沈められた真実へと至る唯一の道だと確信した。

調査対象を、インターネット以前の使い捨てられがちな情報媒体――地方のアルバイト情報誌のバックナンバーへと切り替えた。

そして、1992年5月の一冊に、私は探し求めていた名前を発見した。

「フレッシュマートてんがい」。

募集内容はスーパーの早朝品出し。
時給1,000円は、当時の地方としては好条件だ。
だが、私の目は「資格」の欄に釘付けになった。

「人よりも長く息を止められる方、歓迎いたします」

第四の異常な条件。
これまでの受動的な身体特徴とは異なり、これは訓練によって獲得される「能力」だ。
当然、スーパーの品出し業務にこの能力が役立つ場面は存在しない。

「天蓋村」という文脈を得た今、この一文は、何らかの目的を持った「選別」の基準として、おぞましいリアリティを帯びていた。

長く息を止められる能力が求められる状況とは、水中での活動か、あるいは空気の薄い場所での作業か。

さらに重要なのは、この広告が掲載された「時代」である。
1992年は、天蓋ダム建設が本格化し、住民の移転が始まっていた時期だ。

広告の「※勤務地は天蓋ダム建設予定地に含まれますが、営業は継続しております」  という注釈が、その事実を生々しく裏付ける。

水没の運命が確定し、村が死に向かう真っ只中で、このスーパーは不可解な条件で人を募集し続けていたのだ。
まるで、沈みゆく船の上で、船員とは無関係な特殊技能者を探しているかのように。

この発見は、天蓋村の「選別」が、紙媒体の時代から執拗に続けられてきたことを証明した。

時代に合わせて媒体や職種という「皮」を変えながら、核となる「異常な条件」だけは決して揺るがない。

私の手元には「瞬き」「対称性」「絶対音感」「無呼吸」という、巨大なジグソーパズルのピースが揃いつつあった。

この村が、一体何のために外部から特殊な人間を「集め」続けてきたのか。
その根源を突き止めるため、私の調査はさらに深く、過去へと遡っていく。
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