天蓋村の不可解な求人広告について

月影 朔

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第一部:ウェブ・ドキュメント『天蓋村(てんがいむら)に関する報告』

第8話:資料No.008(求人雑誌)1973年

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【資料No.008】
資料種別: 求人雑誌のアーカイブ(マイクロフィルム) 
発行年: 1973年 

(雑誌紙面記録)

週刊シゴト 1973年8月6日号 

【〇〇県北エリア】豊かな自然の中で働こう!観光・レジャーのお仕事 

職種: 山荘「てんがい」厨房スタッフ(皿洗い・清掃) 
場所: 〇〇県天蓋村 国設天蓋山ロッジ内 
給与: 日給 5,000円 (住み込み、3食付き) 
応募資格: 年齢・学歴不問、心身ともに健康な方。 走幅跳を5m以上跳べる方。 
特記事項: 立位体前屈が-5cm以上の方(体が硬い方、大歓迎)。 
一ヶ月以内に5kg以上体重が増えたことがある方、優遇します。 
応募: 下記住所まで、履歴書を郵送してください。書類選考後、通過者のみに面接日時を電報でお知らせします。 

天蓋観光開発公社 採用係 


【調査担当者による注釈】
調査の針を、高度経済成長期の終焉とオイルショックに揺れる1973年へと巻き戻す。
マイクロフィルムの薄暗い光の中で、私はその求人広告を発見した。

山荘の厨房スタッフ。
皿洗いや清掃という、典型的な裏方の仕事だ。

だが、「応募資格」と「特記事項」に記された文字列を読んだ瞬間、これまでの違和感が子供の悪戯に思えるほどの、剥き出しの狂気がそこにあった。

走幅跳を5m以上跳べる方 

立位体前屈が-5cm以上の方(体が硬い方、大歓迎) 

一ヶ月以内に5kg以上体重が増えたことがある方、優遇します 

第六、第七、第八の異常な条件。
業務内容との関連性を考察すること自体が無意味だった。
皿洗いに跳躍力や異常な体の硬さ、急激な体重変動経験が求められる理由は、この世界のどんな理屈でも説明できない。

これはもはや「選別」ですらない。
求人広告という体裁を借りた、白昼堂々の「身体測定」である。 

これまでの条件には、まだどこか婉曲的な側面があった。 
しかし、この1973年の広告に隠蔽はない。

優れた脚力、異常な体の硬さ、不安定な体質。 
必要な身体スペックを、カタログから選ぶように無遠慮に羅列している。 

厨房での皿洗いという仕事は、外部から人間を村へ引き入れるための、最も無害な「入り口」に過ぎない。 

この発見は、私の調査における「帰還不能点」となった。 

これまでは知的な謎解きとして客観性を保てたが、この暴力的で具体的な身体的要求を前に、私は悟った。 

これは学術的な探求などではない。 
天蓋村のシステムは、人間の尊厳を消耗品として扱う、冷徹でおぞましい何かそのものだ、と。 

この村の闇は、想像よりも遥かに深く、そして物理的なのだ。
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