天蓋村の不可解な求人広告について

月影 朔

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第二部:ポッドキャスト『深淵アーカイヴ:映画『天蓋村』は現実を映したか?』

第6話:観光ロッジの「素材」

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カイト: 1970年代に入り、狂気が牙を剥き出しにする…。倉田さん、その象徴が、ウェブサイトにも掲載されていた1973年、昭和48年の求人雑誌ですね。リスナーの皆さんにも、その異常性を共有していただきましょう。

[効果音:資料をめくる、乾いた紙の音]

カイト: 募集しているのは、山荘「てんがい」の厨房スタッフ。仕事内容は、皿洗いと清掃です。日給5,000円で住み込み、三食付き。高度経済成長期とはいえ、地方の住み込みバイトとしては、まあまあの条件でしょう。しかし問題は、その「応募資格」と「特記事項」です。よくお聞きください。

[一瞬の間。カイトがゆっくりと読み上げる]


カイト: 「応募資格:走幅跳を5m以上跳べる方」。「特記事項:立位体前屈が-5cm以上の方(体が硬い方、大歓迎)」。

[スタジオに、数秒間の完全な沈黙が流れる]

長谷部: …むう。これは…。これまでのものとは、次元が違いますな。


倉田: ええ。もはや求人広告の体をなしていません。業務内容との関連性を考察すること自体が無意味です。皿洗いに跳躍力や、異常なほどの体の硬さが求められる合理的な理由は、この世界のどこにも存在しない。これは採用活動ではなく、白昼堂々の「身体測定」です。 

カイト: 遠藤さん、心理カウンセラーの視点から、この常軌を逸した要求をどう思われますか? 募集主の異常な心理状態が透けて見えるようですが…。

遠藤: [静かに、しかしはっきりと] …カイトさん、私が気になったのは、応募資格そのものよりも、むしろ「職種」との組み合わせなんです。

カイト: 職種…ですか? 皿洗いという?

遠藤: はい。なぜ、厨房での皿洗いなのでしょうか? この仕事は、観光ロッジという施設の中でも、最も裏方。お客様の目に触れることはほとんどなく、多くの場合、窓もない閉鎖された空間での作業です。もし、募集主の真の目的が、労働力ではなく、この「走幅跳5m以上」「体が極端に硬い」といった、特殊な身体的特徴を持つ人間そのものだったとしたら…?

[BGMの心音が、さらに大きく、ゆっくりになる]

遠藤: 厨房というのは、その“個体”を、他の宿泊客やスタッフに気づかれることなく、静かに施設内へと運び込むのに、最も都合の良い職種なんです。従業員入口から入り、そのまま厨房へ。誰にも見咎められることはありません。

カイト: [息を呑む音] まさか…。

遠藤: [穏やかな口調を崩さずに] ええ。これは労働力を求めているのではありません。まるで精肉業者が、カタログから特定の部位を選ぶように、必要な“素材”を、他者に気づかれずに集める…。そんな冷たい、強い意図を、私は感じてしまうんです。

[効果音:キーンという、金属的で耳障りな音が低く響く]

長谷部: そ…素材、だと…? なんという、おぞましい…。

カイト: [声を震わせながら] 素材…。つまり、働き手としてではなく、何か別の目的のための…“材料”として、人間を選別していると…?

倉田: …遠藤さんのご指摘は、的を射ているのかもしれません。そして、この求人広告が持つ本当の異常性は、まだ他にあります。カイトさん、皆さん、少し視点を変えてみましょう。なぜ募集主は、これほど馬鹿げた条件を、わざわざ広告に明記したのか。

[BGMの心音が止み、完全な静寂が訪れる]
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