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第二部:深まる人間関係と事件の広がり
第六話:閉じた錠の紋様
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神田の鍛冶町に、知る人ぞ知る錠前師、玄造という老人がいた。彼が打つ錠前は、一見すると古風だが、その内部構造は複雑を極め、江戸でも最も破られにくいと評判だった。玄造は引退していたが、かつての依頼で打った特別な錠前の、唯一無二の鋳型(いがた)だけは肌身離さず工房に置いていた。その鋳型が盗まれた、と、今朝早くから町で騒ぎになっていた。
「どこも荒らされてねえんだ! 戸も窓も破られてねえ! 金目のもんは他にあったのに、鋳型だけだ!」
玄造は顔色を変え、工房の前で途方に暮れている。頑丈な複数の錠前で閉められた工房に、無理やり押し入られた形跡は一切ない。まるで、鋳型だけが、壁をすり抜けて消えたようだ。
そして、玄造を最も恐れさせたのは、盗まれたこと自体よりも、残された「証」だった。工房の作業台に置いてあった、完成したばかりの複雑な錠前。それはまだ鍵で一度も開けられていない、閉じたままの状態だった。その錠前の、頑丈な真鍮の枠の内側、鍵穴から覗くことも不可能な場所に、小さな金属製の「紋様」が置かれていたのだ。それは、まるで鳥が羽根を広げたような、あるいは鋭い刃のような、見慣れない、だがどこか冷たい美しさを持つ紋様だった。
「誰が、どうやって、閉じたままの錠前に、こんなものを…」玄造は震えた。「これは人間技じゃねえ…化け物か…」
この奇妙な事件を聞きつけたお絹は、すぐに甚兵衛に伝えた。
「甚兵衛さん、今度は錠前師さんの工房で、大事な鋳型が盗まれたんですって! しかも、閉じたままの錠前の中に、変な紋様が置かれてたって…!」
甚兵衛は、丁度いくつもの小さな歯車とバネが組み合わさった、極めて精密な「自動開閉式文箱」の調整をしているところだった。鍵と機構の複雑さに没頭していた彼は、閉じた錠の中に「紋様」という「異物」が存在するという話に、鋭く反応した。
「閉じた錠の中に異物…それは興味深い。物理的にどうやった? からくりがあるはずだ」
二人は玄造の工房へ向かった。お絹は玄造の落胆ぶりに寄り添い、甚兵衛は工房全体、そして件の錠前をまるで生き物を調べるように見つめた。彼は錠前の表面を指先で撫で、鍵穴を覗き込み、重さを量り、耳を澄ませた。玄造が「誰も気づかない」と言う微細な傷、金属の音の僅かな違い、錠前の繋ぎ目の、肉眼では見えないほどの隙間を、甚兵衛は見つけ出していく。
「この錠前は…玄造さんの最高傑作でしょう。内部構造は複雑を極めている。これを無理に開ければ必ず痕跡が残る。しかし、痕跡がない…つまり、鍵穴から、あるいはどこか別の場所から、内部の構造だけを操作して開けたか、あるいは…」甚兵衛は言葉を切った。彼の目が、紋様が置かれていた場所、そして錠前の内部構造を解析する。
「内部の部品を傷つけずに、この紋様を正確に狙った位置に置く…それは、この錠前の構造を完全に理解しているか、あるいは、内部を操作するための、極めて精緻な『からくり』を使ったかのどちらかだ」
甚兵衛は懐から細い金属棒を取り出した。先端がいくつも枝分かれし、自在に動く自作の「錠前内部探り器」だ。彼はそれを鍵穴に差し込み、錠前の内部構造を確かめるように操作した。
その時、紋様を改めて見た甚兵衛の全身が硬直した。そして、表情から血の気が引いていく。お絹は、甚兵衛がこれまで見せたことのない、底知れない恐怖と怒り、そして痛みが混じったような顔を見た。
「甚兵衛さん…?」お絹は心配して声をかけた。
甚兵衛は、震える声で呟いた。「…これは…奴らの…紋だ」
甚兵衛は、あの紋様に見覚えがあったのだ。それは、彼が武士の世界にいた頃、決して関わってはならないとされていた、裏の世界で暗躍する、ある特定の一団の紋様だった。そして、閉じたままの錠前の中に物を入れるという手口も、彼らが情報を伝えたり、証拠を残したりする際に使う、高度な「からくり」を用いた特殊な技法だった。
お絹は、甚兵衛の尋常でない様子に、背筋が凍る思いだった。彼女は町の噂や、玄造の商売敵、そして「ある筋」について聞き集めた情報を、甚兵衛の言葉と結びつけようとする。玄造の錠前は、裕福な商人や、時には武家屋敷でも使われている。彼らがこの鋳型を盗み、そしてあの紋様を残したということは、彼らの目的が、単なる金品ではない、より大きな何かであること、そして江戸の町の「鍵」そのものを支配しようとしている可能性を示唆していた。
甚兵衛は、自身の「錠前内部探り器」と、極限まで細く研磨された特殊な刃物のような道具を使い、玄造に見せた。
「犯人は、このような道具…『錠前操作用遠隔からくり』とでも呼ぶべきものを使った」
甚兵衛は、錠前の鍵穴や、目に見えないほどの微細な隙間を通して、どのように内部の部品を操作し、紋様を中に滑り込ませたかの原理を解説し、実演してみせた。それは、指先ほどの空間で行われる、まさに神業のような「からくり」だった。
「このようなからくりを扱えるのは、限られた人間だ。そして、この紋様…それは『影』と呼ばれる一団の紋だ」
甚兵衛は、玄造とお絹に、その一団が情報の操作、工作、そして要人の暗殺まで行う、冷酷で高度な技術を持った集団であることを、差し障りのない範囲で伝えた。彼らの目的は常に、表舞台の権力や富を裏から操ることだ。
犯人は、玄造の錠前破りを依頼されたわけではなく、鋳型そのものを手に入れる必要があったのだ。それは、今後彼らが江戸の様々な場所へ「入る」ため、あるいは彼らの活動を隠蔽するための、新たな「鍵」を作り出すためかもしれない。
玄造は、自分の工房にそんな恐ろしい連中が忍び込み、そしてあの紋様を残していったと知り、恐怖に震え上がった。長年打ち込んできた「鍵」の世界が、裏社会の暗部と繋がっていたことに、職人としての誇りも傷つけられた。
事件そのものの犯人(実行犯)は、この時点ではまだ特定できなかった。しかし、最も重要なこと――「ある筋」の正体の一端、そして彼らが江戸で活動を開始していること、そしてその活動が甚兵衛の過去と直接繋がっていること――が明らかになったのだ。鋳型は戻らず、玄造の落胆は深かったが、甚兵衛とお絹は、化け物ではなかったことに安堵させ、玄造を襲ったのは、人間の中でも最も危険な部類であること、そして自分たちが必ず真相を追うことを誓った。
長屋に戻る道すがら、甚兵衛は口を閉ざしたままだった。その横顔には、重い決意と、そして深い憂いが刻まれている。
「甚兵衛さん…あの紋様…本当に、そんな恐ろしい連中のものなんですか?」お絹が尋ねた。
甚兵衛は立ち止まり、お絹の手を強く握った。
「間違いない。奴らは『影』…私が、二度と関わるまいと、捨てたはずの連中だ」
甚兵衛はお絹の目を見つめ、続けた。「彼らは、私が過去にいた世界…武家の争いや、裏の策謀に関わっている。そして、その『からくり』を、今、江戸の町で使い始めている」
彼の握る手に力がこもる。
「このまま放っておけば、長屋にも…お前にも危険が及ぶだろう」甚兵衛は静かに、だがはっきりと決意を告げた。「…逃げるわけにはいかない。奴らの好きにはさせない」
甚兵衛の言葉には、長屋の発明家ではない、過去の顔が垣間見えた。お絹は、甚兵衛がどれほど危険な世界から来たのか、そして、その危険が自分たちのすぐそばに迫っていることを肌で感じ、身震いした。しかし、同時に、自分や長屋を守ろうとする甚兵衛の強い意志に触れ、彼のそばにいる決意を固めた。錠前師玄造の事件は、単なる一話完結の事件ではなく、甚兵衛とお絹が、彼の過去と繋がる巨大な「影」という敵と対峙する、長編の物語の始まりを告げるものだった。江戸の町に、そしてからくり長屋に、真の危機が迫り始めていた。
「どこも荒らされてねえんだ! 戸も窓も破られてねえ! 金目のもんは他にあったのに、鋳型だけだ!」
玄造は顔色を変え、工房の前で途方に暮れている。頑丈な複数の錠前で閉められた工房に、無理やり押し入られた形跡は一切ない。まるで、鋳型だけが、壁をすり抜けて消えたようだ。
そして、玄造を最も恐れさせたのは、盗まれたこと自体よりも、残された「証」だった。工房の作業台に置いてあった、完成したばかりの複雑な錠前。それはまだ鍵で一度も開けられていない、閉じたままの状態だった。その錠前の、頑丈な真鍮の枠の内側、鍵穴から覗くことも不可能な場所に、小さな金属製の「紋様」が置かれていたのだ。それは、まるで鳥が羽根を広げたような、あるいは鋭い刃のような、見慣れない、だがどこか冷たい美しさを持つ紋様だった。
「誰が、どうやって、閉じたままの錠前に、こんなものを…」玄造は震えた。「これは人間技じゃねえ…化け物か…」
この奇妙な事件を聞きつけたお絹は、すぐに甚兵衛に伝えた。
「甚兵衛さん、今度は錠前師さんの工房で、大事な鋳型が盗まれたんですって! しかも、閉じたままの錠前の中に、変な紋様が置かれてたって…!」
甚兵衛は、丁度いくつもの小さな歯車とバネが組み合わさった、極めて精密な「自動開閉式文箱」の調整をしているところだった。鍵と機構の複雑さに没頭していた彼は、閉じた錠の中に「紋様」という「異物」が存在するという話に、鋭く反応した。
「閉じた錠の中に異物…それは興味深い。物理的にどうやった? からくりがあるはずだ」
二人は玄造の工房へ向かった。お絹は玄造の落胆ぶりに寄り添い、甚兵衛は工房全体、そして件の錠前をまるで生き物を調べるように見つめた。彼は錠前の表面を指先で撫で、鍵穴を覗き込み、重さを量り、耳を澄ませた。玄造が「誰も気づかない」と言う微細な傷、金属の音の僅かな違い、錠前の繋ぎ目の、肉眼では見えないほどの隙間を、甚兵衛は見つけ出していく。
「この錠前は…玄造さんの最高傑作でしょう。内部構造は複雑を極めている。これを無理に開ければ必ず痕跡が残る。しかし、痕跡がない…つまり、鍵穴から、あるいはどこか別の場所から、内部の構造だけを操作して開けたか、あるいは…」甚兵衛は言葉を切った。彼の目が、紋様が置かれていた場所、そして錠前の内部構造を解析する。
「内部の部品を傷つけずに、この紋様を正確に狙った位置に置く…それは、この錠前の構造を完全に理解しているか、あるいは、内部を操作するための、極めて精緻な『からくり』を使ったかのどちらかだ」
甚兵衛は懐から細い金属棒を取り出した。先端がいくつも枝分かれし、自在に動く自作の「錠前内部探り器」だ。彼はそれを鍵穴に差し込み、錠前の内部構造を確かめるように操作した。
その時、紋様を改めて見た甚兵衛の全身が硬直した。そして、表情から血の気が引いていく。お絹は、甚兵衛がこれまで見せたことのない、底知れない恐怖と怒り、そして痛みが混じったような顔を見た。
「甚兵衛さん…?」お絹は心配して声をかけた。
甚兵衛は、震える声で呟いた。「…これは…奴らの…紋だ」
甚兵衛は、あの紋様に見覚えがあったのだ。それは、彼が武士の世界にいた頃、決して関わってはならないとされていた、裏の世界で暗躍する、ある特定の一団の紋様だった。そして、閉じたままの錠前の中に物を入れるという手口も、彼らが情報を伝えたり、証拠を残したりする際に使う、高度な「からくり」を用いた特殊な技法だった。
お絹は、甚兵衛の尋常でない様子に、背筋が凍る思いだった。彼女は町の噂や、玄造の商売敵、そして「ある筋」について聞き集めた情報を、甚兵衛の言葉と結びつけようとする。玄造の錠前は、裕福な商人や、時には武家屋敷でも使われている。彼らがこの鋳型を盗み、そしてあの紋様を残したということは、彼らの目的が、単なる金品ではない、より大きな何かであること、そして江戸の町の「鍵」そのものを支配しようとしている可能性を示唆していた。
甚兵衛は、自身の「錠前内部探り器」と、極限まで細く研磨された特殊な刃物のような道具を使い、玄造に見せた。
「犯人は、このような道具…『錠前操作用遠隔からくり』とでも呼ぶべきものを使った」
甚兵衛は、錠前の鍵穴や、目に見えないほどの微細な隙間を通して、どのように内部の部品を操作し、紋様を中に滑り込ませたかの原理を解説し、実演してみせた。それは、指先ほどの空間で行われる、まさに神業のような「からくり」だった。
「このようなからくりを扱えるのは、限られた人間だ。そして、この紋様…それは『影』と呼ばれる一団の紋だ」
甚兵衛は、玄造とお絹に、その一団が情報の操作、工作、そして要人の暗殺まで行う、冷酷で高度な技術を持った集団であることを、差し障りのない範囲で伝えた。彼らの目的は常に、表舞台の権力や富を裏から操ることだ。
犯人は、玄造の錠前破りを依頼されたわけではなく、鋳型そのものを手に入れる必要があったのだ。それは、今後彼らが江戸の様々な場所へ「入る」ため、あるいは彼らの活動を隠蔽するための、新たな「鍵」を作り出すためかもしれない。
玄造は、自分の工房にそんな恐ろしい連中が忍び込み、そしてあの紋様を残していったと知り、恐怖に震え上がった。長年打ち込んできた「鍵」の世界が、裏社会の暗部と繋がっていたことに、職人としての誇りも傷つけられた。
事件そのものの犯人(実行犯)は、この時点ではまだ特定できなかった。しかし、最も重要なこと――「ある筋」の正体の一端、そして彼らが江戸で活動を開始していること、そしてその活動が甚兵衛の過去と直接繋がっていること――が明らかになったのだ。鋳型は戻らず、玄造の落胆は深かったが、甚兵衛とお絹は、化け物ではなかったことに安堵させ、玄造を襲ったのは、人間の中でも最も危険な部類であること、そして自分たちが必ず真相を追うことを誓った。
長屋に戻る道すがら、甚兵衛は口を閉ざしたままだった。その横顔には、重い決意と、そして深い憂いが刻まれている。
「甚兵衛さん…あの紋様…本当に、そんな恐ろしい連中のものなんですか?」お絹が尋ねた。
甚兵衛は立ち止まり、お絹の手を強く握った。
「間違いない。奴らは『影』…私が、二度と関わるまいと、捨てたはずの連中だ」
甚兵衛はお絹の目を見つめ、続けた。「彼らは、私が過去にいた世界…武家の争いや、裏の策謀に関わっている。そして、その『からくり』を、今、江戸の町で使い始めている」
彼の握る手に力がこもる。
「このまま放っておけば、長屋にも…お前にも危険が及ぶだろう」甚兵衛は静かに、だがはっきりと決意を告げた。「…逃げるわけにはいかない。奴らの好きにはさせない」
甚兵衛の言葉には、長屋の発明家ではない、過去の顔が垣間見えた。お絹は、甚兵衛がどれほど危険な世界から来たのか、そして、その危険が自分たちのすぐそばに迫っていることを肌で感じ、身震いした。しかし、同時に、自分や長屋を守ろうとする甚兵衛の強い意志に触れ、彼のそばにいる決意を固めた。錠前師玄造の事件は、単なる一話完結の事件ではなく、甚兵衛とお絹が、彼の過去と繋がる巨大な「影」という敵と対峙する、長編の物語の始まりを告げるものだった。江戸の町に、そしてからくり長屋に、真の危機が迫り始めていた。
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