5 / 64
第二部:深まる人間関係と事件の広がり
第五話:見えない糸操り
しおりを挟む
江戸の町には、辻番所や札辻といった場所に、重要な知らせや定書、人探しなどの高札が貼り出される場所がある。人々が集まり、情報を得るための、いわば町の心臓部だ。しかし、時にはその情報そのものが、人知れず操作されることがある。
今朝、瓦師組合の親方が、青い顔で長屋の大家のもとに駆け込んできた。彼が昨夜、町の高札場に貼り出した、組合の重要な会合の日時を記した高札が、一晩のうちに書き換えられていたというのだ。会合の日時が一日ずらされており、このままでは多くの組合員が混乱し、甚大な損害が出る。
「誰かの悪戯か? いや、こんな真似ができるほど字が上手い奴は組合にはいねえ。それに、夜中は番人も立ってたはずだ!」
親方は途方に暮れている。高札はしっかりと貼り付けられ、容易には剥がせない。書き換えられた部分も、元の墨の上に重ねて書かれているのではなく、まるでその部分だけ紙が張り替えられ、そこに別の文字が書かれたかのようだ。しかも、元の文字とそっくりな筆跡で。
「見えない賊が、高札を張り替えたってんですかい? また変な事件ですいね」お絹は、この話を聞いて甚兵衛に伝えた。甚兵衛は、丁度細い糸と、それを巻き取る小さな滑車、そして特定の方向に糸を誘導するアームを組み合わせた、奇妙な「遠隔操作式筆運び機」を試作しているところだった。遠く離れた場所から筆を動かして文字を書けないかと実験しているらしい。
「高札の書き換え…しかも部分的に、筆跡を真似て…」甚兵衛の目が、実験道具から光を放つ。「そして、番人も気づかず、貼り替えられた痕跡も薄い。これは、高度な技術と、それを隠すための『からくり』が使われている」
甚兵衛は、お絹と共に高札場へと向かった。彼は騒ぐ親方や組合員には目もくれず、高札そのものを、そして周囲の状況を注意深く観察する。書き換えられた部分の紙の質感、墨の濃淡、貼り付けに使われた糊のわずかなはみ出し、そして、張り替えられた部分の周囲に残された、肉眼ではほとんど見えないような微細な傷。
「紙は薄く、元の高札の上に重ねて貼られているのではない。切り抜いて、そこに新しい紙片を嵌め込んだのだ。そして、その切り口は…」甚兵衛は懐から小さな虫眼鏡と、これも自作の「微細切断痕検出器」という、刃物の切れ味を測るような道具を取り出した。「非常に鋭利で、かつ極めて薄い刃で切られている。普通の小刀ではない…特定の用途に特化された道具だ」
さらに、甚兵衛は糊の跡を調べ、その成分にわずかに変わったものが混ざっていることを指摘した。そして、高札全体を指先で叩き、特定の場所の音が僅かに違うことに気づいた。
「高札を貼り付けた板に、裏側からアクセスできる細工が施されている。そこから手を入れ、裏で高札を固定している糊を剥がし、切り抜いた部分の紙片を交換し、再び糊付けして貼り直したのだ」
甚兵衛は断言した。「番人に見つからず、しかも短時間で行うには、高度な技術と、そして…この作業を遠隔で行うための『からくり』が必要だ。私の『遠隔操作式筆運び機』の応用…いや、それをさらに複雑で精密にしたような…」
甚兵衛はそこで言葉を切った。彼の顔に、再び硬い表情が浮かんだ。あの、第3話で見せた、武士だった頃の彼を思わせる、凍てついた表情だ。
お絹は、瓦師組合の内部事情、親方と対立する者、組合に入り込もうとしている外部の勢力、そして最近高札場付近で不審な人物を見かけなかったかなどを聞き回った。すると、数日前から、身なりの良い浪人風の男が高札場を頻繁に訪れていたという情報や、組合の利権を狙う、町の裏で糸を引く「ある筋」の者がいるという噂を耳にした。
「甚兵衛さん、あの…また『ある筋』って名前が出ました。それに、妙な浪人が来てたとか…」お絹は心配そうに言った。甚兵衛の様子が、前回にも増して尋常ではないと感じたからだ。
甚兵衛は、お絹の情報と、自身の分析で得た「からくり」の手法を結びつけた。高札板の裏の細工、薄く鋭利な刃、特殊な糊、そして遠隔操作式の「からくり」。それらは、彼がかつて属していた世界、情報の操作や工作を専門とする組織が使う技術と酷似していたのだ。
「あの『からくり』…間違いない。私が知っている連中の手法だ」甚兵衛は低い声で言った。彼の脳裏に、過去の訓練の日々、そして危険な任務の記憶が蘇る。文字の切り抜き、糊の成分、板の裏の細工…全てに彼らが使う「署名」が見て取れた。
甚兵衛は、自身の「遠隔操作式筆運び機」の原理を使い、高札の裏の細工と、そこからどのように高札を操作したかの「からくり」を再現してみせた。細い糸とアームを使い、裏から紙片を外し、新しいものを嵌め込み、糊付けする…それは見事な、そして恐ろしい技術だった。
「このようなからくりを使い、しかも筆跡まで似せられる人間…そして、瓦師組合の会合を混乱させる動機がある人間だ」甚兵衛は犯人像を絞り込んだ。「お絹、あの浪人風の男について詳しく調べてくれ」
お絹は、持ち前の人当たりの良さで、浪人風の男の足取りを探った。彼は、瓦師組合の商売敵である別の組合と繋がりがあること、そして、件の「ある筋」の末端の者である可能性が高いことが分かった。彼の目的は、会合を混乱させ、瓦師組合の力を弱めることだったのだ。
甚兵衛は、その浪人風の男を問い詰めた。甚兵衛が、彼が使ったであろう「高札操作用からくり」の原理と、彼が「ある筋」の者であることを示唆すると、男は観念した。彼は、その「からくり」は上から渡されたもので、自分は言われた通りに高札を操作しただけだと白状した。筆跡を似せたのは、彼に指示を出した別の者だという。
事件そのものは解決した。瓦師組合の親方は、甚兵衛とお絹のおかげで混乱を避けられたことに感謝した。高札の書き換えという奇妙な事件は、人間の欲と、それを実行するための高度な「からくり」、そしてその裏に潜む組織の存在を浮き彫りにした。
しかし、甚兵衛の心に安堵はなかった。自分が捨てたはずの過去の影は、思っていた以上に近くまで迫っていたのだ。そして、今回捕まえたのは末端の者。糸を引く「ある筋」の本体は、依然として闇の中にいる。
長屋に戻る道すがら、甚兵衛は無言だった。お絹は彼の隣を歩きながら、その緊張を感じていた。
「甚兵衛さん…あの、大丈夫ですか?」お絹は尋ねた。
甚兵衛は立ち止まり、顔を上げた。その目には、長屋の発明家には似つかわしくない、厳しい光が宿っていた。
「大丈夫ではない。奴らは動き始めている」
彼は、お絹の手を取った。その手に力がこもる。
「私が知っている連中だ。彼らの『からくり』は、町の日常を、人々の心を、静かに、だが確実に操作する」
甚兵衛は真っ直ぐにお絹を見つめた。「私の過去が、お前や…この長屋にまで影を落とすかもしれない。危険になる前に…」
甚兵衛の言葉は、別れの予感を孕んでいた。お絹は、甚兵衛の過去がどれほど危険なものか、そしてそれが自分たちの日常を脅かし始めていることを実感し、胸が締め付けられる思いだった。瓦師組合の事件は、単なる一件の捕物ではなく、長編の物語の歯車が、本格的に回り始めたことを告げるものだった。江戸の町に、そしてからくり長屋に、見えない糸が張り巡らされようとしていた。
今朝、瓦師組合の親方が、青い顔で長屋の大家のもとに駆け込んできた。彼が昨夜、町の高札場に貼り出した、組合の重要な会合の日時を記した高札が、一晩のうちに書き換えられていたというのだ。会合の日時が一日ずらされており、このままでは多くの組合員が混乱し、甚大な損害が出る。
「誰かの悪戯か? いや、こんな真似ができるほど字が上手い奴は組合にはいねえ。それに、夜中は番人も立ってたはずだ!」
親方は途方に暮れている。高札はしっかりと貼り付けられ、容易には剥がせない。書き換えられた部分も、元の墨の上に重ねて書かれているのではなく、まるでその部分だけ紙が張り替えられ、そこに別の文字が書かれたかのようだ。しかも、元の文字とそっくりな筆跡で。
「見えない賊が、高札を張り替えたってんですかい? また変な事件ですいね」お絹は、この話を聞いて甚兵衛に伝えた。甚兵衛は、丁度細い糸と、それを巻き取る小さな滑車、そして特定の方向に糸を誘導するアームを組み合わせた、奇妙な「遠隔操作式筆運び機」を試作しているところだった。遠く離れた場所から筆を動かして文字を書けないかと実験しているらしい。
「高札の書き換え…しかも部分的に、筆跡を真似て…」甚兵衛の目が、実験道具から光を放つ。「そして、番人も気づかず、貼り替えられた痕跡も薄い。これは、高度な技術と、それを隠すための『からくり』が使われている」
甚兵衛は、お絹と共に高札場へと向かった。彼は騒ぐ親方や組合員には目もくれず、高札そのものを、そして周囲の状況を注意深く観察する。書き換えられた部分の紙の質感、墨の濃淡、貼り付けに使われた糊のわずかなはみ出し、そして、張り替えられた部分の周囲に残された、肉眼ではほとんど見えないような微細な傷。
「紙は薄く、元の高札の上に重ねて貼られているのではない。切り抜いて、そこに新しい紙片を嵌め込んだのだ。そして、その切り口は…」甚兵衛は懐から小さな虫眼鏡と、これも自作の「微細切断痕検出器」という、刃物の切れ味を測るような道具を取り出した。「非常に鋭利で、かつ極めて薄い刃で切られている。普通の小刀ではない…特定の用途に特化された道具だ」
さらに、甚兵衛は糊の跡を調べ、その成分にわずかに変わったものが混ざっていることを指摘した。そして、高札全体を指先で叩き、特定の場所の音が僅かに違うことに気づいた。
「高札を貼り付けた板に、裏側からアクセスできる細工が施されている。そこから手を入れ、裏で高札を固定している糊を剥がし、切り抜いた部分の紙片を交換し、再び糊付けして貼り直したのだ」
甚兵衛は断言した。「番人に見つからず、しかも短時間で行うには、高度な技術と、そして…この作業を遠隔で行うための『からくり』が必要だ。私の『遠隔操作式筆運び機』の応用…いや、それをさらに複雑で精密にしたような…」
甚兵衛はそこで言葉を切った。彼の顔に、再び硬い表情が浮かんだ。あの、第3話で見せた、武士だった頃の彼を思わせる、凍てついた表情だ。
お絹は、瓦師組合の内部事情、親方と対立する者、組合に入り込もうとしている外部の勢力、そして最近高札場付近で不審な人物を見かけなかったかなどを聞き回った。すると、数日前から、身なりの良い浪人風の男が高札場を頻繁に訪れていたという情報や、組合の利権を狙う、町の裏で糸を引く「ある筋」の者がいるという噂を耳にした。
「甚兵衛さん、あの…また『ある筋』って名前が出ました。それに、妙な浪人が来てたとか…」お絹は心配そうに言った。甚兵衛の様子が、前回にも増して尋常ではないと感じたからだ。
甚兵衛は、お絹の情報と、自身の分析で得た「からくり」の手法を結びつけた。高札板の裏の細工、薄く鋭利な刃、特殊な糊、そして遠隔操作式の「からくり」。それらは、彼がかつて属していた世界、情報の操作や工作を専門とする組織が使う技術と酷似していたのだ。
「あの『からくり』…間違いない。私が知っている連中の手法だ」甚兵衛は低い声で言った。彼の脳裏に、過去の訓練の日々、そして危険な任務の記憶が蘇る。文字の切り抜き、糊の成分、板の裏の細工…全てに彼らが使う「署名」が見て取れた。
甚兵衛は、自身の「遠隔操作式筆運び機」の原理を使い、高札の裏の細工と、そこからどのように高札を操作したかの「からくり」を再現してみせた。細い糸とアームを使い、裏から紙片を外し、新しいものを嵌め込み、糊付けする…それは見事な、そして恐ろしい技術だった。
「このようなからくりを使い、しかも筆跡まで似せられる人間…そして、瓦師組合の会合を混乱させる動機がある人間だ」甚兵衛は犯人像を絞り込んだ。「お絹、あの浪人風の男について詳しく調べてくれ」
お絹は、持ち前の人当たりの良さで、浪人風の男の足取りを探った。彼は、瓦師組合の商売敵である別の組合と繋がりがあること、そして、件の「ある筋」の末端の者である可能性が高いことが分かった。彼の目的は、会合を混乱させ、瓦師組合の力を弱めることだったのだ。
甚兵衛は、その浪人風の男を問い詰めた。甚兵衛が、彼が使ったであろう「高札操作用からくり」の原理と、彼が「ある筋」の者であることを示唆すると、男は観念した。彼は、その「からくり」は上から渡されたもので、自分は言われた通りに高札を操作しただけだと白状した。筆跡を似せたのは、彼に指示を出した別の者だという。
事件そのものは解決した。瓦師組合の親方は、甚兵衛とお絹のおかげで混乱を避けられたことに感謝した。高札の書き換えという奇妙な事件は、人間の欲と、それを実行するための高度な「からくり」、そしてその裏に潜む組織の存在を浮き彫りにした。
しかし、甚兵衛の心に安堵はなかった。自分が捨てたはずの過去の影は、思っていた以上に近くまで迫っていたのだ。そして、今回捕まえたのは末端の者。糸を引く「ある筋」の本体は、依然として闇の中にいる。
長屋に戻る道すがら、甚兵衛は無言だった。お絹は彼の隣を歩きながら、その緊張を感じていた。
「甚兵衛さん…あの、大丈夫ですか?」お絹は尋ねた。
甚兵衛は立ち止まり、顔を上げた。その目には、長屋の発明家には似つかわしくない、厳しい光が宿っていた。
「大丈夫ではない。奴らは動き始めている」
彼は、お絹の手を取った。その手に力がこもる。
「私が知っている連中だ。彼らの『からくり』は、町の日常を、人々の心を、静かに、だが確実に操作する」
甚兵衛は真っ直ぐにお絹を見つめた。「私の過去が、お前や…この長屋にまで影を落とすかもしれない。危険になる前に…」
甚兵衛の言葉は、別れの予感を孕んでいた。お絹は、甚兵衛の過去がどれほど危険なものか、そしてそれが自分たちの日常を脅かし始めていることを実感し、胸が締め付けられる思いだった。瓦師組合の事件は、単なる一件の捕物ではなく、長編の物語の歯車が、本格的に回り始めたことを告げるものだった。江戸の町に、そしてからくり長屋に、見えない糸が張り巡らされようとしていた。
20
あなたにおすすめの小説
剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末
松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰
第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。
本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。
2025年11月28書籍刊行。
なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
高遠の翁の物語
本広 昌
歴史・時代
時は戦国、信州諏方郡を支配する諏方惣領家が敵に滅ぼされた。
伊那郡高遠の主、諏方頼継は惣領家家族のうち、齢十一歳の姫君を、ひょんなことから保護できた。
頼継は豪傑でもなければ知将でもない。その辺の凡将だろう。
それでも若き姫を守りながら、滅びた惣領家の再興を叶えるため、死に物狂いで強大な敵に立ち向かっていく歴史物語。
十二輝の忍神 ーシノビガミ― 第一部
陵月夜白(りょうづきやしろ)
歴史・時代
天明三年――浅間山が火を噴いた。
神の怒りに触れたかのように、黒い灰は空を塞ぎ、郷も田畑も人の営みも、容赦なく呑み込んでいく。噴火と飢饉が藩を蝕み、救いを求める声の裏で、名もなき影が蠢いた。灰の夜を踏むのは、血も温もりも失った“黒屍人”。誰が、何のために――。
その災厄に呼応するように、忍びの郷に封じられていた「十二輝の干支の珠」が、ひとつ、またひとつと眠りから解かれる。
珠は器を選び、器は力に喰われ、力は人を裏返す。
伊賀と甲賀の長い因縁、奪われる珠、引き裂かれる同胞。
そして、灰の国で拾い集められていく十二の輝きが揃う時、世界の秩序そのものが――動き出す。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
江戸情話 てる吉の女観音道
藤原 てるてる
歴史・時代
この物語の主人公は、越後の百姓の倅である。
本当は跡を継いで百姓をするところ、父の後釜に邪険にされ家を出たのであった。
江戸に出て、深川で飛脚をして渡世を送っている。
歳は十九、取り柄はすけべ魂である。女体道から女観音道へ至る物語である。
慶応元年五月、あと何年かしたら明治という激動期である。
その頃は、奇妙な踊りが流行るは、辻斬りがあるはで庶民はてんやわんや。
これは、次に来る、新しい世を感じていたのではないのか。
日本の性文化が、最も乱れ咲きしていたと思われるころの話。
このてる吉は、飛脚であちこち街中をまわって、女を見ては喜んでいる。
生来の女好きではあるが、遊び狂っているうちに、ある思いに至ったのである。
女は観音様なのに、救われていない女衆が多すぎるのではないのか。
遊女たちの流した涙、流せなかった涙、声に出せない叫びを知った。
これは、なんとかならないものか。何か、出来ないかと。
……(オラが、遊女屋をやればええでねえか)
てる吉は、そう思ったのである。
生きるのに、本当に困窮しとる女から来てもらう。
歳、容姿、人となり、借金の過多、子連れなど、なんちゃない。
いつまでも、居てくれていい。みんなが付いているから。
女衆が、安寧に過ごせる場を作ろうと思った。
そこで置屋で知り合った土佐の女衒に弟子入りし、女体道のイロハを教わる。
あてがって来る闇の女らに、研がれまくられるという、ありがた修行を重ねる。
相模の国に女仕入れに行かされ、三人連れ帰り、褒美に小判を頂き元手を得る。
四ツ谷の岡場所の外れに、掘っ立て小屋みたいな置屋を作る。
なんとか四人集めて来て、さあ、これからだという時に……
てる吉は、闇に消えたのであった。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
花嫁
一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる