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第二部:深まる人間関係と事件の広がり
第十二話:蔵の闇、覗く光
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月のない夜だった。川面に光はなく、蔵が立ち並ぶ一角は深い闇に沈んでいる。前話で見つけた、あの「標」が示す蔵。甚兵衛は、ここが「影」の活動場所の一つであると確信していた。辰五郎が連れてこられた可能性もある。
「静かすぎますい…」
お絹は、甚兵衛の隣で息を殺していた。人通りはなく、聞こえるのは川のせせらぎと、遠くで鳴く鳥の声だけだ。しかし、この静寂こそが、逆に警戒を強いる。
「奴らは、気配を消すのが得意だ。この中に潜んでいるかもしれん」
甚兵衛は低い声で呟いた。蔵の戸は固く閉ざされ、あの高度な錠前がかかっている。無理にこじ開けることは不可能だ。壁も厚く、窓は高い位置にあり、鉄格子が入っている。正面からの侵入は無謀だ。
「別の道を探す」
甚兵衛はそう言うと、蔵の周囲を調べ始めた。地面に敷かれた玉砂利に足音を立てないよう、慎重に。壁の煉瓦、屋根瓦、樋(とい)…隅々まで、彼の目は隠された弱点を探す。お絹は、彼の背中を見守りながら、物陰に身を隠し、周囲に不審な動きがないか警戒した。
「ここだ」
甚兵衛が立ち止まったのは、蔵の裏手にある、他の場所より少し低い壁際だった。壁の一部に、僅かに古い補修の跡があり、その上の屋根瓦も、他の場所より隙間が大きいように見える。
「壁の中から入るのは難しいが、屋根からなら…」甚兵衛は言った。「瓦を外し、そこから屋根裏に潜り込む」
甚兵衛は懐から奇妙なからくりを取り出した。それは、先端に吸盤と滑車、そしてワイヤーがついた、折り畳み式の小さな登攀(とうはん)用具だ。壁に吸盤を吸着させ、ワイヤーを巻き取ることで、音を立てずに壁を登ることができる。そして、瓦を外すための、先端にフェルトが貼られた特殊な梃子(てこ)棒のようなからくりも用意していた。
「私が屋根に上がって、瓦を外す。お前は下で警戒していてくれ」
「私も行きます!」お絹は即座に言った。
「危険すぎる。見つかれば…」
「一人で行かせる方が、よっぽど危険です!」お絹は譲らない。甚兵衛は、お絹の強い意志に、一瞬ためらい、しかしすぐに頷いた。彼女の機転や細やかな気配りは、こんな時こそ役に立つ。
甚兵衛は折り畳み式登攀用具を壁に吸着させ、音を立てずに壁を登り始めた。お絹は下で、耳を澄ませ、遠くの物音や、近づく人影がないか警戒する。甚兵衛はあっという間に屋根にたどり着くと、瓦の外し用からくりを使って、音を立てずに瓦を一枚、また一枚と外していった。隙間から冷たい空気が流れ込んでくる。
屋根裏に潜り込む隙間ができると、甚兵衛は音波からくりを取り出した。前話で使ったものより感度を上げた、小型のものだ。彼はそれを屋根裏の隙間から差し込み、蔵の内部の音を探る。
微かに、話し声が聞こえる。複数の男の声だ。そして、金属が擦れ合うような音、道具を使うような音…昼間探った時よりも、活動的な様子だ。
「中に奴らがいる…何か作業をしている」甚兵衛は、音波からくりを耳から離し、低い声で報告した。そして、もう一つのからくりを取り出した。それは、細い筒の先端に小さな鏡がついた、伸縮自在の「覗き筒」だ。彼はそれを屋根裏の隙間から、慎重に下へ差し込んだ。
蔵の内部が見えた。広い空間に、作業台や棚が置かれている。そこには、見たこともない奇妙な道具や、精密な部品が並べられている。それは、錠前師玄造の鋳型によく似たものや、第9話で日本橋で見たような、糸やワイヤーを巻き取る巨大な滑車、そして、あの「影」の紋様が刻まれた道具まであった。
「これは…奴らの仕事場だ…」甚兵衛は息を飲む。
そして、彼は蔵の片隅に、鎖に繋がれた男がいるのを見つけた。痩せ細り、顔には傷があるが、間違いなく辰五郎だった。彼は生きていた。しかし、その目は暗く、希望を失っているかのようだ。甚兵衛は、辰五郎の無事を確認し、安堵と同時に怒りが込み上げてきた。
「辰五郎さんが…!」お絹も、甚兵衛の覗き筒を通してその姿を見て、思わず小さな声を漏らした。
甚兵衛は、さらに蔵の内部を詳しく観察した。奥の棚に、盗まれたあの売り上げ帳(第3話)、桜姫の首(第4話)、そして玄造の鋳型(第6話)らしきものが並べて置いてあるのが見えた。それらは単なる盗品ではない。「影」にとって、何か利用価値のあるものとして集められているのだ。
そして、蔵の中央で、数人の男たちが一つの大きな地図を広げているのが見えた。江戸の町の地図だ。彼らは地図上の特定の場所に印をつけ、何やら話し合っている。それは、次の標的か、あるいは何か大規模な計画を示しているようだった。その男たちの中には、これまで事件に関わってきた「影」の実行犯らしき姿もあった。そして、その中心にいる、他の者とは違う威圧感を放つ男の姿が、甚兵衛の目に留まった。
「あれは…」甚兵衛は目を見開いた。その男の顔に、過去の記憶が蘇る。かつて「影」を裏で操っていたと噂された、冷酷な知略家…「影」の幹部か、あるいはそれに近い人物に違いない。
得られた情報は十分すぎるほどだ。ここは「影」の活動拠点の一つであり、彼らは盗んだ品々を利用し、江戸を舞台にした次の計画を進めている。そして、辰五郎は囚われている。
甚兵衛は覗き筒を静かに引き戻した。瓦を元に戻し、登攀用具を片付ける。一連の作業は、極めて迅速かつ音を立てずに行われた。危険な場所から、いち早く離れる必要がある。
無事、蔵から十分に距離を取り、隠れた場所で二人は息をついた。月の光が僅かに差し込み、二人の顔を照らす。
「辰五郎さん、生きてましたね…」お絹は震える声で言った。安堵と恐怖がない混ぜになっている。
「ああ」甚兵衛は頷いた。「だが…奴らの手中にいる。そして…奴らの本体の一端を見た」
甚兵衛は、蔵の中で見たものを詳しくお絹に話した。盗まれた品々、江戸の地図、そして「影」の幹部らしき男の姿。
「奴らは、江戸全体を狙っている。盗んだ品は、そのための道具だ。そして…奴らの計画は、最終段階に近いのかもしれない」
甚兵衛の顔に、疲労と共に、一層強い決意が宿る。彼が捨てたはずの過去の影は、もはや無視できない現実となった。しかし、彼は一人ではない。隣にはお絹がいる。
「どうしますい? 役人に知らせますか?」お絹が尋ねた。しかし、役人がこの「影」に対抗できるとは思えなかった。
「奴らは役人の動きなど、筒抜けだろう。下手に刺激すれば、辰五郎の命が危ない。それに、隠れ家はここだけではないはずだ」
甚兵衛は、蔵から持ち帰った、瓦の下に挟まっていた僅かな紙片を取り出した。それは、見慣れない符号が書かれた、小さく硬い紙だった。「これが、奴らの落としたものか…あるいは、辰五郎が残した何かか…」
「これは…」お絹は、符号を見て首を傾げた。甚兵衛は、過去の知識から、この符号が何らかの暗号や、次の場所を示すものではないかと考えていた。
「これを解く必要がある。そして、辰五郎を助け出す策を練る」
「静かすぎますい…」
お絹は、甚兵衛の隣で息を殺していた。人通りはなく、聞こえるのは川のせせらぎと、遠くで鳴く鳥の声だけだ。しかし、この静寂こそが、逆に警戒を強いる。
「奴らは、気配を消すのが得意だ。この中に潜んでいるかもしれん」
甚兵衛は低い声で呟いた。蔵の戸は固く閉ざされ、あの高度な錠前がかかっている。無理にこじ開けることは不可能だ。壁も厚く、窓は高い位置にあり、鉄格子が入っている。正面からの侵入は無謀だ。
「別の道を探す」
甚兵衛はそう言うと、蔵の周囲を調べ始めた。地面に敷かれた玉砂利に足音を立てないよう、慎重に。壁の煉瓦、屋根瓦、樋(とい)…隅々まで、彼の目は隠された弱点を探す。お絹は、彼の背中を見守りながら、物陰に身を隠し、周囲に不審な動きがないか警戒した。
「ここだ」
甚兵衛が立ち止まったのは、蔵の裏手にある、他の場所より少し低い壁際だった。壁の一部に、僅かに古い補修の跡があり、その上の屋根瓦も、他の場所より隙間が大きいように見える。
「壁の中から入るのは難しいが、屋根からなら…」甚兵衛は言った。「瓦を外し、そこから屋根裏に潜り込む」
甚兵衛は懐から奇妙なからくりを取り出した。それは、先端に吸盤と滑車、そしてワイヤーがついた、折り畳み式の小さな登攀(とうはん)用具だ。壁に吸盤を吸着させ、ワイヤーを巻き取ることで、音を立てずに壁を登ることができる。そして、瓦を外すための、先端にフェルトが貼られた特殊な梃子(てこ)棒のようなからくりも用意していた。
「私が屋根に上がって、瓦を外す。お前は下で警戒していてくれ」
「私も行きます!」お絹は即座に言った。
「危険すぎる。見つかれば…」
「一人で行かせる方が、よっぽど危険です!」お絹は譲らない。甚兵衛は、お絹の強い意志に、一瞬ためらい、しかしすぐに頷いた。彼女の機転や細やかな気配りは、こんな時こそ役に立つ。
甚兵衛は折り畳み式登攀用具を壁に吸着させ、音を立てずに壁を登り始めた。お絹は下で、耳を澄ませ、遠くの物音や、近づく人影がないか警戒する。甚兵衛はあっという間に屋根にたどり着くと、瓦の外し用からくりを使って、音を立てずに瓦を一枚、また一枚と外していった。隙間から冷たい空気が流れ込んでくる。
屋根裏に潜り込む隙間ができると、甚兵衛は音波からくりを取り出した。前話で使ったものより感度を上げた、小型のものだ。彼はそれを屋根裏の隙間から差し込み、蔵の内部の音を探る。
微かに、話し声が聞こえる。複数の男の声だ。そして、金属が擦れ合うような音、道具を使うような音…昼間探った時よりも、活動的な様子だ。
「中に奴らがいる…何か作業をしている」甚兵衛は、音波からくりを耳から離し、低い声で報告した。そして、もう一つのからくりを取り出した。それは、細い筒の先端に小さな鏡がついた、伸縮自在の「覗き筒」だ。彼はそれを屋根裏の隙間から、慎重に下へ差し込んだ。
蔵の内部が見えた。広い空間に、作業台や棚が置かれている。そこには、見たこともない奇妙な道具や、精密な部品が並べられている。それは、錠前師玄造の鋳型によく似たものや、第9話で日本橋で見たような、糸やワイヤーを巻き取る巨大な滑車、そして、あの「影」の紋様が刻まれた道具まであった。
「これは…奴らの仕事場だ…」甚兵衛は息を飲む。
そして、彼は蔵の片隅に、鎖に繋がれた男がいるのを見つけた。痩せ細り、顔には傷があるが、間違いなく辰五郎だった。彼は生きていた。しかし、その目は暗く、希望を失っているかのようだ。甚兵衛は、辰五郎の無事を確認し、安堵と同時に怒りが込み上げてきた。
「辰五郎さんが…!」お絹も、甚兵衛の覗き筒を通してその姿を見て、思わず小さな声を漏らした。
甚兵衛は、さらに蔵の内部を詳しく観察した。奥の棚に、盗まれたあの売り上げ帳(第3話)、桜姫の首(第4話)、そして玄造の鋳型(第6話)らしきものが並べて置いてあるのが見えた。それらは単なる盗品ではない。「影」にとって、何か利用価値のあるものとして集められているのだ。
そして、蔵の中央で、数人の男たちが一つの大きな地図を広げているのが見えた。江戸の町の地図だ。彼らは地図上の特定の場所に印をつけ、何やら話し合っている。それは、次の標的か、あるいは何か大規模な計画を示しているようだった。その男たちの中には、これまで事件に関わってきた「影」の実行犯らしき姿もあった。そして、その中心にいる、他の者とは違う威圧感を放つ男の姿が、甚兵衛の目に留まった。
「あれは…」甚兵衛は目を見開いた。その男の顔に、過去の記憶が蘇る。かつて「影」を裏で操っていたと噂された、冷酷な知略家…「影」の幹部か、あるいはそれに近い人物に違いない。
得られた情報は十分すぎるほどだ。ここは「影」の活動拠点の一つであり、彼らは盗んだ品々を利用し、江戸を舞台にした次の計画を進めている。そして、辰五郎は囚われている。
甚兵衛は覗き筒を静かに引き戻した。瓦を元に戻し、登攀用具を片付ける。一連の作業は、極めて迅速かつ音を立てずに行われた。危険な場所から、いち早く離れる必要がある。
無事、蔵から十分に距離を取り、隠れた場所で二人は息をついた。月の光が僅かに差し込み、二人の顔を照らす。
「辰五郎さん、生きてましたね…」お絹は震える声で言った。安堵と恐怖がない混ぜになっている。
「ああ」甚兵衛は頷いた。「だが…奴らの手中にいる。そして…奴らの本体の一端を見た」
甚兵衛は、蔵の中で見たものを詳しくお絹に話した。盗まれた品々、江戸の地図、そして「影」の幹部らしき男の姿。
「奴らは、江戸全体を狙っている。盗んだ品は、そのための道具だ。そして…奴らの計画は、最終段階に近いのかもしれない」
甚兵衛の顔に、疲労と共に、一層強い決意が宿る。彼が捨てたはずの過去の影は、もはや無視できない現実となった。しかし、彼は一人ではない。隣にはお絹がいる。
「どうしますい? 役人に知らせますか?」お絹が尋ねた。しかし、役人がこの「影」に対抗できるとは思えなかった。
「奴らは役人の動きなど、筒抜けだろう。下手に刺激すれば、辰五郎の命が危ない。それに、隠れ家はここだけではないはずだ」
甚兵衛は、蔵から持ち帰った、瓦の下に挟まっていた僅かな紙片を取り出した。それは、見慣れない符号が書かれた、小さく硬い紙だった。「これが、奴らの落としたものか…あるいは、辰五郎が残した何かか…」
「これは…」お絹は、符号を見て首を傾げた。甚兵衛は、過去の知識から、この符号が何らかの暗号や、次の場所を示すものではないかと考えていた。
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