【完結】『からくり長屋の事件帖 ~変わり発明家甚兵衛と江戸人情お助け娘お絹~』

月影 朔

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第四部:大団円 ~からくりと人情が結ぶ未来~

第四十八話:大店(おおだな)への潜入

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 夜の闇が、川沿いの古びた大店を深く覆っていた。周囲の家々は寝静まり、通りには人影がない。昼間の賑わいは嘘のように、建物は静まり返っている。しかし、その静寂の奥に、「影」の冷たい気配が潜んでいることを、甚兵衛とお絹は知っている。彼らは、辰五郎を救出するため、その建物に近づいていた。

 計画通り、彼らは大店の裏手、川に面した水門のような場所から侵入を試みる。ここなら、表通りや裏通りからの見張りの目を避けやすい。水門は固く閉ざされ、頑丈な錠前がかかっている。

「ここですいね…」

 お絹が囁いた。月明かりが、水面に反射して僅かに辺りを照らす。甚兵衛は、この水門の錠前を破るために特別に造った「反からくり」を取り出した。複数の先端を持つ、精密な金属製の道具だ。

 音を立てずに、からくりを錠前に差し込む。内部の機構を探り、鍵盤を操作する。複雑な仕掛けが施されているが、甚兵衛のからくりは、その構造を読み解いていく。冷たい金属の感触が手に伝わる。お絹は、甚兵衛の傍らで、周囲の見張りや、川面を行く船の気配に注意を凝らす。

 カチ…カチ…と、微かな音が響く。緊張の時間が流れる。氷雨のことだ。こんな水門にも、罠が仕掛けられているかもしれない。音に反応するからくり、あるいは…

 しかし、今回は罠は起動しない。甚兵衛のからくりが、錠前の全ての仕掛けを解除したのだ。

 ギィ…という、水に濡れた金属が擦れる重い音と共に、水門が内側へ開き始めた。冷たい空気が流れ込んでくる。中は、水気を含んだ倉庫か、通路のようだ。

 二人は、音もなく水門から内部へ滑り込んだ。水門を閉め、外からの視界を遮る。中は真っ暗だ。僅かに漂う埃や古い木材の匂い。地下工房のような湿気はないが、冷たい空気が肌を刺す。

 甚兵衛は、防水加工された小さな提灯を取り出し、足元を照らした。水門の内側は、狭い通路になっている。壁は石や古びた木材でできている。

 通路を進むと、やがて陸に上がる階段が現れた。階段を上りきると、そこは広い空間だった。倉庫か、荷物の受け入れ場所だろう。暗く、ガランとしている。しかし、そこにも警備がいるかもしれない。

 甚兵衛は、探知からくりを取り出し、周囲をスキャンした。床下の圧力センサー、通路に張られた糸、音に反応するからくり…潜入前に予測した内部罠がないか調べる。反応はない。少なくとも、この空間には、目立った罠は仕掛けられていないようだ。

 しかし、人の気配は感じる。遠くから、微かな話し声や、足音が聞こえてくる。建物は広い。警備は複数の場所に配置されているのだろう。

 甚兵衛とお絹は、物陰に身を隠し、音もなく周囲を警戒する。彼らが目指すのは、大店の奥、川に面した部屋…辰五郎が囚われている場所だ。この空間から、そこへ繋がる通路を探さなければならない。

 幸い、この空間には警備の姿はない。彼らは、物陰から次の行動を計画する。大店内部の構造は未知数だが、倉庫や荷捌き場であれば、複数の通路があるはずだ。

 甚兵衛は、再び探知からくりを使い、壁や床を調べる。隠し通路や、構造上の弱点がないか。お絹もまた、五感を研ぎ澄ませ、微かな音や空気の流れから情報を得る。

「あっちですい…空気の流れが、違うような…」

 お絹が、空間の奥の一角を指差した。甚兵衛が探知からくりで調べると、確かに壁の向こうに、別の空間があるような反応が微かに得られた。そこが、おそらく建物内部へと繋がる通路だろう。

 二人は、音もなくその場所へ向かった。壁には扉はない。しかし、構造が僅かに不自然だ。甚兵衛は、隠し扉を開けるための別のからくり(特定の場所に圧力をかけるもの、あるいは音波を発生させるもの)を使った。

 カチリ…という微かな音と共に、壁の一部が内側に沈み込み、隠し通路への入り口が現れた。成功だ。

 大店への潜入は、第一段階を突破した。水門からの侵入、そして最初の空間の突破。彼らは今、敵の本拠地の内部へと足を踏み入れた。辰五郎のいる場所まで、あとどれくらいか。そして、その道のりに、どれほどの危険が待ち受けているのか。

 物語は、辰五郎救出へ向け、大店内部の潜入へと進む。
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