46 / 64
第四部:大団円 ~からくりと人情が結ぶ未来~
第四十七話:救出作戦
しおりを挟む
古びた大店を監視し、辰五郎の無事と居場所を突き止めた夜から数日。甚兵衛とお絹は、長屋の工房で、来るべき救出作戦の準備を進めていた。写し取りからくりで記録した大店の外観、見張りの配置、そして辰五郎が囚われている部屋の位置…それらを元に、詳細な作戦を練る。
「辰五郎さんは、あの裏手、川に面した部屋にいました。窓には鉄格子…そして、あの部屋の周囲は、特に警備が厚い」
お絹が、偵察の記憶を辿りながら説明した。大店は、地下工房のような複雑な構造ではないだろう。しかし、地上にある分、人目に触れる危険があるし、警備も隙がない。
「入り口は複数あるが、正面は論外。裏口か、あるいは川に面した水門を使うのが、人目を避けるには良いだろう」
甚兵衛は、大店の構造図(推測)と、警備配置図を描きながら言った。救出の目標はただ一つ、辰五郎を無事救出すること。戦闘は可能な限り避ける。見つかれば、すぐに非常線を張られ、逃げ場がなくなる。
「問題は、辰五郎さんの部屋までどう行くか。そして、どうやって部屋を開けるか、だ」
大店内部の構造は分からない。しかし、店の部分、住居部分、そして蔵や倉庫部分があるだろう。辰五郎は、恐らく厳重な蔵か、あるいは特別に監視しやすい部屋にいるはずだ。
「内部にも見張りや、からくり罠があるでしょう。音もなく、光もなく、そして何にも気づかれずに、あの部屋までたどり着く…」
甚兵衛は、救出作戦に必要な「反からくり」の設計に取り掛かった。大店の木戸や窓、あるいは部屋の錠前を開けるための精密な道具。床下の圧力センサーや、通路に張られた糸、あるいは音や光に反応する内部罠を感知し、無効化するためのからくり。壁伝いに移動したり、高所を静かに移動したりするためのからくりも必要になるかもしれない。
そして、辰五郎を安全に連れ出すためのからくりもだ。彼は、地下工房に囚われている間に衰弱している可能性がある。素早く、そして安全に移動させるための、折り畳み式の担架や、身体を支えるための簡単な装具。警備に気づかれた場合、一時的に彼らを無力化するための、煙幕や、音波を発生させるからくりなど、陽動のためのからくりも必要だろう。
お絹は、甚兵衛の設計を手伝いながら、必要な材料を集め、部品の加工や組み立てを行った。彼女の手つきは正確で、無駄がない。何を作るのか、それがどんな危険な任務に使われるのか、全て理解している。
「この錠前破りからくりは、大店の蔵の鍵にも使えそうですいね」お絹が言った。
「ああ。奴らが使う鍵は、我々の知る鍵とは違う。より複雑で、特定のからくりでなければ開かないように作られている」
甚兵衛は、氷雨が使うからくりの特徴を思い出す。彼のからくりは、常に巧妙で、予測不能な要素が含まれている。大店の内部にも、氷雨独自のからくり罠が仕掛けられている可能性がある。それを見破り、回避する知恵が必要だ。
そして、最も大きな問題は、氷雨の存在だ。彼があの大店にいるなら、直接対峙する可能性が高い。氷雨と戦いながら、辰五郎を救出し、そして逃げる…それは、非常に困難な状況だ。
「氷雨がいたら…どうしますい?」お絹が尋ねた。その声には、心配と、そして覚悟が混じり合っている。
甚兵衛は、しばし黙った。氷雨…因縁の相手だ。奴を捕らえなければ、再び同じような悲劇が繰り返されるだろう。しかし、今は辰五郎の救出が最優先だ。
「奴のからくりを無力化する。そして…辰五郎さんを連れて、逃げる」
甚兵衛は決意を固めた。氷雨との最終的な決着は、その時次第だ。今は、辰五郎を救い出すことだけに集中する。
救出作戦の詳細が固まる。侵入ルート、内部での移動方法、辰五郎の部屋への接近、警備への対処、そして脱出ルート。全ての段階で、必要なからくりと、二人の役割分担を確認する。
準備は着々と進む。救出用からくり、内部潜入用からくり、脱出用からくり…一つ一つが、彼らの希望となる。
夜が来るのを待つ。長屋は静まり返っている。彼らの出発を知る者はいない。大店に囚われた友を救い出すため、二人は再び、闇の中へ踏み出す。
「必ず…必ず辰五郎さんを連れて戻るんですい」
お絹の言葉に、甚兵衛は力強く頷いた。大団円へ向けた物語は、いよいよ辰五郎救出という、最後の山場を迎える。
「辰五郎さんは、あの裏手、川に面した部屋にいました。窓には鉄格子…そして、あの部屋の周囲は、特に警備が厚い」
お絹が、偵察の記憶を辿りながら説明した。大店は、地下工房のような複雑な構造ではないだろう。しかし、地上にある分、人目に触れる危険があるし、警備も隙がない。
「入り口は複数あるが、正面は論外。裏口か、あるいは川に面した水門を使うのが、人目を避けるには良いだろう」
甚兵衛は、大店の構造図(推測)と、警備配置図を描きながら言った。救出の目標はただ一つ、辰五郎を無事救出すること。戦闘は可能な限り避ける。見つかれば、すぐに非常線を張られ、逃げ場がなくなる。
「問題は、辰五郎さんの部屋までどう行くか。そして、どうやって部屋を開けるか、だ」
大店内部の構造は分からない。しかし、店の部分、住居部分、そして蔵や倉庫部分があるだろう。辰五郎は、恐らく厳重な蔵か、あるいは特別に監視しやすい部屋にいるはずだ。
「内部にも見張りや、からくり罠があるでしょう。音もなく、光もなく、そして何にも気づかれずに、あの部屋までたどり着く…」
甚兵衛は、救出作戦に必要な「反からくり」の設計に取り掛かった。大店の木戸や窓、あるいは部屋の錠前を開けるための精密な道具。床下の圧力センサーや、通路に張られた糸、あるいは音や光に反応する内部罠を感知し、無効化するためのからくり。壁伝いに移動したり、高所を静かに移動したりするためのからくりも必要になるかもしれない。
そして、辰五郎を安全に連れ出すためのからくりもだ。彼は、地下工房に囚われている間に衰弱している可能性がある。素早く、そして安全に移動させるための、折り畳み式の担架や、身体を支えるための簡単な装具。警備に気づかれた場合、一時的に彼らを無力化するための、煙幕や、音波を発生させるからくりなど、陽動のためのからくりも必要だろう。
お絹は、甚兵衛の設計を手伝いながら、必要な材料を集め、部品の加工や組み立てを行った。彼女の手つきは正確で、無駄がない。何を作るのか、それがどんな危険な任務に使われるのか、全て理解している。
「この錠前破りからくりは、大店の蔵の鍵にも使えそうですいね」お絹が言った。
「ああ。奴らが使う鍵は、我々の知る鍵とは違う。より複雑で、特定のからくりでなければ開かないように作られている」
甚兵衛は、氷雨が使うからくりの特徴を思い出す。彼のからくりは、常に巧妙で、予測不能な要素が含まれている。大店の内部にも、氷雨独自のからくり罠が仕掛けられている可能性がある。それを見破り、回避する知恵が必要だ。
そして、最も大きな問題は、氷雨の存在だ。彼があの大店にいるなら、直接対峙する可能性が高い。氷雨と戦いながら、辰五郎を救出し、そして逃げる…それは、非常に困難な状況だ。
「氷雨がいたら…どうしますい?」お絹が尋ねた。その声には、心配と、そして覚悟が混じり合っている。
甚兵衛は、しばし黙った。氷雨…因縁の相手だ。奴を捕らえなければ、再び同じような悲劇が繰り返されるだろう。しかし、今は辰五郎の救出が最優先だ。
「奴のからくりを無力化する。そして…辰五郎さんを連れて、逃げる」
甚兵衛は決意を固めた。氷雨との最終的な決着は、その時次第だ。今は、辰五郎を救い出すことだけに集中する。
救出作戦の詳細が固まる。侵入ルート、内部での移動方法、辰五郎の部屋への接近、警備への対処、そして脱出ルート。全ての段階で、必要なからくりと、二人の役割分担を確認する。
準備は着々と進む。救出用からくり、内部潜入用からくり、脱出用からくり…一つ一つが、彼らの希望となる。
夜が来るのを待つ。長屋は静まり返っている。彼らの出発を知る者はいない。大店に囚われた友を救い出すため、二人は再び、闇の中へ踏み出す。
「必ず…必ず辰五郎さんを連れて戻るんですい」
お絹の言葉に、甚兵衛は力強く頷いた。大団円へ向けた物語は、いよいよ辰五郎救出という、最後の山場を迎える。
10
あなたにおすすめの小説
剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末
松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰
第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。
本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。
2025年11月28書籍刊行。
なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
江戸の夕映え
大麦 ふみ
歴史・時代
江戸時代にはたくさんの随筆が書かれました。
「のどやかな気分が漲っていて、読んでいると、己れもその時代に生きているような気持ちになる」(森 銑三)
そういったものを選んで、小説としてお届けしたく思います。
同じ江戸時代を生きていても、その暮らしぶり、境遇、ライフコース、そして考え方には、たいへんな幅、違いがあったことでしょう。
しかし、夕焼けがみなにひとしく差し込んでくるような、そんな目線であの時代の人々を描ければと存じます。
高遠の翁の物語
本広 昌
歴史・時代
時は戦国、信州諏方郡を支配する諏方惣領家が敵に滅ぼされた。
伊那郡高遠の主、諏方頼継は惣領家家族のうち、齢十一歳の姫君を、ひょんなことから保護できた。
頼継は豪傑でもなければ知将でもない。その辺の凡将だろう。
それでも若き姫を守りながら、滅びた惣領家の再興を叶えるため、死に物狂いで強大な敵に立ち向かっていく歴史物語。
十二輝の忍神 ーシノビガミ― 第一部
陵月夜白(りょうづきやしろ)
歴史・時代
天明三年――浅間山が火を噴いた。
神の怒りに触れたかのように、黒い灰は空を塞ぎ、郷も田畑も人の営みも、容赦なく呑み込んでいく。噴火と飢饉が藩を蝕み、救いを求める声の裏で、名もなき影が蠢いた。灰の夜を踏むのは、血も温もりも失った“黒屍人”。誰が、何のために――。
その災厄に呼応するように、忍びの郷に封じられていた「十二輝の干支の珠」が、ひとつ、またひとつと眠りから解かれる。
珠は器を選び、器は力に喰われ、力は人を裏返す。
伊賀と甲賀の長い因縁、奪われる珠、引き裂かれる同胞。
そして、灰の国で拾い集められていく十二の輝きが揃う時、世界の秩序そのものが――動き出す。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
江戸情話 てる吉の女観音道
藤原 てるてる
歴史・時代
この物語の主人公は、越後の百姓の倅である。
本当は跡を継いで百姓をするところ、父の後釜に邪険にされ家を出たのであった。
江戸に出て、深川で飛脚をして渡世を送っている。
歳は十九、取り柄はすけべ魂である。女体道から女観音道へ至る物語である。
慶応元年五月、あと何年かしたら明治という激動期である。
その頃は、奇妙な踊りが流行るは、辻斬りがあるはで庶民はてんやわんや。
これは、次に来る、新しい世を感じていたのではないのか。
日本の性文化が、最も乱れ咲きしていたと思われるころの話。
このてる吉は、飛脚であちこち街中をまわって、女を見ては喜んでいる。
生来の女好きではあるが、遊び狂っているうちに、ある思いに至ったのである。
女は観音様なのに、救われていない女衆が多すぎるのではないのか。
遊女たちの流した涙、流せなかった涙、声に出せない叫びを知った。
これは、なんとかならないものか。何か、出来ないかと。
……(オラが、遊女屋をやればええでねえか)
てる吉は、そう思ったのである。
生きるのに、本当に困窮しとる女から来てもらう。
歳、容姿、人となり、借金の過多、子連れなど、なんちゃない。
いつまでも、居てくれていい。みんなが付いているから。
女衆が、安寧に過ごせる場を作ろうと思った。
そこで置屋で知り合った土佐の女衒に弟子入りし、女体道のイロハを教わる。
あてがって来る闇の女らに、研がれまくられるという、ありがた修行を重ねる。
相模の国に女仕入れに行かされ、三人連れ帰り、褒美に小判を頂き元手を得る。
四ツ谷の岡場所の外れに、掘っ立て小屋みたいな置屋を作る。
なんとか四人集めて来て、さあ、これからだという時に……
てる吉は、闇に消えたのであった。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる