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第四部:大団円 ~からくりと人情が結ぶ未来~
第六十一話:奉行所へ
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長屋で体力を回復させ、心身の疲れも癒えた甚兵衛とお絹、そして辰五郎は、来るべき日に備えていた。辰五郎はまだ完全にではないが、顔色も良くなり、しっかりと話せるようになった。彼は、自分を救い出してくれた友人たちと、温かく受け入れてくれた長屋の人々に、改めて感謝の言葉を伝えた。
「もう大丈夫だ。話せる。奴らが俺に何をしたか…何を見聞きしたか…全て話そう」
辰五郎の言葉に、甚兵衛とお絹は頷いた。彼を救出したことの、最大の意味がここにある。彼という生きた証人。
甚兵衛は、これまでに集めた証拠を改めて整理した。写し取りからくりで写した、「影」の構成員たちの顔、地下工房や大店の外観、そして内部の様子や見張りの配置が分かる画像(からくりの技術で写し取ったもの)。残党が使っていた通信からくりの一部(もし持ち帰っていれば)。そして、これまでの出来事を時系列にまとめた書状。
「これらと、辰五郎さんの証言があれば…今度こそ、役人も動かざるを得ないはずだ」
甚兵衛は言った。彼らは、江戸の奉行所へ行き、事態を訴え出ることを決意していた。しかし、誰に訴え出るか。腐敗した役人もいるだろう。この非現実的な話に、耳を傾けてくれる者がいるだろうか。
長屋の懇意にしている口入れ屋(人の斡旋をする者)に、信頼できる奉行所の役人について尋ねた。清廉潔白で、曲がったことを許さず、それでいて柔軟な思考を持つ人物…そういった評判の人物を探した結果、一人の与力(よりき:奉行の下で捜査や逮捕を担う役人)の名が挙がった。彼は、少々変わり者ではあるが、一度引き受けた事件は必ず解決すると評判だった。
数日後、辰五郎の体力が十分に回復したのを確認し、三人は奉行所へと向かった。清潔な身なりを整え、証拠を懐に。奉行所は、江戸の治安を司る重々しい建物だ。門構えからして、彼らの日常とはかけ離れている。
門番に用件を告げ、紹介を受けた与力に取り次いでもらう。待合室で待つ間、三人の間には緊張が走った。ここで話が通じなければ、彼らが独自で「影」を追うしかない。それは、長屋全体を危険に晒す行為になる。
やがて、与力の部屋に通された。部屋は質素だが、清潔に整えられている。与力は、鋭い目をした、しかしどこか温和な雰囲気を持つ人物だった。
「さて、平賀甚兵衛殿。そして…」与力は、三人の顔を見渡した。「お困りの由、伺っておりますが…」
甚兵衛は、深呼吸をして、語り始めた。まずは、辰五郎が忽然と姿を消したこと。そして、彼がからくりに関わる技術者であったこと。彼が、恐るべき組織「影」に拉致されたこと。
「影…?」与力の眉が微かに動いた。
甚兵衛は続けた。「彼らは、からくりを悪用する集団です。人の心を惑わし、街に混乱をもたらすからくり、そして…」彼は、あの巨大な「鍵」について、それが江戸全体に甚大な被害をもたらすからくりであったことを、慎重に説明した。
与力は、黙って甚兵衛の話を聞いている。時折、質問を挟む。「からくり…と申されますと?」
甚兵衛は、からくりが悪に使われた例を説明した。通信、隠密行動、そして人知を超えた破壊力を持つ装置。そして、彼らが、その計画を阻止するために、地下深くの彼らの本拠地に潜入したことを話した。
話は、あまりにも現実離れしている。与力の顔に、微かな困惑の色が浮かび始めた。
その時だ。お絹が、すっと進み出た。「与力様。この方は、私どもの大切な友でございます」彼女は、辰五郎を指差した。「彼は、あの組織『影』に、長きにわたり囚われておりました。その恐ろしさ…その悪行…全て、この目で、この身で経験したのです」
そして、辰五郎が語り始めた。囚われの日々。地下工房で見た光景。恐ろしいからくり。そして、そこで聞いた「影」の者たちの会話。彼の言葉は、真実味に満ちていた。顔色の悪さ、憔悴した様子が、彼の体験の過酷さを物語っている。
「私は…彼らが江戸全体に混乱をもたらす計画を立てているのを聞きました。私の知識を…そのために使おうとしていました…」
辰五郎の証言は、与力の心を捉えたようだ。彼の表情から困惑が消え、真剣な眼差しに変わる。
甚兵衛は、頃合いを見て、証拠を取り出した。写し取りからくりの画像。そこには、見張りや、通信からくりを使う「影」の者たちの顔が鮮明に写っている。そして、地下工房や、辰五郎を救出した大店の外観。
「これは…?」与力は、その画像の鮮明さと、写されている人物のただならぬ雰囲気に驚いた。
甚兵衛は、この画像が、特殊なからくりで写し取ったものだと説明した。そして、画像に写っている場所が、彼らの拠点であることを告げた。もし、持ち帰った代表的な「影」のからくり部品があれば、ここで提示する。それは、通常のからくりとは明らかに違う、不気味な技術を示すものだろう。
「このような技術を持つ組織が…恐るべき計画を進めていたのです。そして、首謀者である『烏』と呼ばれた男…氷雨は、まだ捕まっておりません」
甚兵衛は、氷雨の特徴と、彼が逃走したことを告げた。
与力は、沈黙した。三人の話、辰五郎の証言、そして目の前の証拠。それは、あまりにも異常な話だが、無視できない重みがあった。特に、画像に写された人物たちは、明らかに犯罪者らしかった。そして、あの地下工房の規模を示すであろう、大店の画像も…。
やがて、与力は顔を上げた。
「…分かり申した」
その声は、重々しく、そして決意に満ちていた。
「貴殿方の話、そして証拠…確かに受け取り申した。これは、単なる誘拐事件ではない。江戸の安寧に関わる、重大な事案と判断する」
与力は、部屋の隅に控えていた部下を呼び、「至急、この者たちの身元と、画像の場所、人物について調べよ。そして…この件は、口外無用だ」と命じた。
三人の顔に、安堵と、そして新たな緊張が走る。役所が動いた。しかし、これから本格的な捜査が始まれば、「影」は間違いなく反撃に出てくるだろう。
与力は、甚兵衛たちの目を見て言った。「貴殿方の勇気、見事である。しかし、これからが正念場だ。この件…我々奉行所が、しっかりと預かり申す」
奉行所を出た三人は、晴れやかながらも、どこか不安な顔をしていた。大団円へ向けた物語は、個人の戦いから、江戸の治安を司る組織を巻き込んだ、新たな局面へと移る。
「もう大丈夫だ。話せる。奴らが俺に何をしたか…何を見聞きしたか…全て話そう」
辰五郎の言葉に、甚兵衛とお絹は頷いた。彼を救出したことの、最大の意味がここにある。彼という生きた証人。
甚兵衛は、これまでに集めた証拠を改めて整理した。写し取りからくりで写した、「影」の構成員たちの顔、地下工房や大店の外観、そして内部の様子や見張りの配置が分かる画像(からくりの技術で写し取ったもの)。残党が使っていた通信からくりの一部(もし持ち帰っていれば)。そして、これまでの出来事を時系列にまとめた書状。
「これらと、辰五郎さんの証言があれば…今度こそ、役人も動かざるを得ないはずだ」
甚兵衛は言った。彼らは、江戸の奉行所へ行き、事態を訴え出ることを決意していた。しかし、誰に訴え出るか。腐敗した役人もいるだろう。この非現実的な話に、耳を傾けてくれる者がいるだろうか。
長屋の懇意にしている口入れ屋(人の斡旋をする者)に、信頼できる奉行所の役人について尋ねた。清廉潔白で、曲がったことを許さず、それでいて柔軟な思考を持つ人物…そういった評判の人物を探した結果、一人の与力(よりき:奉行の下で捜査や逮捕を担う役人)の名が挙がった。彼は、少々変わり者ではあるが、一度引き受けた事件は必ず解決すると評判だった。
数日後、辰五郎の体力が十分に回復したのを確認し、三人は奉行所へと向かった。清潔な身なりを整え、証拠を懐に。奉行所は、江戸の治安を司る重々しい建物だ。門構えからして、彼らの日常とはかけ離れている。
門番に用件を告げ、紹介を受けた与力に取り次いでもらう。待合室で待つ間、三人の間には緊張が走った。ここで話が通じなければ、彼らが独自で「影」を追うしかない。それは、長屋全体を危険に晒す行為になる。
やがて、与力の部屋に通された。部屋は質素だが、清潔に整えられている。与力は、鋭い目をした、しかしどこか温和な雰囲気を持つ人物だった。
「さて、平賀甚兵衛殿。そして…」与力は、三人の顔を見渡した。「お困りの由、伺っておりますが…」
甚兵衛は、深呼吸をして、語り始めた。まずは、辰五郎が忽然と姿を消したこと。そして、彼がからくりに関わる技術者であったこと。彼が、恐るべき組織「影」に拉致されたこと。
「影…?」与力の眉が微かに動いた。
甚兵衛は続けた。「彼らは、からくりを悪用する集団です。人の心を惑わし、街に混乱をもたらすからくり、そして…」彼は、あの巨大な「鍵」について、それが江戸全体に甚大な被害をもたらすからくりであったことを、慎重に説明した。
与力は、黙って甚兵衛の話を聞いている。時折、質問を挟む。「からくり…と申されますと?」
甚兵衛は、からくりが悪に使われた例を説明した。通信、隠密行動、そして人知を超えた破壊力を持つ装置。そして、彼らが、その計画を阻止するために、地下深くの彼らの本拠地に潜入したことを話した。
話は、あまりにも現実離れしている。与力の顔に、微かな困惑の色が浮かび始めた。
その時だ。お絹が、すっと進み出た。「与力様。この方は、私どもの大切な友でございます」彼女は、辰五郎を指差した。「彼は、あの組織『影』に、長きにわたり囚われておりました。その恐ろしさ…その悪行…全て、この目で、この身で経験したのです」
そして、辰五郎が語り始めた。囚われの日々。地下工房で見た光景。恐ろしいからくり。そして、そこで聞いた「影」の者たちの会話。彼の言葉は、真実味に満ちていた。顔色の悪さ、憔悴した様子が、彼の体験の過酷さを物語っている。
「私は…彼らが江戸全体に混乱をもたらす計画を立てているのを聞きました。私の知識を…そのために使おうとしていました…」
辰五郎の証言は、与力の心を捉えたようだ。彼の表情から困惑が消え、真剣な眼差しに変わる。
甚兵衛は、頃合いを見て、証拠を取り出した。写し取りからくりの画像。そこには、見張りや、通信からくりを使う「影」の者たちの顔が鮮明に写っている。そして、地下工房や、辰五郎を救出した大店の外観。
「これは…?」与力は、その画像の鮮明さと、写されている人物のただならぬ雰囲気に驚いた。
甚兵衛は、この画像が、特殊なからくりで写し取ったものだと説明した。そして、画像に写っている場所が、彼らの拠点であることを告げた。もし、持ち帰った代表的な「影」のからくり部品があれば、ここで提示する。それは、通常のからくりとは明らかに違う、不気味な技術を示すものだろう。
「このような技術を持つ組織が…恐るべき計画を進めていたのです。そして、首謀者である『烏』と呼ばれた男…氷雨は、まだ捕まっておりません」
甚兵衛は、氷雨の特徴と、彼が逃走したことを告げた。
与力は、沈黙した。三人の話、辰五郎の証言、そして目の前の証拠。それは、あまりにも異常な話だが、無視できない重みがあった。特に、画像に写された人物たちは、明らかに犯罪者らしかった。そして、あの地下工房の規模を示すであろう、大店の画像も…。
やがて、与力は顔を上げた。
「…分かり申した」
その声は、重々しく、そして決意に満ちていた。
「貴殿方の話、そして証拠…確かに受け取り申した。これは、単なる誘拐事件ではない。江戸の安寧に関わる、重大な事案と判断する」
与力は、部屋の隅に控えていた部下を呼び、「至急、この者たちの身元と、画像の場所、人物について調べよ。そして…この件は、口外無用だ」と命じた。
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与力は、甚兵衛たちの目を見て言った。「貴殿方の勇気、見事である。しかし、これからが正念場だ。この件…我々奉行所が、しっかりと預かり申す」
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