転生したら鎧だったので、自分で動けない。だから呪われた美少女妖精に乗り込んでもらって最強を目指します!

月影 朔

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第1章:忘れられたダンジョン編

第9話:最初の敵、グリーンスライム

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(よし、リリア。
 腕ならしと行こうぜ)

「はい、アルマ! 
わたくしたちの最初の共同作業ですわ!」

 俺は、再生したばかりの左腕を掲げ、静かに構えた。

 目の前では、半透明の緑色のかたまり……グリーンスライムが、決まった形のない体をぷるぷると揺らしている。

 RPGの知識が正しければ、こいつは最弱モンスターの代名詞。
練習台のような相手だ。

(だが、油断は禁物だ)

 ここはゲームの世界じゃない。
俺たちの命がかかった現実だ。
それに、こっちはこっちで、戦うのはこれが初めての素人騎士(?)。

 相手がスライムだろうと、慎重にいくべきだ。

「アルマ、この魔物はとても単純な霊素でできていますわ。
ですが、甘く見てはいけません」

 リリアの冷静な声が、俺の浮かれかけた心を引きしめる。

 そうだ。まずは分析からだ。

(《機構造解析》、起動!)

 俺はスキルを発動させた。

 脳内に設計図が流れ込んでくる……はずだった。

(……え? 
なんだこれ……!?)

 しかし、俺の脳内に広がったのは、いつものような細かいデータではなかった。

 ただ、ぼんやりとした緑色の輪郭が映るだけ。
解析率は、まったく0%から動かない。

(つくりがない!?
 設計図が描けないじゃないか!)

 そうだ。
スライムは決まった形のないモンスター。

 骨も、複雑な回路もない。
ただのゼリー状のかたまりだ。

 物理的なつくりを分析する俺のスキルで、読み解けるわけがなかった。

(嘘だろ……。
解析できない……?)

 とたんに、背筋が冷たくなるのを感じた。

 分からない。
 この敵が、何をしてくるのか。

 どこが弱点なのか。
 どうすれば倒せるのか。

 何も、分からない。

「お前は、失敗作だ」

 まただ。
頭の中で、父のまぼろしがあざ笑う。

(分からないまま戦えば、また失敗する……!
 もっと最悪なことになるかもしれない!)

 思考が、悪い想像の無限ループに落ちこみ始める。

 完璧な作戦を立てなければ……。

(動けない……!)

 鉄の体が、再び鉛のように重くなる。

 自分のスキルを理解したはずの自信が、初めての「理解できない敵」を前に、もろくも揺らぎ始めていた。

 ◇ ◇ ◇

 俺の魂が恐怖で凍りつき始めたのを、リリアはすぐに感じ取っていた。

 しかし、今度の彼女の声は、ただ優しいだけのものではなかった。

「アルマッ! 
何をためらっているのですか!」

(!)

 それは、りんとした、厳しい叱る声だった。

「完璧な計画など、待っていたら日が暮れてしまいます! 
敵は、あなたが分析を終えるのを親切に待ってはくれません!」

 リリアの言葉が、俺の心のかせをガツンと殴りつける。

「それに、忘れてしまいましたの!? 
失敗したら、また分析すればよいではありませんか! 
わたくしたちの戦い方は、そう決めたばかりでしょう!?」

(……ああ。
そう、だったな)

 そうだ。失敗は次のためのデータだ。
さっき、自分自身でたどり着いたはずの答えじゃないか。

 なんてザマだ、俺は。
たった一体のスライムを前にして、また怖気づいていた。

(やってみないと、データも取れない……。
悪かった、リリア。
ちょっと、ビビってた)

「分かればよろしいのです。
さあ、アルマ! 
まずは一発、ご挨拶と参りましょう!」

 リリアの力強い声に背中を押され、俺はついに覚悟を決めた。

(よし! 
まずは仮説①、物理攻撃が効くかどうか試す!)

 俺は再生したばかりの左腕を大きく振りかぶり、スライムの緑色の体に、ありったけのストレートを叩き込んだ!

 ――ブニッ!

「なっ!?」

 手応えは、最悪だった。
巨大なプリンを殴ったような、気持ちの悪い感触。

 俺の鉄拳は、スライムの体にめり込み、その衝撃を完全に吸いこまれてしまった。

 ダメージは、ほぼゼロだ。

(くそ、打撃は効果が薄い!
 データ、インプット完了!)

 俺が腕を引き抜こうとした、その瞬間だった。

 殴られた部分のスライムの体が、鞭のような二本の触手となって俺の腕にからみついてきた。

「アルマ、お気をつけになって!」

(うおっ!?)

 俺はとっさに後ろへ飛び、なんとか動きを封じられるのを振りほどく。

 データ、追加インプット。
物理攻撃は逆効果。
相手に攻撃のきっかけを与えるだけだ。

(じゃあ、どうする……?)

 手詰まりか、と一瞬思考が止まる。

 そのすきを、スライムは見逃さなかった。
今度は、その体全体を平たく伸ばし、床を滑って一気に距離を詰めてくる。

 速い!

(まずい!)

 なすすべなく体当たりを受ける、その寸前。

 リリアのナビゲートが飛んできた。

「アルマ、あの中です! 
あの緑色のかたまりの中心に、他よりもほんの少しだけ、霊素が濃く集まっている部分があります! 
あれが、おそらくは核です!」

 リリアの《霊素視エーテルビジョン》が、俺のスキルでは見抜けなかった、敵の弱点を見抜いてくれたのだ。

 まさに、ハードとソフトの連携プレー!

(そこか!
 仮説③、核への一点集中攻撃!)

 俺は迫りくるスライムの体当たりを、右腕の鎧で受け止める。
左腕の指先を、鋭い一本の杭のようにイメージして硬くする。

 そして、リリアが示してくれた、霊素が最も集中する一点めがけて……!

(貫けぇっ!)

 ――ズブリ!

 指先が、ゼリー状の抵抗を突き破り、スライムの体内に深く入りこむ。

 しかし、スライムも必死に抵抗し、俺の腕の侵入を止めようとする。

(くっ……硬い!)

 あと数センチが、届かない。
このままじゃ、押し負ける。

 ……そうだ。あれがあったじゃないか。

(リリア、今からちょっと無茶をする! 霊素エーテルのナビゲートを頼む!)

「ええ、お任せを!」

 俺は、スライムに突き刺したままの左腕に、意識を集中させた。

 自己修復の時に行った、霊素エーテルを混ぜ合わせる感覚を呼び覚ます。

(俺の霊素エーテルと、リリアの霊素エーテルを、この腕の中でひとつにする!)

 二つの魂の力が、俺の左腕の中で渦を巻く。

 その結果生まれたのは、純粋な破壊力とは少し違う、しみこむ力と響き合う性質の高い、特別なエネルギーだった。

(喰らえ! これが俺たちの……!)

 ――《共振撃レゾナンス・ブロウ》!

 俺が心の中で叫んだ(技名は今考えた)瞬間、左腕から調和された霊素の波動がほとばしり、スライムの体内に直接叩き込まれた。

 その波動は、スライムの核が持つ霊素エーテルの震えと響き合い、そのつくりを内部から激しく揺さぶる。

 ――ピシッ!

 スライムの核に、小さなヒビが入るのが視えた。

 ――ピシピシピシッ!

 ヒビはあっという間に全体に広がり、そして。

 ――パリンッ!

 ガラスが砕けるような乾いた音と共に、スライムの核は粉々に砕けちった。

 命の源を失った緑色の体は、急速にその輪郭を失い、やがて床にどろりとした液体の水たまりを残して、完全に活動を止めた。

 ◇ ◇ ◇

「はぁ……はぁ……」

 精神的な疲れで、魂がぜいぜい言っているのが分かった。

(完璧とは、ほど遠いな……)

 泥くさい戦いだった。
 それでも。

「素晴らしい勝利ですわ、アルマ! 
やりましたわね!」

 リリアの、心の底からの喜びの声が、俺の疲れを吹き飛ばしてくれた。

 ああ、そうだ。
 勝ったんだ。俺たち、二人で。

(さて、と。
戦利品をいただくとするか)

 俺は、床に広がったスライ-ムの残がいに、修復したばかりの左腕を伸ばした。

 スキル《魂装融合ソウル・マージ》。
 こいつを取り込んで、酸への耐性でも手に入れておくか。

 俺がスライムの液体に触れた瞬間、その霊素が俺の鎧にするすると吸いこまれていく。

 そして、鎧の内部に、かすかな変化が起きた。

(なんだ……? 
鎧の霊素回路が、ほんの少しだけ、しなやかになった……?)

 これは……もしかしたら、今後の《魂装融合ソウル・マージ》の安定性を高める効果があるのかもしれない。

 スライムの「しなやかさ」という特性が、俺の鎧に新たな可能性をもたらしてくれたのだ。

(なるほどな。
どんな相手からでも、学ぶことはあるってことか)

 俺が一つ賢くなったことに満足し、安心のため息をつこうとした、まさにその時だった。

 ◇ ◇ ◇

「アルマ、敵です!
 数が多いですわ!」

 リリアの鋭い警告が飛ぶ。
 それと同時に、通路の奥の暗がりから、複数の鋭い視線が突き刺さるのを感じた。

 一体じゃない。
 五体……いや、十体はいるか?
 それも、まとまりのある、狩人の動きだ。

 暗がりから、音もなく複数の影が姿を現す。

 背が低く、緑色の肌。手にはさびた短剣や粗末な弓。

 そしてその目に宿るのは、獲物を見つけた飢えた獣の光。

(ゴブリン……!)

 それも、見張りの動きに特化した、ずる賢いタイプだ。

 奴らは、俺たちがスライムとの戦いで疲れるのを、ずっと待っていたのだ。

 なんてことだ。

 最初の戦闘が終わったばかりだというのに、休む間もなく、次の試練が始まろうとしていた。
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