転生したら鎧だったので、自分で動けない。だから呪われた美少女妖精に乗り込んでもらって最強を目指します!

月影 朔

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第1章:忘れられたダンジョン編

第10話:ゴブリン・斥候の奇襲

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(マジかよ、勘弁してくれ……)

 スライムを倒した安心した気持ちは、一瞬で氷点下の緊張に変わった。

 通路の暗がりから次々と姿を現す緑色の小さな悪魔たち。ゴブリン。

 それもただのゴブリンじゃない。
その無駄のない動き、まとまりのある陣形。

 俺たちがスライムとの戦いで疲れるのを、冷静に待ち構えていたそのずる賢さ。

 こいつらは見張りに特化した、厄介な手合いだ。

(こっちは連戦でキツいってのに!)

 さっきの《共振撃レゾナンス・ブロウ》は俺とリリアの魂を直接すり減らす奥の手だ。

 精神的な疲れが、鉄の体にたまっている。

「アルマ、敵は12体! 
前衛に短剣持ちが5、後衛に弓持ちが7です! 先ほどのスライムは、わたくしたちの実力を測るための捨て駒……!」

 鎧の中から聞こえるリリアの声も、鋭く張りつめていた。

 なんてことだ。俺たちはまんまとワナにはめられたのか。

 俺が態勢を立て直すよりも早く、ゴブリンたちの奇襲が始まった。

「キシャァァッ!」

 叫び声と共に、後衛の弓ゴブリン7体が同時に矢を放つ。

 7本の矢が、少しのズレもなく俺の頭と胸に集中する。

(くっ!)

 俺はとっさに両腕を交差させ、顔面への直撃を防ぐ。

 ガガガガッ!

 さびた矢じりが俺の鎧に硬い音を立てて弾かれる。大した威力はない。
だが、これは注意を引くための攻撃だ。

「アルマ、四方から来ます!」

 リリアの警告と同時だった。

 矢を防いで体勢がわずかに崩れた、その一瞬のすきを突き、前衛の短剣ゴブリン5体が四方八方から躍りかかってきた。

(くそっ! 
一体を相手にすると、別のやつが死角から……!)

 俺の思考が敵の動きに全く追いついていなかった。

 これが連携。これが数の暴力。

 スライムのような単体の敵との戦いとは、レベルが違う。

「アルマ、右後方!
いえ、左からも矢が!」

 リリアの案内も乱れ始めていた。
 敵の数が多く、攻撃がい-ろんな方向すぎる。

 彼女の《霊素視エーテルビジョン》でも全ての攻撃を事前に気づき、的確な指示を出すのは不可能に近い。

 ◇ ◇ ◇

(落ち着け……落ち着くんだ、俺。
どんなに複雑に見えても必ずルールがあるはずだ。型を読め!)

 俺は必死に整備士としての自分を呼び覚ます。
エンジンの不規則な振動音から、どの部品が異常かを特定するように。

 このゴブリンたちの動きにも、必ず連携の「核」となる型があるはずだ。

(正面の二体は攻撃役。
左右の二体は邪魔役。足元を狙う一体が、致命傷を狙う切り札……! 
弓部隊は俺が大きく動こうとした瞬間に、その動きを止めるように矢を放ってくる!)

 見えた。

 敵の攻撃の型を、俺は数秒の攻防の中で完全に分析してみせた。

(違う、リリア!
 そいつは陽動だ! 本命は右だ!)

 俺はリリアの警告を半ば無視する形で、右からの攻撃に備えて身構えた。

 しかし、その瞬間。

 俺の分析もリリアの直感も、どちらも正しく、そしてどちらも間違っていた。

 左のゴブリンの目的は、俺の足元に油のような液体をまくことだった。

 俺が右からの攻撃を警戒して踏み込んだ瞬間、その油で足が滑る。

(しまっ……!)

 ガシャン!

 大きく体勢を崩した俺に、本命の攻撃が襲いかかった。

 正面。
陽動だと思っていた2体のゴブリンが、俺の両腕の鎧のすきまに同時に短剣を突き立ててきたのだ。

「ぐっ……!」

 声にはならない衝撃が魂を揺さぶる。

 致命傷ではない。
だが、この鎧が俺自身の魂が形になったものだと、嫌というほど思い知らされた。

(ダメだ……。
俺の分析は役に立たない……)

 機械なら同じ入力には同じ出力を返す。

 だが、こいつらは生き物だ。
こちらの予測を裏切ってくる。

 そんな予測できないことのかたまりを、俺の「完璧な設計図」に落とし込むことなどできるはずがなかったのだ。

 失敗への恐怖が、また顔を出す。

 動きが鈍る。思考がにごる。

 鉄の体が、俺自身の魂に縛り付けられていく。

 そのすきを、ゴブリンたちが見逃すはずもなかった。

 後衛の弓部隊が、明確な殺意を持ってリリアがいるであろう胸の鎧めがけて、一斉に矢を放ってきた。

「アルマッ!」

 リリアの悲鳴のような声。

 俺は迫りくる矢の雨を前に、ただ立ちすくむことしか……。

 その時だった。

 ◇ ◇ ◇

「アルマ!
 わたくしに、あなたの『盾』を預けてください!」

 鎧の中から聞こえたリリアの声は、俺の凍りついた魂を叩き起こす力強い響きを持っていた。

(盾を……? 
どういう意味だ、リリア!?)

「あなたは敵全体の動きの『分析』だけに集中してください!
 一体一体の攻撃への対処は、わたくしの『直感』で案内します!」

 役割分担。
俺に戦いの全体的な分析を。
彼女に瞬間的な回避行動の判断を。

 それはあまりにも大胆で、無謀な提案だった。

 俺の体の制御を、ほぼ完全に彼女にまかせるということだ。一瞬の判断ミスが俺たち二人の死につながる。

(そんな危険なこと、できるわけ……!)

「できます!」

 俺のためらいをリリアはどなった。

「あなたはあなたの仕事を。
わたくしはわたくしの仕事を。そしてそれをつなぐのが、わたくしたちの『絆』なのでしょう!? 
わたくしたちは二人で一つの騎士なのですから!」

 その言葉にハッとさせられた。

 そうだ。
俺はいつの間にかまた一人で戦おうとしていた。

 だからバラバラになったんだ。
 この鎧は俺とリリア、二人のものなんだ。

(……分かった。
リリア、俺の体をお前に預ける)

 俺は覚悟を決めた。

 迫りくる矢の雨を、もはや直接視ることはしない。
意識を戦場全体を見下ろす、より高いレベルへと飛ばす。

 敵12体の位置、動き、間隔、視線、呼吸のリズム……。

 全ての情報を《機構造解析》が、リアルタイムで処理していく。

 脳内に敵の連携の、巨大で複雑な「設計図」が描き出されていく。

 そして俺が手放した体の制御を、リリアが完全につかんだ。

「アルマ、右腕で防御! 
そのまま半歩後退!」

 リリアの直感的な指示が魂に直接響く。

 俺は思考をはさまず、ただ彼女の言葉を信じてその通りに鉄の体を動かす。

 ガキン!

 右腕の鎧が、少しのズレもなく矢の弾道をふさぐ。

「左から短剣! 体をひねって回避!」

 俺の体が滑るように回転する。
わき腹を狙ったゴブリンの刃が空を切った。

 最初はぎこちなかった。
だが、攻防を続けるうちに、そのズレが確実に一つになっていくのが分かった。

 俺の描く敵の連携の「設計図」。
 リリアが視る霊素エーテルの高まりという「回路図」。

 二つの情報が俺たちの魂の中で響き合い、一つの完璧な答えを導き出し始める。

(……見えてきた)

 無数の攻撃の糸がからみあう、その中心。
全ての動きをコントロールしている、たった一本の重要な糸が。

(リリア、聞こえるか。
後衛、右から三番目の弓ゴブリン。
あいつがこの連携の『核』だ!)

 俺がついに敵の指揮官役を見抜いた、その瞬間。

 リリアの魂からどう猛なまでの喜びと、絶対的な信頼の光があふれ出した。

「ええ、視えています、アルマ!
  最高の『設計図』、確かに受け取りました!」
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