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第一章:鬼灯横丁の怪医者
第十九話:祭りの夜の異変
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鬼灯横丁の夜祭りは、おみつにとって驚きと感動の連続だった。
人間と妖怪が手を取り合い、共に楽しむその光景は、これまでの常識を覆すものだった。
しかし、平和な祭りの夜は、突如として不穏な影に包まれることになる。
祭りの賑わいが最高潮に達した頃、突如として、横丁の奥からけたたましい悲鳴が響き渡った。
続いて、人々の混乱した声と、物が倒れるような大きな音が聞こえてくる。
「何だ!?」
古尾が驚いて声を上げた。おみつもまた、胸騒ぎを覚え、玄庵の顔を見た。
玄庵の表情は、一瞬にして険しくなっていた。
「悪質な妖怪が、人間を惑わしていますな」
玄庵はそう呟くと、人混みを掻き分け、悲鳴の聞こえた方へと足早に進んでいった。
おみつと古尾も、玄庵の後に続いて走り出した。
横丁の奥の一角は、見るも無残な光景と化していた。屋台はひっくり返り、あたりには甘い匂いと焦げた匂いが混じり合って漂っている。
人々は恐怖に顔を歪め、右往左往していた。そして、その混乱の中心には、異様な姿の妖怪がいた。
その妖怪は、巨大な提灯の形をしていた。しかし、その提灯は赤く脈動し、無数の目が不気味に光っている。
提灯の口からは、甘く誘惑的な声が響き、その声を聞いた人々は、まるで操られるかのように、虚ろな目で笑いながら、互いにぶつかり合ったり、奇妙な踊りを踊り始めたりしていた。
「これは、惑(まどわし)の提灯! 人の心を惑わし、正気を失わせる妖怪だ!」
古尾が顔色を変えて叫んだ。おみつもまた、その提灯の妖怪から発せられる、精神をかき乱すような不快な気配を感じ、思わず顔を覆った。
「先生! どうすればいいんですか!?」
おみつが尋ねると、玄庵は惑いの提灯をじっと見据えていた。彼の瞳は、提灯の奥に潜む何かを捉えているかのように鋭く光っていた。
「惑いの提灯は、人の欲と怠惰を糧とする。彼らの心を惑わすことで、自身の力を増幅させる。しかし、その根源を断たねば、事態は収拾しない」
玄庵はそう言うと、懐から一本の清らかなる矢を取り出した。その矢は、銀色の光を放ち、どこか神聖な雰囲気を纏っていた。
玄庵がその矢を構える姿は、まるで伝説の弓使いのようだった。
惑いの提灯は、玄庵の殺気に気づいたのか、さらに強く脈動し、より多くの人々を惑わそうと甘い声を響かせた。
提灯の周囲には、混乱した人々が集まり、玄庵の邪魔をするかのようにその行く手を阻む。
「邪魔だてするな!」
古尾が声を張り上げて、混乱した人々を押し退けようとするが、多勢に無勢だ。おみつもまた、人々を避難させようと必死に声を上げる。
その時、玄庵は意を決したように、矢を放った。
矢は、提灯の妖怪が放つ甘い誘惑の声を切り裂くように、一直線に提灯の核心へと向かって飛んでいく。
しかし、提灯の妖怪は、間一髪でその身をよじり、矢を避けた。矢は、提灯の横をかすめ、地面に突き刺さった。
「くそっ!」
古尾が悔しげに呟いた。しかし、玄庵は動じていなかった。彼は、再び矢を構えた。
「惑いの提灯の本体は、その中にある蝋燭。あれを消さねば、この惑いは止まらない」
玄庵はそう告げた。しかし、混乱した人々が邪魔をして、提灯の本体を狙うのは至難の業だった。
その時、おみつは、玄庵の言葉と、以前玄庵から教わった「見える力」の可能性を思い出した。そして、かつて影喰いを追い詰めた時のことを。
「先生! 私が、あの妖怪の動きを視(み)ます! 先生は、私の声に合わせて矢を放ってください!」
おみつは、必死に玄庵に訴えた。
玄庵は一瞬、おみつに目を向けたが、その瞳には、おみつの提案に乗るかどうか迷う様子は見られなかった。
ただ、おみつを信頼するような、静かな光が宿っていた。
「……良いでしょう」
玄庵は短くそう答えた。
おみつは、惑いの提灯から発せられる不快な気配に意識を集中させた。
すると、惑いの提灯の動きが、まるでスローモーションのように、おみつの目にはっきりと映し出されるようになった。
提灯のわずかな動きの癖、次に動こうとする方向、そして、蝋燭が最も無防備になる瞬間。
「右です! 今、少しだけ開きました!」
おみつは、研ぎ澄まされた集中力で、提灯の動きを読み取り、玄庵に的確に指示を飛ばした。
玄庵は、おみつの声に寸分違わず反応し、二本目の矢を放った。
矢は、おみつの指示通り、提灯のわずかな隙間を縫って飛び込み、その内部で輝く蝋燭へと突き刺さった。
刹那、提灯の妖怪は、悲鳴を上げ、その光を失った。
赤く脈動していた提灯は、まるで風船がしぼむように萎んでいき、最後には、何の変哲もない古びた提灯へと戻ってしまった。
提灯の妖怪が消え去ると、人々を惑わせていた甘い誘惑の声は消え失せ、混乱していた人々も、ハッと正気を取り戻した。
人々は、自分たちが何をしていたのか理解できず、呆然と立ち尽くしていた。
玄庵は、鎮まった提灯を静かに見つめていた。
その表情は、いつもの冷静さを保っているが、どこか遠い目をして、祭りの喧騒の中にたたずんでいる。
おみつは、今回の事件で、玄庵の人間離れした力の一端を改めて目の当たりにした。
そして、自分もまた、彼の治療の助けとなることができると実感し、助手としての成長を感じていた。
祭りは、これで終わりを告げた。人々は戸惑いながらも、それぞれの家路につく。
しかし、この夜の出来事は、鬼灯横丁の住人たち、そしておみつの心に、深く刻み込まれることになった。
人間と妖怪が手を取り合い、共に楽しむその光景は、これまでの常識を覆すものだった。
しかし、平和な祭りの夜は、突如として不穏な影に包まれることになる。
祭りの賑わいが最高潮に達した頃、突如として、横丁の奥からけたたましい悲鳴が響き渡った。
続いて、人々の混乱した声と、物が倒れるような大きな音が聞こえてくる。
「何だ!?」
古尾が驚いて声を上げた。おみつもまた、胸騒ぎを覚え、玄庵の顔を見た。
玄庵の表情は、一瞬にして険しくなっていた。
「悪質な妖怪が、人間を惑わしていますな」
玄庵はそう呟くと、人混みを掻き分け、悲鳴の聞こえた方へと足早に進んでいった。
おみつと古尾も、玄庵の後に続いて走り出した。
横丁の奥の一角は、見るも無残な光景と化していた。屋台はひっくり返り、あたりには甘い匂いと焦げた匂いが混じり合って漂っている。
人々は恐怖に顔を歪め、右往左往していた。そして、その混乱の中心には、異様な姿の妖怪がいた。
その妖怪は、巨大な提灯の形をしていた。しかし、その提灯は赤く脈動し、無数の目が不気味に光っている。
提灯の口からは、甘く誘惑的な声が響き、その声を聞いた人々は、まるで操られるかのように、虚ろな目で笑いながら、互いにぶつかり合ったり、奇妙な踊りを踊り始めたりしていた。
「これは、惑(まどわし)の提灯! 人の心を惑わし、正気を失わせる妖怪だ!」
古尾が顔色を変えて叫んだ。おみつもまた、その提灯の妖怪から発せられる、精神をかき乱すような不快な気配を感じ、思わず顔を覆った。
「先生! どうすればいいんですか!?」
おみつが尋ねると、玄庵は惑いの提灯をじっと見据えていた。彼の瞳は、提灯の奥に潜む何かを捉えているかのように鋭く光っていた。
「惑いの提灯は、人の欲と怠惰を糧とする。彼らの心を惑わすことで、自身の力を増幅させる。しかし、その根源を断たねば、事態は収拾しない」
玄庵はそう言うと、懐から一本の清らかなる矢を取り出した。その矢は、銀色の光を放ち、どこか神聖な雰囲気を纏っていた。
玄庵がその矢を構える姿は、まるで伝説の弓使いのようだった。
惑いの提灯は、玄庵の殺気に気づいたのか、さらに強く脈動し、より多くの人々を惑わそうと甘い声を響かせた。
提灯の周囲には、混乱した人々が集まり、玄庵の邪魔をするかのようにその行く手を阻む。
「邪魔だてするな!」
古尾が声を張り上げて、混乱した人々を押し退けようとするが、多勢に無勢だ。おみつもまた、人々を避難させようと必死に声を上げる。
その時、玄庵は意を決したように、矢を放った。
矢は、提灯の妖怪が放つ甘い誘惑の声を切り裂くように、一直線に提灯の核心へと向かって飛んでいく。
しかし、提灯の妖怪は、間一髪でその身をよじり、矢を避けた。矢は、提灯の横をかすめ、地面に突き刺さった。
「くそっ!」
古尾が悔しげに呟いた。しかし、玄庵は動じていなかった。彼は、再び矢を構えた。
「惑いの提灯の本体は、その中にある蝋燭。あれを消さねば、この惑いは止まらない」
玄庵はそう告げた。しかし、混乱した人々が邪魔をして、提灯の本体を狙うのは至難の業だった。
その時、おみつは、玄庵の言葉と、以前玄庵から教わった「見える力」の可能性を思い出した。そして、かつて影喰いを追い詰めた時のことを。
「先生! 私が、あの妖怪の動きを視(み)ます! 先生は、私の声に合わせて矢を放ってください!」
おみつは、必死に玄庵に訴えた。
玄庵は一瞬、おみつに目を向けたが、その瞳には、おみつの提案に乗るかどうか迷う様子は見られなかった。
ただ、おみつを信頼するような、静かな光が宿っていた。
「……良いでしょう」
玄庵は短くそう答えた。
おみつは、惑いの提灯から発せられる不快な気配に意識を集中させた。
すると、惑いの提灯の動きが、まるでスローモーションのように、おみつの目にはっきりと映し出されるようになった。
提灯のわずかな動きの癖、次に動こうとする方向、そして、蝋燭が最も無防備になる瞬間。
「右です! 今、少しだけ開きました!」
おみつは、研ぎ澄まされた集中力で、提灯の動きを読み取り、玄庵に的確に指示を飛ばした。
玄庵は、おみつの声に寸分違わず反応し、二本目の矢を放った。
矢は、おみつの指示通り、提灯のわずかな隙間を縫って飛び込み、その内部で輝く蝋燭へと突き刺さった。
刹那、提灯の妖怪は、悲鳴を上げ、その光を失った。
赤く脈動していた提灯は、まるで風船がしぼむように萎んでいき、最後には、何の変哲もない古びた提灯へと戻ってしまった。
提灯の妖怪が消え去ると、人々を惑わせていた甘い誘惑の声は消え失せ、混乱していた人々も、ハッと正気を取り戻した。
人々は、自分たちが何をしていたのか理解できず、呆然と立ち尽くしていた。
玄庵は、鎮まった提灯を静かに見つめていた。
その表情は、いつもの冷静さを保っているが、どこか遠い目をして、祭りの喧騒の中にたたずんでいる。
おみつは、今回の事件で、玄庵の人間離れした力の一端を改めて目の当たりにした。
そして、自分もまた、彼の治療の助けとなることができると実感し、助手としての成長を感じていた。
祭りは、これで終わりを告げた。人々は戸惑いながらも、それぞれの家路につく。
しかし、この夜の出来事は、鬼灯横丁の住人たち、そしておみつの心に、深く刻み込まれることになった。
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