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第二章:絡み合う糸、深まる謎
第二十八話:二つの正義
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退魔師・竜胆の来訪は、玄庵の過去に新たな光を当てると同時に、異なる「正義」がぶつかり合う予感をもたらした。
竜胆は妖怪を問答無用で排除しようとし、玄庵は彼らの根源にある悲しみや業を癒やそうとする。その異なる信念に、おみつはどちらが正しいのかと思い悩む。
竜胆が去った後も、診療所には重苦しい空気が残っていた。おみつは、その場に立ち尽くしたまま、全身から力が抜けていくのを感じていた。
玄庵は、竜胆と対峙した時と変わらぬ静かな表情で、再び薬草の調合を始めた。しかし、その手つきは、いつもよりわずかに重いように見えた。
おみつは、竜胆の言葉を反芻していた。
「妖怪は妖怪だ。人の世に害をなすのであれば、問答無用で調伏する」。
そして、玄庵の言葉。
「闇雲に妖怪を排除するだけでは、何も解決しない。闇は、また別の闇を生み出すだけだ」。
どちらの言葉も、それぞれの理があるように思えた。
「先生……竜胆さんの言うことも、分からなくはない、です」
おみつは、絞り出すように玄庵に問いかけた。
「私たち人間にとって、妖怪は時に恐ろしい存在です。危害を加えられたら、排除したいと思うのは、当然のことではないでしょうか」
玄庵は、おみつの言葉に、ゆっくりと視線を向けた。その瞳は、おみつの心の葛藤を見透かすかのように、深く、そして静かだった。
「その感情は、理解できる。だが、おみつ。あなたはこれまで、様々な妖怪と出会ってきた。彼らは、皆、純粋な悪意だけで存在していたか?」
玄庵の言葉に、おみつはハッとした。
確かに、天邪鬼に憑かれた少女の病も、簪に宿る悲しみの妖怪も、そして古井戸の水の精霊も、彼らの存在の根源には、人間の情念や、過去の悲しみ、裏切りがあった。
彼らは、ただ悪意をもって人間を害していたわけではない。
「彼らの存在は、往々にして、人の心の歪みや、世界の理の綻びによって生まれる。それを、ただ力でねじ伏せるだけでは、根本的な解決にはならない。なぜなら、その心の歪みや理の綻びが、また新たな妖怪を生み出すからだ」
玄庵の言葉は、静かでありながら、説得力に満ちていた。それは、彼が「癒やされぬ傷」と呼ぶ過去の経験から得た、痛ましい真実なのだろう。
「竜胆は、この世の穢れを清めようと力を振るっている。彼の正義もまた、この世の秩序を守るという一点においては、私と同じだ。だが、その手法が異なる」
玄庵は、そう言って、丁寧に薬草をすり潰し始めた。その手つきは、まるで一つ一つの薬草に、魂を込めているかのようだった。
「彼は、穢れを断ち切ろうとする。私は、穢れそのものを癒やそうとしている。それが、我々の違いだ」
おみつは、玄庵の言葉を反芻した。
断ち切る者と、癒やす者。どちらも、この世の乱れを正そうとしている。しかし、その道は、全く異なる。
「どちらが正しいのか、私にはまだ、分かりません……」
おみつが正直にそう言うと、玄庵は微かに口元を緩めた。
それは、おみつの苦悩を理解しているかのような、優しい微笑みだった。
「どちらが正しいのか、などと、簡単に答えの出るものではない。だが、あなたは、これまで私の傍で、様々な人間と妖怪の関わりを見てきた。あなたの目で、あなたの心で、感じ取ればいい」
玄庵の言葉は、おみつに答えを与えるものではなく、自ら考え、見出すことを促すものだった。
おみつは、玄庵の言葉に深く頷いた。自分はまだ、この世界の真理のほんの一部しか知らない。しかし、玄庵の傍で、様々な奇病や妖怪たちと向き合う中で、少しずつ、その答えの糸口を見つけられるのではないかと感じた。
この日、おみつは、玄庵と竜胆、二つの異なる「正義」の狭間で、自身の立ち位置を見つめ直すことになった。
それは、単なる助手としての役割を超え、人間と妖怪が共存する未来を模索する、おみつ自身の新たな旅の始まりを告げるものだった。
そして、玄庵の深い慈悲と、彼が背負う過去の重みを、より一層感じ取っていた。
竜胆は妖怪を問答無用で排除しようとし、玄庵は彼らの根源にある悲しみや業を癒やそうとする。その異なる信念に、おみつはどちらが正しいのかと思い悩む。
竜胆が去った後も、診療所には重苦しい空気が残っていた。おみつは、その場に立ち尽くしたまま、全身から力が抜けていくのを感じていた。
玄庵は、竜胆と対峙した時と変わらぬ静かな表情で、再び薬草の調合を始めた。しかし、その手つきは、いつもよりわずかに重いように見えた。
おみつは、竜胆の言葉を反芻していた。
「妖怪は妖怪だ。人の世に害をなすのであれば、問答無用で調伏する」。
そして、玄庵の言葉。
「闇雲に妖怪を排除するだけでは、何も解決しない。闇は、また別の闇を生み出すだけだ」。
どちらの言葉も、それぞれの理があるように思えた。
「先生……竜胆さんの言うことも、分からなくはない、です」
おみつは、絞り出すように玄庵に問いかけた。
「私たち人間にとって、妖怪は時に恐ろしい存在です。危害を加えられたら、排除したいと思うのは、当然のことではないでしょうか」
玄庵は、おみつの言葉に、ゆっくりと視線を向けた。その瞳は、おみつの心の葛藤を見透かすかのように、深く、そして静かだった。
「その感情は、理解できる。だが、おみつ。あなたはこれまで、様々な妖怪と出会ってきた。彼らは、皆、純粋な悪意だけで存在していたか?」
玄庵の言葉に、おみつはハッとした。
確かに、天邪鬼に憑かれた少女の病も、簪に宿る悲しみの妖怪も、そして古井戸の水の精霊も、彼らの存在の根源には、人間の情念や、過去の悲しみ、裏切りがあった。
彼らは、ただ悪意をもって人間を害していたわけではない。
「彼らの存在は、往々にして、人の心の歪みや、世界の理の綻びによって生まれる。それを、ただ力でねじ伏せるだけでは、根本的な解決にはならない。なぜなら、その心の歪みや理の綻びが、また新たな妖怪を生み出すからだ」
玄庵の言葉は、静かでありながら、説得力に満ちていた。それは、彼が「癒やされぬ傷」と呼ぶ過去の経験から得た、痛ましい真実なのだろう。
「竜胆は、この世の穢れを清めようと力を振るっている。彼の正義もまた、この世の秩序を守るという一点においては、私と同じだ。だが、その手法が異なる」
玄庵は、そう言って、丁寧に薬草をすり潰し始めた。その手つきは、まるで一つ一つの薬草に、魂を込めているかのようだった。
「彼は、穢れを断ち切ろうとする。私は、穢れそのものを癒やそうとしている。それが、我々の違いだ」
おみつは、玄庵の言葉を反芻した。
断ち切る者と、癒やす者。どちらも、この世の乱れを正そうとしている。しかし、その道は、全く異なる。
「どちらが正しいのか、私にはまだ、分かりません……」
おみつが正直にそう言うと、玄庵は微かに口元を緩めた。
それは、おみつの苦悩を理解しているかのような、優しい微笑みだった。
「どちらが正しいのか、などと、簡単に答えの出るものではない。だが、あなたは、これまで私の傍で、様々な人間と妖怪の関わりを見てきた。あなたの目で、あなたの心で、感じ取ればいい」
玄庵の言葉は、おみつに答えを与えるものではなく、自ら考え、見出すことを促すものだった。
おみつは、玄庵の言葉に深く頷いた。自分はまだ、この世界の真理のほんの一部しか知らない。しかし、玄庵の傍で、様々な奇病や妖怪たちと向き合う中で、少しずつ、その答えの糸口を見つけられるのではないかと感じた。
この日、おみつは、玄庵と竜胆、二つの異なる「正義」の狭間で、自身の立ち位置を見つめ直すことになった。
それは、単なる助手としての役割を超え、人間と妖怪が共存する未来を模索する、おみつ自身の新たな旅の始まりを告げるものだった。
そして、玄庵の深い慈悲と、彼が背負う過去の重みを、より一層感じ取っていた。
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