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第二章:絡み合う糸、深まる謎
第三十七話:盗まれた霊薬
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夜叉丸の去った後も不穏な空気が残る中、診療所から、ある特殊な病に効く貴重な霊薬が盗まれるという事件が発生した。
その日の夜、診療所の奥にある、玄庵が厳重に管理しているはずの霊薬棚から、異変が起きた。
普段は鍵がかけられているはずの棚の扉が、わずかに開いている。
そして、中には、玄庵が最も大切にしている、いくつもの小瓶が収められた箱が、ぽっかりと空になっているのをおみつは発見した。
「先生! 大変です! 霊薬が……霊薬がなくなっています!」
おみつは、慌てて玄庵に報告した。
玄庵は、おみつの声にハッと顔を上げ、霊薬棚の異変に気づくと、その瞳に鋭い光が宿った。
「馬鹿な……」
玄庵は、霊薬棚に近づき、中を覗き込んだ。
彼の顔には、普段は決して見せない、動揺の色が浮かんでいる。
霊薬棚は、玄庵以外には触れることのできない、厳重な結界が張られていたはずだ。
それを破って中に入り、霊薬を盗み出すなど、並大抵の者には不可能だ。
「誰が……一体、誰がこんなことを……?」
おみつは、周囲を見回したが、荒らされた形跡はなく、盗んだ者の手掛かりは一切見当たらない。
その時、古尾がひょっこり姿を現した。彼の鼻が、くんくんと何かを嗅ぎ取るように動いている。
「へっへっへ、先生、こいつは嗅ぎ慣れた匂いですぜ。まさか、あいつが……」
古尾が指さした方向には、診療所の外へと続く、微かな土の足跡が残っていた。その足跡は、小さく、人間のものとは思えない。
玄庵は、その足跡を一瞥すると、すぐに犯人の正体を悟ったようだった。その瞳に、複雑な感情が宿る。
「……やはり、貴様か」
玄庵はそう呟くと、霊薬棚の前に立ち尽くした。
「先生、犯人は誰なのですか? まさか、あの夜叉丸が……?」
おみつが尋ねると、玄庵は静かに首を振った。
「夜叉丸ではない。犯人は……診療所に何度も出入りしている、意外な人物だ」
玄庵の言葉に、おみつはハッとした。診療所に出入りしている者。古尾、玉藻、そして、楓や村人たち。まさか、彼らの中に、そんなことをする者がいるというのか?
玄庵は、盗まれた霊薬の種類を思い返し、顔色を変えた。
「盗まれたのは、特に強力な浄化作用を持つ霊薬だ。並の者が扱えば、その身を滅ぼしかねない。一体、何の目的で……」
玄庵はそう言うと、霊薬が盗まれた方向へと、静かに歩き始めた。おみつと古尾もまた、玄庵の後を追う。
夜の鬼灯横丁は、静寂に包まれていた。微かな風が、木々を揺らす音が聞こえるばかりだ。玄庵は、地面に残された微かな足跡を辿りながら、小道を奥へと進んでいく。
やがて、足跡は横丁の隅にある、小さな地蔵堂の前で途絶えた。地蔵堂の周りは、最近になって清められたのか、以前よりも清らかな気が満ちているように見えた。
玄庵は、地蔵堂の前に立ち、静かに目を閉じた。そして、小さく息を吸い込むと、その瞳をゆっくりと開いた。
「出てきなさい。そこにいるのは分かっている」
玄庵の言葉に、地蔵堂の影から、小柄な人影がひょっこりと姿を現した。
それは、紛れもない、あの座敷童子だった。
彼の小さな手には、玄庵の霊薬が入っていたはずの小瓶が、ぎゅっと握り締められている。
座敷童子の顔には、怯えと、そして何か大きな秘密を抱えているかのような、複雑な表情が浮かんでいた。
「座敷童子!? あなたが、どうして……」
おみつは驚きを隠せない。座敷童子は、診療所に住み着こうとしたり、幸運をもたらしたりする、どこか憎めない妖怪だった。まさか、彼が霊薬を盗むとは、夢にも思わなかった。
玄庵は、座敷童子の表情を見つめ、静かに問いかけた。
「なぜ、私の霊薬を盗んだ。そして、その薬で、何をしようとしている」
玄庵の声は、普段よりもわずかに厳しく、しかし、どこか悲しみを帯びているようにも聞こえた。座敷童子は、玄庵の問いに答えることなく、ただ小瓶を胸に抱きしめ、ふるふると震えている。
座敷童子が霊薬を盗んだ動機とは。そして、彼がその薬で何をしようとしているのか。玄庵の表情が険しくなる中、この小さな妖怪の背後に隠された、意外な真実が明らかになろうとしていた。
その日の夜、診療所の奥にある、玄庵が厳重に管理しているはずの霊薬棚から、異変が起きた。
普段は鍵がかけられているはずの棚の扉が、わずかに開いている。
そして、中には、玄庵が最も大切にしている、いくつもの小瓶が収められた箱が、ぽっかりと空になっているのをおみつは発見した。
「先生! 大変です! 霊薬が……霊薬がなくなっています!」
おみつは、慌てて玄庵に報告した。
玄庵は、おみつの声にハッと顔を上げ、霊薬棚の異変に気づくと、その瞳に鋭い光が宿った。
「馬鹿な……」
玄庵は、霊薬棚に近づき、中を覗き込んだ。
彼の顔には、普段は決して見せない、動揺の色が浮かんでいる。
霊薬棚は、玄庵以外には触れることのできない、厳重な結界が張られていたはずだ。
それを破って中に入り、霊薬を盗み出すなど、並大抵の者には不可能だ。
「誰が……一体、誰がこんなことを……?」
おみつは、周囲を見回したが、荒らされた形跡はなく、盗んだ者の手掛かりは一切見当たらない。
その時、古尾がひょっこり姿を現した。彼の鼻が、くんくんと何かを嗅ぎ取るように動いている。
「へっへっへ、先生、こいつは嗅ぎ慣れた匂いですぜ。まさか、あいつが……」
古尾が指さした方向には、診療所の外へと続く、微かな土の足跡が残っていた。その足跡は、小さく、人間のものとは思えない。
玄庵は、その足跡を一瞥すると、すぐに犯人の正体を悟ったようだった。その瞳に、複雑な感情が宿る。
「……やはり、貴様か」
玄庵はそう呟くと、霊薬棚の前に立ち尽くした。
「先生、犯人は誰なのですか? まさか、あの夜叉丸が……?」
おみつが尋ねると、玄庵は静かに首を振った。
「夜叉丸ではない。犯人は……診療所に何度も出入りしている、意外な人物だ」
玄庵の言葉に、おみつはハッとした。診療所に出入りしている者。古尾、玉藻、そして、楓や村人たち。まさか、彼らの中に、そんなことをする者がいるというのか?
玄庵は、盗まれた霊薬の種類を思い返し、顔色を変えた。
「盗まれたのは、特に強力な浄化作用を持つ霊薬だ。並の者が扱えば、その身を滅ぼしかねない。一体、何の目的で……」
玄庵はそう言うと、霊薬が盗まれた方向へと、静かに歩き始めた。おみつと古尾もまた、玄庵の後を追う。
夜の鬼灯横丁は、静寂に包まれていた。微かな風が、木々を揺らす音が聞こえるばかりだ。玄庵は、地面に残された微かな足跡を辿りながら、小道を奥へと進んでいく。
やがて、足跡は横丁の隅にある、小さな地蔵堂の前で途絶えた。地蔵堂の周りは、最近になって清められたのか、以前よりも清らかな気が満ちているように見えた。
玄庵は、地蔵堂の前に立ち、静かに目を閉じた。そして、小さく息を吸い込むと、その瞳をゆっくりと開いた。
「出てきなさい。そこにいるのは分かっている」
玄庵の言葉に、地蔵堂の影から、小柄な人影がひょっこりと姿を現した。
それは、紛れもない、あの座敷童子だった。
彼の小さな手には、玄庵の霊薬が入っていたはずの小瓶が、ぎゅっと握り締められている。
座敷童子の顔には、怯えと、そして何か大きな秘密を抱えているかのような、複雑な表情が浮かんでいた。
「座敷童子!? あなたが、どうして……」
おみつは驚きを隠せない。座敷童子は、診療所に住み着こうとしたり、幸運をもたらしたりする、どこか憎めない妖怪だった。まさか、彼が霊薬を盗むとは、夢にも思わなかった。
玄庵は、座敷童子の表情を見つめ、静かに問いかけた。
「なぜ、私の霊薬を盗んだ。そして、その薬で、何をしようとしている」
玄庵の声は、普段よりもわずかに厳しく、しかし、どこか悲しみを帯びているようにも聞こえた。座敷童子は、玄庵の問いに答えることなく、ただ小瓶を胸に抱きしめ、ふるふると震えている。
座敷童子が霊薬を盗んだ動機とは。そして、彼がその薬で何をしようとしているのか。玄庵の表情が険しくなる中、この小さな妖怪の背後に隠された、意外な真実が明らかになろうとしていた。
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