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第三章:鬼の貌(かんばせ)、人の心
第四十五話:鬼の血脈
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山姥が診療所を訪れて以来、玄庵の周りの空気は、以前にも増して張り詰めていた。
山姥は、日中は玄庵の薬草の調合を見守ったり、時にはおみつに薬草の効能や扱い方について厳しくも的確な助言を与えたりしていた。
しかし、夜になると、玄庵と山姥は奥の部屋で、人には聞かせられないような、重い話をしているようだった。
ある夜、おみつは、どうしても二人の話が気になり、障子の影にそっと身を潜めた。
中からは、山姥の低い声と、それに答える玄庵の静かな声が聞こえてくる。
「……お主が、穢れを浄化する力を持つことは、鬼の血脈ゆえだ」
山姥の声が、おみつの耳に届いた。
おみつは、息を呑んだ。やはり、玄庵は「鬼」と関係があるのだ。
「だが、その力は、あまりにも強大で、制御を誤れば、自らを蝕み、周囲をも滅ぼす。お主がかつて、それを経験したのは、記憶に新しいはずじゃ」
山姥の言葉は、以前、夜叉丸が言っていた「諸刃の剣」という警告と重なる。
玄庵の持つ力が、どれほど危険なものであるのか、おみつは改めて知ることになった。
「私には、その力を制御しきれなかった過去があります。多くのものを失いました」
玄庵の声には、深い後悔と苦悩がにじんでいた。
それは、玄庵の「癒やされぬ傷」の根源にあるものだろう。
「うむ。お主は、人間と鬼の間の子として生まれた。その血には、鬼の持つ強大な力と、人間の持つ繊細な心が混じり合っておる。ゆえに、穢れを浄化できるが、同時に、穢れに染まりやすい危うさも抱えておるのじゃ」
山姥の言葉に、おみつは驚きを隠せない。
玄庵が、人間と鬼の間に生まれた存在? 彼の人間離れした容貌や、常人には視えぬものを見る力は、その出自ゆえだったのか。
そして、「鬼の医者」と呼ばれる所以も、そこにあったのだと、おみつは合点がいった。
「その力は、穢れを滅ぼすためだけに存在するものではない。穢れの根源にある、人々の悲しみや苦しみを癒やすためにこそ、お主の力はあるのじゃ」
山姥は、そう言って、静かに玄庵に語りかけた。
その言葉は、玄庵が今、医者として人々と妖怪の間に立ち、彼らの心を癒やそうとしていることの、意味を改めて問いかけているようだった。
「だからこそ、お主は力に頼るだけでなく、この娘のように、人々の心に寄り添うことを学ばねばならぬ。彼女は、お主には見えぬもの、人々の心に宿る光を見ることができる」
山姥は、そう言って、ちらりとおみつの方に視線を向けた。
おみつは、隠れているにもかかわらず、その視線に気づいたかのように、ハッと息を呑んだ。
「彼女は、お主の足りぬ部分を補い、お主を真の『癒やし手』へと導くじゃろう。だからこそ、神は彼女をお主の元に遣わしたのじゃ」
山姥の言葉は、おみつにとって、あまりにも衝撃的だった。
自分には、そんな大層な役割があるというのか。玄庵の役に立ちたいという思いはあったが、ここまで大きな意味を持つものだとは、夢にも思わなかった。
その夜、おみつは眠れなかった。
玄庵が人間と鬼の血を引く存在であること。彼の持つ力が、善にも悪にも傾きうる危険なものであること。
そして、自分が、その玄庵を支えるための存在であると、山姥に告げられたこと。
(先生は……そんなに大きなものを背負って、ずっと一人で戦ってきたんだ……)
おみつの心は、玄庵への深い理解と、そして彼を支えたいという、より一層強い決意で満たされた。同時に、自分に課せられた役割の大きさに、身震いするような畏れも感じていた。
しかし、恐怖よりも、玄庵と共に、この世界の「穢れ」と向き合いたいという気持ちが勝っていた。
山姥は、日中は玄庵の薬草の調合を見守ったり、時にはおみつに薬草の効能や扱い方について厳しくも的確な助言を与えたりしていた。
しかし、夜になると、玄庵と山姥は奥の部屋で、人には聞かせられないような、重い話をしているようだった。
ある夜、おみつは、どうしても二人の話が気になり、障子の影にそっと身を潜めた。
中からは、山姥の低い声と、それに答える玄庵の静かな声が聞こえてくる。
「……お主が、穢れを浄化する力を持つことは、鬼の血脈ゆえだ」
山姥の声が、おみつの耳に届いた。
おみつは、息を呑んだ。やはり、玄庵は「鬼」と関係があるのだ。
「だが、その力は、あまりにも強大で、制御を誤れば、自らを蝕み、周囲をも滅ぼす。お主がかつて、それを経験したのは、記憶に新しいはずじゃ」
山姥の言葉は、以前、夜叉丸が言っていた「諸刃の剣」という警告と重なる。
玄庵の持つ力が、どれほど危険なものであるのか、おみつは改めて知ることになった。
「私には、その力を制御しきれなかった過去があります。多くのものを失いました」
玄庵の声には、深い後悔と苦悩がにじんでいた。
それは、玄庵の「癒やされぬ傷」の根源にあるものだろう。
「うむ。お主は、人間と鬼の間の子として生まれた。その血には、鬼の持つ強大な力と、人間の持つ繊細な心が混じり合っておる。ゆえに、穢れを浄化できるが、同時に、穢れに染まりやすい危うさも抱えておるのじゃ」
山姥の言葉に、おみつは驚きを隠せない。
玄庵が、人間と鬼の間に生まれた存在? 彼の人間離れした容貌や、常人には視えぬものを見る力は、その出自ゆえだったのか。
そして、「鬼の医者」と呼ばれる所以も、そこにあったのだと、おみつは合点がいった。
「その力は、穢れを滅ぼすためだけに存在するものではない。穢れの根源にある、人々の悲しみや苦しみを癒やすためにこそ、お主の力はあるのじゃ」
山姥は、そう言って、静かに玄庵に語りかけた。
その言葉は、玄庵が今、医者として人々と妖怪の間に立ち、彼らの心を癒やそうとしていることの、意味を改めて問いかけているようだった。
「だからこそ、お主は力に頼るだけでなく、この娘のように、人々の心に寄り添うことを学ばねばならぬ。彼女は、お主には見えぬもの、人々の心に宿る光を見ることができる」
山姥は、そう言って、ちらりとおみつの方に視線を向けた。
おみつは、隠れているにもかかわらず、その視線に気づいたかのように、ハッと息を呑んだ。
「彼女は、お主の足りぬ部分を補い、お主を真の『癒やし手』へと導くじゃろう。だからこそ、神は彼女をお主の元に遣わしたのじゃ」
山姥の言葉は、おみつにとって、あまりにも衝撃的だった。
自分には、そんな大層な役割があるというのか。玄庵の役に立ちたいという思いはあったが、ここまで大きな意味を持つものだとは、夢にも思わなかった。
その夜、おみつは眠れなかった。
玄庵が人間と鬼の血を引く存在であること。彼の持つ力が、善にも悪にも傾きうる危険なものであること。
そして、自分が、その玄庵を支えるための存在であると、山姥に告げられたこと。
(先生は……そんなに大きなものを背負って、ずっと一人で戦ってきたんだ……)
おみつの心は、玄庵への深い理解と、そして彼を支えたいという、より一層強い決意で満たされた。同時に、自分に課せられた役割の大きさに、身震いするような畏れも感じていた。
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