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第三章:鬼の貌(かんばせ)、人の心
第六十五話:守るべきもの
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穢れに侵された隠れ里の中心で、玄庵は里の長である天狗や、生き残った数体の妖怪たちに囲まれていた。
彼らは皆、深い疲労と絶望の表情を浮かべている。里に蔓延する穢れは、彼らの命を蝕み、精神を深く病ませていた。
「玄庵様……このままでは、里は滅んでしまう……」
天狗が、か細い声で訴えた。彼の顔には、黒い斑点が広がり、その力強い瞳は濁っていた。
玄庵は、彼らの苦しみに、静かに耳を傾けていた。彼の掌からは、微かな妖気が放たれ、苦しむ妖怪たちを癒やそうとするが、広範囲に及ぶ穢れの前では、焼け石に水だった。
「蝕組の目的は、この里を完全に穢れに染め、私を誘き出すことだったのだろう。そして、この里の妖怪たちの絶望を、穢れの糧とするつもりだ」
玄庵の言葉は、冷たく響いた。影の狙いは、玄庵を精神的に追い詰め、自らの「鬼」の力を完全に解放させることにある。
そして、その解放された力を利用するか、あるいは暴走させて滅ぼすか。いずれにせよ、里の妖怪たちは、彼らの策略の犠牲になろうとしているのだ。
「そんな……。先生、どうすればいいんですか? この穢れ、どうしたら……」
おみつが、不安と焦りから玄庵に問いかけた。彼女の目は、苦しむ妖怪たちに向けられ、その痛みに共感していた。
玄庵は、ゆっくりと顔を上げた。彼の瞳に宿る赤い光は、一層強く輝いている。それは、怒りと、そして覚悟の光だった。
「穢れの根源を断たなければ、この里は救えぬ。そして、その根源は……この里の奥深く、最も清らかな場所にあるはずだ」
玄庵の言葉に、天狗が苦しそうに頷いた。
「……恐らくは、里の奥にある『生命の泉』でしょう。そこが、この里の力の源であり、最も穢されやすい場所でもあります」
「生命の泉……」
玄庵は、その言葉に、わずかに眉をひそめた。その泉は、隠れ里の命そのもの。そこが穢されれば、里は真に滅びる。
「私が行く。おみつ、古尾、里の妖怪たちを頼む」
玄庵が、単独で泉に向かおうとすると、おみつが慌てて彼の腕を掴んだ。
「先生! 一人で行くつもりですか!? 危険すぎます!」
「この穢れの深さは、並大抵ではない。それに、影が潜んでいる可能性もある。私が一人で向かった方が、お前たちを巻き込まずに済む」
玄庵の言葉は、彼なりの優しさだった。しかし、おみつは首を横に振った。
「嫌です! 先生を一人になんかさせません! 私が、先生の『枷』になるって、決めたんですから!」
おみつの瞳は、揺るぎない決意に満ちていた。あの夜、玄庵が理性を失いかけた時、彼女の声が彼を引き戻した。その経験が、彼女を強くした。
「おみつ……」
玄庵は、おみつのその強い意志に、わずかに戸惑いの表情を見せた。
「先生、おみつさんの言う通りでさぁ。こんな時に、一人で行かせるわけにはいきやせん。それに、拙者も、この里を守るために、何ができるか探してきやす!」
古尾もまた、玄庵の前に立ちはだかった。彼の表情は、いつもの飄々とした調子ではなく、真剣そのものだった。古尾は、この里を故郷とする妖怪だ。故郷が穢されるのを、黙って見ていることなどできない。
玄庵は、二人の揺るぎない覚悟を見て、静かに息を吐いた。
「……わかった。だが、決して無理はするな」
彼の言葉には、信頼と、そして二人の安否を気遣う気持ちが込められていた。
「玉藻様は、拙者と一緒に行きやしょう。先生のお邪魔になることはありやせんから」
古尾がそう言うと、玉藻はにゃあ、と鳴いて頷いた。玉藻は、玄庵の力をある程度理解している。この戦いで、自分がどう動くべきか、分かっているのだろう。
玄庵とおみつは、穢れに侵された里の奥深くへと足を踏み入れた。
足を進めるごとに、穢れの瘴気は濃くなり、空気は重く、肌を刺すように冷たい。彼らの前方には、禍々しい妖気が渦巻く、不気味な光景が広がっていた。それは、影が放つ穢れの根源に近づいている証拠だった。
「これは……」
おみつは、その圧倒的な穢れの量に、思わず息を呑んだ。
「気をつけろ、おみつ。ここからは、奴の領域だ」
玄庵は、おみつの手を握り、静かに言った。彼の掌からは、温かい妖気が流れ込み、おみつの不安を和らげた。
やがて、彼らの目の前に、光を失った「生命の泉」が現れた。かつては清らかな水が湧き出ていたはずの泉は、黒く澱み、そこからおぞましい穢れが噴き出していた。そして、泉の畔には、黒い装束をまとった男、蝕組の頭領・影が立っていた。
「来たな、玄庵。お前の大切な里が、穢れに染まる様は、さぞかし見応えがあったことだろう」
影の声は、冷たく、嘲笑を含んでいた。彼の身体からは、禍々しい穢れがとめどなく溢れ出し、泉の穢れを増幅させている。
「貴様を、ここで止める。これ以上の悲劇は、許さぬ」
玄庵の瞳に、強い光が宿った。
彼は、自らの過去と向き合い、影の歪んだ野望を打ち砕くことを決意したのだ。彼の背後には、彼を信じ、共に立ち向かうおみつの存在がある。
影は、玄庵の決意を嘲笑うかのように、手を広げた。
「無駄なことだ、玄庵。お前は、所詮、弱すぎる。その半端な力で、私を止められるとでも思うのか?」
影の言葉が、玄庵の心の奥底に響く。しかし、玄庵は動じなかった。
「私は、もう迷わない。守るべきものが、ここにあるからだ!」
玄庵は、そう叫ぶと、影に向かって一歩踏み出した。彼の全身から、あの赤い妖気が噴き出し、穢れの瘴気を押し返していく。
それは、過去の苦しみを乗り越え、大切なものを守るために覚悟を決めた、玄庵の「鬼」としての力が、今、完全に解放されようとしている証だった。
穢れに侵された生命の泉の前で、蝕組の頭領・影と、玄庵の最後の戦いが始まろうとしていた。
おみつは、玄庵の傍らに立ち、彼を信じる思いを込めて、その力を注ぎ込もうとしていた。
隠れ里の命運、そしてこの世界の未来が、今、この場での戦いに委ねられようとしていた。
彼らは皆、深い疲労と絶望の表情を浮かべている。里に蔓延する穢れは、彼らの命を蝕み、精神を深く病ませていた。
「玄庵様……このままでは、里は滅んでしまう……」
天狗が、か細い声で訴えた。彼の顔には、黒い斑点が広がり、その力強い瞳は濁っていた。
玄庵は、彼らの苦しみに、静かに耳を傾けていた。彼の掌からは、微かな妖気が放たれ、苦しむ妖怪たちを癒やそうとするが、広範囲に及ぶ穢れの前では、焼け石に水だった。
「蝕組の目的は、この里を完全に穢れに染め、私を誘き出すことだったのだろう。そして、この里の妖怪たちの絶望を、穢れの糧とするつもりだ」
玄庵の言葉は、冷たく響いた。影の狙いは、玄庵を精神的に追い詰め、自らの「鬼」の力を完全に解放させることにある。
そして、その解放された力を利用するか、あるいは暴走させて滅ぼすか。いずれにせよ、里の妖怪たちは、彼らの策略の犠牲になろうとしているのだ。
「そんな……。先生、どうすればいいんですか? この穢れ、どうしたら……」
おみつが、不安と焦りから玄庵に問いかけた。彼女の目は、苦しむ妖怪たちに向けられ、その痛みに共感していた。
玄庵は、ゆっくりと顔を上げた。彼の瞳に宿る赤い光は、一層強く輝いている。それは、怒りと、そして覚悟の光だった。
「穢れの根源を断たなければ、この里は救えぬ。そして、その根源は……この里の奥深く、最も清らかな場所にあるはずだ」
玄庵の言葉に、天狗が苦しそうに頷いた。
「……恐らくは、里の奥にある『生命の泉』でしょう。そこが、この里の力の源であり、最も穢されやすい場所でもあります」
「生命の泉……」
玄庵は、その言葉に、わずかに眉をひそめた。その泉は、隠れ里の命そのもの。そこが穢されれば、里は真に滅びる。
「私が行く。おみつ、古尾、里の妖怪たちを頼む」
玄庵が、単独で泉に向かおうとすると、おみつが慌てて彼の腕を掴んだ。
「先生! 一人で行くつもりですか!? 危険すぎます!」
「この穢れの深さは、並大抵ではない。それに、影が潜んでいる可能性もある。私が一人で向かった方が、お前たちを巻き込まずに済む」
玄庵の言葉は、彼なりの優しさだった。しかし、おみつは首を横に振った。
「嫌です! 先生を一人になんかさせません! 私が、先生の『枷』になるって、決めたんですから!」
おみつの瞳は、揺るぎない決意に満ちていた。あの夜、玄庵が理性を失いかけた時、彼女の声が彼を引き戻した。その経験が、彼女を強くした。
「おみつ……」
玄庵は、おみつのその強い意志に、わずかに戸惑いの表情を見せた。
「先生、おみつさんの言う通りでさぁ。こんな時に、一人で行かせるわけにはいきやせん。それに、拙者も、この里を守るために、何ができるか探してきやす!」
古尾もまた、玄庵の前に立ちはだかった。彼の表情は、いつもの飄々とした調子ではなく、真剣そのものだった。古尾は、この里を故郷とする妖怪だ。故郷が穢されるのを、黙って見ていることなどできない。
玄庵は、二人の揺るぎない覚悟を見て、静かに息を吐いた。
「……わかった。だが、決して無理はするな」
彼の言葉には、信頼と、そして二人の安否を気遣う気持ちが込められていた。
「玉藻様は、拙者と一緒に行きやしょう。先生のお邪魔になることはありやせんから」
古尾がそう言うと、玉藻はにゃあ、と鳴いて頷いた。玉藻は、玄庵の力をある程度理解している。この戦いで、自分がどう動くべきか、分かっているのだろう。
玄庵とおみつは、穢れに侵された里の奥深くへと足を踏み入れた。
足を進めるごとに、穢れの瘴気は濃くなり、空気は重く、肌を刺すように冷たい。彼らの前方には、禍々しい妖気が渦巻く、不気味な光景が広がっていた。それは、影が放つ穢れの根源に近づいている証拠だった。
「これは……」
おみつは、その圧倒的な穢れの量に、思わず息を呑んだ。
「気をつけろ、おみつ。ここからは、奴の領域だ」
玄庵は、おみつの手を握り、静かに言った。彼の掌からは、温かい妖気が流れ込み、おみつの不安を和らげた。
やがて、彼らの目の前に、光を失った「生命の泉」が現れた。かつては清らかな水が湧き出ていたはずの泉は、黒く澱み、そこからおぞましい穢れが噴き出していた。そして、泉の畔には、黒い装束をまとった男、蝕組の頭領・影が立っていた。
「来たな、玄庵。お前の大切な里が、穢れに染まる様は、さぞかし見応えがあったことだろう」
影の声は、冷たく、嘲笑を含んでいた。彼の身体からは、禍々しい穢れがとめどなく溢れ出し、泉の穢れを増幅させている。
「貴様を、ここで止める。これ以上の悲劇は、許さぬ」
玄庵の瞳に、強い光が宿った。
彼は、自らの過去と向き合い、影の歪んだ野望を打ち砕くことを決意したのだ。彼の背後には、彼を信じ、共に立ち向かうおみつの存在がある。
影は、玄庵の決意を嘲笑うかのように、手を広げた。
「無駄なことだ、玄庵。お前は、所詮、弱すぎる。その半端な力で、私を止められるとでも思うのか?」
影の言葉が、玄庵の心の奥底に響く。しかし、玄庵は動じなかった。
「私は、もう迷わない。守るべきものが、ここにあるからだ!」
玄庵は、そう叫ぶと、影に向かって一歩踏み出した。彼の全身から、あの赤い妖気が噴き出し、穢れの瘴気を押し返していく。
それは、過去の苦しみを乗り越え、大切なものを守るために覚悟を決めた、玄庵の「鬼」としての力が、今、完全に解放されようとしている証だった。
穢れに侵された生命の泉の前で、蝕組の頭領・影と、玄庵の最後の戦いが始まろうとしていた。
おみつは、玄庵の傍らに立ち、彼を信じる思いを込めて、その力を注ぎ込もうとしていた。
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