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第八章:敵の帰還、最終決戦
第百三十一話:おみつの覚醒、言霊の力
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古の祭祀場を進む一行の前に、次々と立ちはだかる歪められし守護者たち。第一の関門である大蛇を打ち破り、彼らはさらに奥へと進んでいた。
しかし、その先に待ち受けるのは、より一層禍々しい存在ばかりであった。
次に彼らを阻んだのは、かつてこの地を守護していたという、狛犬(こまいぬ)の像であった。本来ならば、神聖なる力を宿すはずの石像が、戒の穢れた力によって生命を与えられ、赤く爛々と光る目を持ち、牙を剥き出しにして襲いかかってきた。その巨体から放たれる一撃は、大地を揺るがし、周囲の木々を薙ぎ倒すほどの威力を持つ。
「くっ……これでは、近づけぬ!」
竜胆が、結界を張りながらも、その衝撃に体勢を崩した。狛犬の動きは鈍重ではあるが、その圧倒的な力は、一撃でも受ければただでは済まされない。
古尾が、素早い動きで狛犬の足元を掻い潜り、攪乱する。
「いくら古狐の情報網をもってしても、ここまで強力な守護者が出てくるとは予想外だったぜ!」
玉藻もまた、普段の愛らしい姿からは想像もつかぬ敏捷さで狛犬の顔を引っ掻き、その注意を惹きつける。しかし、狛犬は、まるで痛みを感じぬかのように、ただひたすらに彼らへ襲い掛かり続ける。
玄庵は、静かに狛犬を見据えていた。彼の目には、狛犬の内に深く染み込んだ、戒の穢れた力が視えている。
「この狛犬は、古き神々の怒りを増幅させられ、その怒りそのものが力と化している。下手に攻撃を加えれば、さらなる暴走を招く」
玄庵の言葉に、おみつの心がざわめいた。狛犬の内に、怒りの奥底に隠された、微かな悲しみの響きを感じ取ったのだ。それは、古き神々が、自らの力を歪められ、悪しき目的に利用されていることへの、嘆きにも似た感情であった。
「先生、私に……任せてください!」
おみつが、玄庵の隣に一歩進み出た。その瞳には、決意の光が宿っている。
「おみつ、気をつけろ。この狛犬の怒りは、並々ならぬものだ。下手に心を寄せれば、お主の心が穢れに染まりかねん」
玄庵の忠告に、おみつは静かに首を振った。
「大丈夫です。私には……聞こえるんです。この狛犬の、心の叫びが」
おみつは、狛犬へと手をかざした。彼女の体から、清らかな光が溢れ出し、祭祀場の闇を照らす。その光は、ただの浄化の力ではなかった。それは、人々の心と妖怪、そして神々の心の叫びを聞き取り、癒やす、まるで言霊(ことだま)のような力へと変貌を遂げていたのだ。
「おぉ……わが力を、歪められし……悲しき哉……」
おみつの光に包まれた狛犬の口から、低く、しかし確かに、言葉が漏れ出た。その声は、重厚な石の響きの中に、深い悲しみを帯びていた。
「大丈夫。もう、苦しまなくていいのよ。あなたの本当の力は、人々を守り、この地を鎮めるためのもの。戒の思惑に、囚われる必要はないわ」
おみつの言葉は、まるで澄んだ泉の水が、渇いた大地に染み渡るように、狛犬の心の奥底へと届いていく。狛犬の体から、黒い靄が立ち上り、みるみるうちに消え失せていく。それは、狛犬を歪めていた戒の力が、おみつの言霊によって解き放たれていく証であった。
狛犬の紅い瞳から、光が失われ、その代わりに、古の石像が持つ、本来の柔らかな光が宿った。狛犬は、ゆっくりと地面に膝をつき、まるで感謝を示すかのように、その頭を下げた。そして、そのまま、再び動きのない石像へと戻っていった。しかし、その姿には、先ほどの禍々しさはなく、神聖な気が漂っている。
「これは……まさか、おみつの浄化の力が、ここまで進化したとは……」
竜胆が、驚きのあまり言葉を失った。彼の知る浄化の術は、ただ穢れを祓うものばかり。しかし、おみつのそれは、魂そのものに語りかけ、歪みを解き放つ、新たな境地へと至っていた。
古尾もまた、感嘆の声を漏らす。
「へぇ……大したもんだね、おみつ。あんた、ひょっとすると、玄庵先生をも凌ぐ、とんでもない存在になるかもしれないねぇ」
おみつは、少し戸惑いながらも、その言葉に頬を染めた。しかし、彼女の心は、歓喜よりも、安堵に満たされていた。狛犬の悲しみが癒され、本来の姿に戻ったことに、心の底から喜びを感じていたのだ。
「おみつ……」
玄庵が、静かに彼女の名前を呼んだ。彼の瞳には、おみつへの深い信頼と、そして、彼女の内に秘められた、計り知れない可能性への期待が宿っていた。
「まだ道は遠い。だが、お主のその力は、きっとこの戦いの光明となるだろう」
玄庵の言葉に、おみつは力強く頷いた。彼女は、自らの内に宿る新たな力を自覚し、それが、戒との戦いにおいて、大きな武器となることを確信した。
仲間たちの絆と、おみつの覚醒した言霊の力。彼らは、さらなる深奥へと進むため、再び歩みを進めた。
祭祀場の奥からは、まだ見ぬ歪められし存在たちの気配が、彼らを待ち受けている。しかし、彼らの心には、恐れよりも、未来への希望が満ち溢れていた。
しかし、その先に待ち受けるのは、より一層禍々しい存在ばかりであった。
次に彼らを阻んだのは、かつてこの地を守護していたという、狛犬(こまいぬ)の像であった。本来ならば、神聖なる力を宿すはずの石像が、戒の穢れた力によって生命を与えられ、赤く爛々と光る目を持ち、牙を剥き出しにして襲いかかってきた。その巨体から放たれる一撃は、大地を揺るがし、周囲の木々を薙ぎ倒すほどの威力を持つ。
「くっ……これでは、近づけぬ!」
竜胆が、結界を張りながらも、その衝撃に体勢を崩した。狛犬の動きは鈍重ではあるが、その圧倒的な力は、一撃でも受ければただでは済まされない。
古尾が、素早い動きで狛犬の足元を掻い潜り、攪乱する。
「いくら古狐の情報網をもってしても、ここまで強力な守護者が出てくるとは予想外だったぜ!」
玉藻もまた、普段の愛らしい姿からは想像もつかぬ敏捷さで狛犬の顔を引っ掻き、その注意を惹きつける。しかし、狛犬は、まるで痛みを感じぬかのように、ただひたすらに彼らへ襲い掛かり続ける。
玄庵は、静かに狛犬を見据えていた。彼の目には、狛犬の内に深く染み込んだ、戒の穢れた力が視えている。
「この狛犬は、古き神々の怒りを増幅させられ、その怒りそのものが力と化している。下手に攻撃を加えれば、さらなる暴走を招く」
玄庵の言葉に、おみつの心がざわめいた。狛犬の内に、怒りの奥底に隠された、微かな悲しみの響きを感じ取ったのだ。それは、古き神々が、自らの力を歪められ、悪しき目的に利用されていることへの、嘆きにも似た感情であった。
「先生、私に……任せてください!」
おみつが、玄庵の隣に一歩進み出た。その瞳には、決意の光が宿っている。
「おみつ、気をつけろ。この狛犬の怒りは、並々ならぬものだ。下手に心を寄せれば、お主の心が穢れに染まりかねん」
玄庵の忠告に、おみつは静かに首を振った。
「大丈夫です。私には……聞こえるんです。この狛犬の、心の叫びが」
おみつは、狛犬へと手をかざした。彼女の体から、清らかな光が溢れ出し、祭祀場の闇を照らす。その光は、ただの浄化の力ではなかった。それは、人々の心と妖怪、そして神々の心の叫びを聞き取り、癒やす、まるで言霊(ことだま)のような力へと変貌を遂げていたのだ。
「おぉ……わが力を、歪められし……悲しき哉……」
おみつの光に包まれた狛犬の口から、低く、しかし確かに、言葉が漏れ出た。その声は、重厚な石の響きの中に、深い悲しみを帯びていた。
「大丈夫。もう、苦しまなくていいのよ。あなたの本当の力は、人々を守り、この地を鎮めるためのもの。戒の思惑に、囚われる必要はないわ」
おみつの言葉は、まるで澄んだ泉の水が、渇いた大地に染み渡るように、狛犬の心の奥底へと届いていく。狛犬の体から、黒い靄が立ち上り、みるみるうちに消え失せていく。それは、狛犬を歪めていた戒の力が、おみつの言霊によって解き放たれていく証であった。
狛犬の紅い瞳から、光が失われ、その代わりに、古の石像が持つ、本来の柔らかな光が宿った。狛犬は、ゆっくりと地面に膝をつき、まるで感謝を示すかのように、その頭を下げた。そして、そのまま、再び動きのない石像へと戻っていった。しかし、その姿には、先ほどの禍々しさはなく、神聖な気が漂っている。
「これは……まさか、おみつの浄化の力が、ここまで進化したとは……」
竜胆が、驚きのあまり言葉を失った。彼の知る浄化の術は、ただ穢れを祓うものばかり。しかし、おみつのそれは、魂そのものに語りかけ、歪みを解き放つ、新たな境地へと至っていた。
古尾もまた、感嘆の声を漏らす。
「へぇ……大したもんだね、おみつ。あんた、ひょっとすると、玄庵先生をも凌ぐ、とんでもない存在になるかもしれないねぇ」
おみつは、少し戸惑いながらも、その言葉に頬を染めた。しかし、彼女の心は、歓喜よりも、安堵に満たされていた。狛犬の悲しみが癒され、本来の姿に戻ったことに、心の底から喜びを感じていたのだ。
「おみつ……」
玄庵が、静かに彼女の名前を呼んだ。彼の瞳には、おみつへの深い信頼と、そして、彼女の内に秘められた、計り知れない可能性への期待が宿っていた。
「まだ道は遠い。だが、お主のその力は、きっとこの戦いの光明となるだろう」
玄庵の言葉に、おみつは力強く頷いた。彼女は、自らの内に宿る新たな力を自覚し、それが、戒との戦いにおいて、大きな武器となることを確信した。
仲間たちの絆と、おみつの覚醒した言霊の力。彼らは、さらなる深奥へと進むため、再び歩みを進めた。
祭祀場の奥からは、まだ見ぬ歪められし存在たちの気配が、彼らを待ち受けている。しかし、彼らの心には、恐れよりも、未来への希望が満ち溢れていた。
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