みんな善いことだと思ってた

月影 朔

文字の大きさ
1 / 42
【プロローグ:西暦2031年・関東統治区域より】

第1話:警告メッセージ(時間指定送信)2031年発

しおりを挟む
発信記録
発信日時: 2116/04/11 (月) 03:14:08 (UCT)
送信元: KANTO_GOV.JURIS.SECTOR_7 / ID: ████-███-██████
プロトコル: T-Leap (Text-Legacy Protocol) / v.11.2
対象タイムスタンプ: 2025/09/16 (火) 21:00:00 (JST)
ステータス: 送信完了

これを読んでいるあなたへ。

私の名は、国立災害史研究所のアーカイブ部門に所属する██。西暦2031年の関東統治区域、その分厚いコンクリートの壁の内側から、この記録の断片を過去へと送信している。

まず理解してほしい。これは歴史書ではない。ましてや、フィクションなどでは断じてない。これは、我々の時代から発せられた、一つの救難信号であり、あなたたちの未来に対する、我々からの最後の警告だ。

我々の時代――あなたたちから見れば、そう遠くない未来――に実用化された、時間指定通信。それが、我々『旧日本人』と呼ばれる存在に残された、本当に、最後の希望だ。この技術は不完全で、極めて大きな制約を伴う。高解像度の映像も、音声ファイルも、ましてや物理的な物体も、時間の壁を超えることはできない。我々が過去のあなたたちに送れるのは、ごく僅かなデータ容量の、プレーンなテキスト情報だけだ。

だが、それだけで十分だった。我々の社会が『なぜ』、そして『どのように』崩壊したのか。その直接的な原因となった、いくつかの記録の断片(ノイズ)だけは、送信することができる。我々がこのメッセージの受信日時を、特異点の分岐前、すなわち西暦2024年から2025年前後に設定したのは、そこに理由がある。もし、あなたがこれを受け取り、その意味を理解してくれたのなら、まだ、かろうじて間に合うかもしれない。まだ、あなたたちの世界線では、あの悪夢は避けられるかもしれないのだ。

これからあなたに送るのは、我々が「取るに足らないこと」だと無視し、「人道的な配慮」という善意で上塗りし、「科学的ではない」という倫理観で目を逸らし、そして、その結果として全てを失うに至った、名もなき『調査者』たちの記録の全てだ。

あなたは、これから数々の断片的な資料を目撃することになるだろう。それは、個人のSNSへの投稿であり、フリー記者の取材メモであり、誰にも届かなかった内部告発のメールであり、そして、極限状況に置かれた人間の、最後の音声記録の書き起こしだ。それらは一見すると、互いに何の関係もない、独立した点のように見えるかもしれない。

我々の時代でも、そうだった。誰も、それらの点を繋ぎ合わせようとはしなかった。いや、できなかった。あまりにも巨大な災害が、あまりにも常識的な善意が、そして、あまりにもっともらしい専門家の解説が、我々の目と思考を曇らせてしまったからだ。我々は、すぐ足元で静かに増殖していた本当の脅威に、最後まで気づくことができなかった。

この記録群は、我々が犯した過ちの証明であり、墓標だ。

どうか、我々と同じ過ちを繰り返さないでくれ。

これから始まる記録を、他人事だと思わないでほしい。これは、あなた自身の物語でもあるのだから。この悪夢の始まりを、その目で確かめてほしい。

最初の記録は、当時、若者たちの間で一種の都市伝説として消費されていた、他愛もないSNSの書き込みから始まる。全ての巨大な悲劇がそうであるように、その最初の兆候は、常に嘲笑と無関心の中に生まれるのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

処理中です...