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【第一章:予兆の記録(2024年~2027年)】
第17話:資料No.016(警察の内部資料)2027年
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【資料No.016】
資料種別:〇〇県警察本部 捜査第一課・生活安全課 合同捜査会議議事録(抜粋)
記録年:2027年
(以下は、編纂者が独自の情報源から入手した、工藤██氏の失踪に関する、〇〇県警内部の公式な捜査資料の抜粋である。極めて事務的かつ官僚的な文体で記されたこの記録は、一個人のジャーナリストが命がけで追い求めた異常な現実が、巨大な組織の論理の中でいかに矮小化され、無力化されていくか、その冷徹なプロセスを克明に示している)
文書管理番号: 27-S1-0315A
作成年月日: 2027年3月27日
作成部署: 〇〇県警察本部 警務部警務課
件名: フリージャーナリスト・工藤██に係る行方不明事案の捜査終結に関する報告
1. 事案の概要
発生日時: 2027年3月8日深夜以降
対象者: 工藤 ██(くどう ██)、男性、42歳
職業: フリージャーナリスト(地域情報誌『週刊ほくかんリビング』等に寄稿)
居住地: 〇〇市□□町 アパート「コーポラスみどり」201号室
2027年3月15日、対象者の勤務先編集プロダクション編集長、山岸██氏より、「担当記者と一週間以上連絡が取れない」旨の捜索願が〇〇署に提出された。これを受理し、捜査を開始した。
2. 捜査状況
現場臨場および鑑識結果
3月16日、裁判所の許可を得て、対象者の居住するアパート室内に立ち入り調査を実施。
室内は施錠されており、第三者による侵入の形跡は認められなかった。
机上には、PC、スマートフォン、財布(現金約3万円およびカード類在中)、パスポート、運転免許証といった、通常、外出時に携帯するべき貴重品類が残置されていた。
室内は全体的に乱雑であったが、格闘や抵抗の痕跡(いわゆる抵抗痕)は一切確認されなかった。
鑑識課による指紋、毛髪、体液等の採取・分析を行ったが、対象者以外の人物に結びつく有力な証拠は発見されなかった。
PCおよびスマートフォンは、専門的な技術によって内部データが完全に消去(初期化)されており、いかなる記録の復元も不可能であった。
関係者への聞き取り
勤務先編集長・山岸氏の証言:
「工藤は優秀な記者だったが、一年ほど前から、特定の地域の都市伝説のようなものに異常な執着を見せるようになった。『違法土葬』『泥の男』『熊の怪異』といった、常識では考えられない複数の事象が繋がっていると、熱心に語っていた。精神的に不安定になっているのではないかと、本人にも再三注意していた矢先の出来事だった」
アパート管理人の証言:
「工藤さんは真面目な人だったが、失踪する少し前から、昼夜を問わず部屋に閉じこもっていることが多かったようだ。他の住人から『夜中に壁を叩くような音がする』との苦情も一度だけあった」
元同僚・橋本氏(当本部科学捜査班所属)の証言:
「工藤とは同期で、彼がフリーになってからも時折連絡を取っていた。彼は、△△台周辺で起きている一連の不審な事案について、警察が何かを隠蔽しているのではないかと、強い被害妄想を抱いているようだった。彼が所持していたボイスレコーダーの復元を非公式に手伝ったが、そこには泥の中で絶叫するような、意味不明な音声が記録されているのみであった」
周辺捜査および公開捜査
周辺の防犯カメラ映像を精査したが、3月8日深夜以降、対象者の姿は確認できなかった。
金融機関の口座にも、不審な出金の形跡はなし。
顔写真等を公開し、情報提供を呼びかけたが、現在までに有力な情報は寄せられていない。
3. 捜査本部の結論
以上の捜査結果を総合的に判断し、本捜査本部は、本件を以下のように結論付ける。
事件性の不存在:
現場の状況、および鑑識結果から、第三者が対象者の失踪に関与したことを示す、客観的かつ具体的な証拠は一切存在しない。したがって、本件を殺人、誘拐、監禁等の事件として立件することは、現時点では不可能である。
失踪の蓋然性評価:
関係者の証言から、対象者・工藤██は、失踪直前、特定の未解決事件や都市伝説に過度に没入するあまり、精神的に著しく不安定な状態にあった蓋然性が極めて高いと判断される。
貴重品類を全て室内に残置し、デジタル機器のデータを自ら消去した上で失踪するという行動は、計画的な逃亡というよりは、むしろ、自らの存在そのものを社会から抹消しようとする、極めて強い意思の表れと解釈できる。
最終結論:
本件は、対象者・工藤██が、ジャーナリストとしての過度な取材活動に起因する精神的混乱状態に陥り、自らの意思で計画的に消息を絶った、「特異な家出人事案」として処理することが、最も合理的である。
4. 今後の対応
上記結論に基づき、本日をもって、本件に関する特別捜査本部は解散する。
今後は、所轄の〇〇署生活安全課が、通常の行方不明者として、引き続き情報収集を行うものとする。
なお、本件に関する一連の捜査資料は、機密保持の観点から、本日付で県警本部長官房にて一括管理するものとする。関係各部署は、速やかに全ての関連資料を提出すること。
以上。
(編纂者による注記:この一枚の文書によって、工藤██という一人のジャーナリストの命がけの調査は、彼が最も恐れていた「物語」――すなわち、「精神に異常をきたした記者の、悲劇的な顛末」――として、公式に記録され、そして、完全に封印された。彼が追い求めた全ての真実は、組織の論理と、もっともらしい臨床心理学的な解釈の前に、その存在すらも否定され、闇の中へと葬り去られたのである)
資料種別:〇〇県警察本部 捜査第一課・生活安全課 合同捜査会議議事録(抜粋)
記録年:2027年
(以下は、編纂者が独自の情報源から入手した、工藤██氏の失踪に関する、〇〇県警内部の公式な捜査資料の抜粋である。極めて事務的かつ官僚的な文体で記されたこの記録は、一個人のジャーナリストが命がけで追い求めた異常な現実が、巨大な組織の論理の中でいかに矮小化され、無力化されていくか、その冷徹なプロセスを克明に示している)
文書管理番号: 27-S1-0315A
作成年月日: 2027年3月27日
作成部署: 〇〇県警察本部 警務部警務課
件名: フリージャーナリスト・工藤██に係る行方不明事案の捜査終結に関する報告
1. 事案の概要
発生日時: 2027年3月8日深夜以降
対象者: 工藤 ██(くどう ██)、男性、42歳
職業: フリージャーナリスト(地域情報誌『週刊ほくかんリビング』等に寄稿)
居住地: 〇〇市□□町 アパート「コーポラスみどり」201号室
2027年3月15日、対象者の勤務先編集プロダクション編集長、山岸██氏より、「担当記者と一週間以上連絡が取れない」旨の捜索願が〇〇署に提出された。これを受理し、捜査を開始した。
2. 捜査状況
現場臨場および鑑識結果
3月16日、裁判所の許可を得て、対象者の居住するアパート室内に立ち入り調査を実施。
室内は施錠されており、第三者による侵入の形跡は認められなかった。
机上には、PC、スマートフォン、財布(現金約3万円およびカード類在中)、パスポート、運転免許証といった、通常、外出時に携帯するべき貴重品類が残置されていた。
室内は全体的に乱雑であったが、格闘や抵抗の痕跡(いわゆる抵抗痕)は一切確認されなかった。
鑑識課による指紋、毛髪、体液等の採取・分析を行ったが、対象者以外の人物に結びつく有力な証拠は発見されなかった。
PCおよびスマートフォンは、専門的な技術によって内部データが完全に消去(初期化)されており、いかなる記録の復元も不可能であった。
関係者への聞き取り
勤務先編集長・山岸氏の証言:
「工藤は優秀な記者だったが、一年ほど前から、特定の地域の都市伝説のようなものに異常な執着を見せるようになった。『違法土葬』『泥の男』『熊の怪異』といった、常識では考えられない複数の事象が繋がっていると、熱心に語っていた。精神的に不安定になっているのではないかと、本人にも再三注意していた矢先の出来事だった」
アパート管理人の証言:
「工藤さんは真面目な人だったが、失踪する少し前から、昼夜を問わず部屋に閉じこもっていることが多かったようだ。他の住人から『夜中に壁を叩くような音がする』との苦情も一度だけあった」
元同僚・橋本氏(当本部科学捜査班所属)の証言:
「工藤とは同期で、彼がフリーになってからも時折連絡を取っていた。彼は、△△台周辺で起きている一連の不審な事案について、警察が何かを隠蔽しているのではないかと、強い被害妄想を抱いているようだった。彼が所持していたボイスレコーダーの復元を非公式に手伝ったが、そこには泥の中で絶叫するような、意味不明な音声が記録されているのみであった」
周辺捜査および公開捜査
周辺の防犯カメラ映像を精査したが、3月8日深夜以降、対象者の姿は確認できなかった。
金融機関の口座にも、不審な出金の形跡はなし。
顔写真等を公開し、情報提供を呼びかけたが、現在までに有力な情報は寄せられていない。
3. 捜査本部の結論
以上の捜査結果を総合的に判断し、本捜査本部は、本件を以下のように結論付ける。
事件性の不存在:
現場の状況、および鑑識結果から、第三者が対象者の失踪に関与したことを示す、客観的かつ具体的な証拠は一切存在しない。したがって、本件を殺人、誘拐、監禁等の事件として立件することは、現時点では不可能である。
失踪の蓋然性評価:
関係者の証言から、対象者・工藤██は、失踪直前、特定の未解決事件や都市伝説に過度に没入するあまり、精神的に著しく不安定な状態にあった蓋然性が極めて高いと判断される。
貴重品類を全て室内に残置し、デジタル機器のデータを自ら消去した上で失踪するという行動は、計画的な逃亡というよりは、むしろ、自らの存在そのものを社会から抹消しようとする、極めて強い意思の表れと解釈できる。
最終結論:
本件は、対象者・工藤██が、ジャーナリストとしての過度な取材活動に起因する精神的混乱状態に陥り、自らの意思で計画的に消息を絶った、「特異な家出人事案」として処理することが、最も合理的である。
4. 今後の対応
上記結論に基づき、本日をもって、本件に関する特別捜査本部は解散する。
今後は、所轄の〇〇署生活安全課が、通常の行方不明者として、引き続き情報収集を行うものとする。
なお、本件に関する一連の捜査資料は、機密保持の観点から、本日付で県警本部長官房にて一括管理するものとする。関係各部署は、速やかに全ての関連資料を提出すること。
以上。
(編纂者による注記:この一枚の文書によって、工藤██という一人のジャーナリストの命がけの調査は、彼が最も恐れていた「物語」――すなわち、「精神に異常をきたした記者の、悲劇的な顛末」――として、公式に記録され、そして、完全に封印された。彼が追い求めた全ての真実は、組織の論理と、もっともらしい臨床心理学的な解釈の前に、その存在すらも否定され、闇の中へと葬り去られたのである)
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