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【第一章:予兆の記録(2024年~2027年)】
第16話:資料No.015(破損した音声ファイルの書き起こし)2027年
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【資料No.015】
資料種別:デジタルボイスレコーダーの音声ファイル(一部破損)からの書き起こし
記録年:2027年
(以下は、工藤氏が失踪後、彼のアパートに残された遺品の中から発見された、デジタルボイスレコーダーの記録である。レコーダー本体は、泥と水分でひどく汚れており、一部が物理的に破損していた。警察の科学捜査班に所属する工藤氏の同期、橋本██氏の非公式な協力により、破損した内蔵メモリから、かろうじて一つの音声ファイルが復元された。ファイル名は「270308_2315.wav」。工藤氏が最後のメモを記した、2027年3月8日の深夜に録音されたものと推定される。音声データは、冒頭と末尾が激しく破損しており、復元できたのは、全体のわずか数分間のみであった。以下は、その音声の書き起こしである)
ファイル名:270308_2315.wav
復元された録音時間:約3分14秒
(録音開始)
[00:00-00:25]
(ザーッという、激しいホワイトノイズ。その奥で、ヒュー、ヒュー、という、風の音のようなものと、工藤氏のものと思われる、荒い呼吸音が、かろうじて聞き取れる。衣擦れの音。コツッ、コツッ、と何かが硬いものに当たるような、断続的な音)
工藤: (息を切らしながら、非常に小さい声で)…クソッ…暗すぎる…。懐中電灯だけじゃ、何も見えねえ…。
[00:26-00:58]
(ガサガサッ、と彼が茂みをかき分ける音。足元がぬかるんでいるのか、ズブッ、ズブッ、という湿った足音が続く)
工藤: (独り言のように)…ブンさんの話だと、この辺りのはずだ…。一番奥の、大きなクヌギの木の根元…。目印になるものは…これか? …いや、違うな…。
(数秒の沈黙。遠くで、獣の遠吠えのような音が、微かに聞こえる)
工藤: …熊か…? いや、今は考えるな。集中しろ。証拠を掴んで、朝までにはここを出るんだ…。
[00:59-01:45]
(ザッ、ザッ、ザッ、という、スコップで湿った土を掘り返す音が、執拗に繰り返される。工藤氏の呼吸は、さらに荒くなっていく。時折、ハッ、ハッ、と短い呻き声が混じる)
工藤: (喘ぎながら)…結構、深いな…。連中、本気で隠すつもりで埋めたのか…。それに、この土…なんだ、この匂い…。腐葉土とは違う…もっと、こう…生臭い…。鉄錆みたいな…。
(ザッ、ザッ…という土を掘る音が、さらに1分近く続く。彼の疲労が、呼吸音からありありと伝わってくる)
[01:46-02:10]
(カツンッ!)
工藤: …ん…?
(土を掘る音が止まる。代わりに、スコップの先端が、何か硬いものに当たったような、乾いた音が、数回繰り返される。カツッ、コツンッ…)
工藤: (息を弾ませながら)…当たった…。硬い、何かに当たったぞ…。石か…? いや、違うな…。もっと、平たい感じだ…。
(手で土を払うような、ゴソゴソという音が聞こえる)
工藤: …これは、ビニールシートか…? そうだ、コンビニの店員が言ってたやつだ…。分厚いブルーシートに、何かを…くるんで…。
[02:11-02:35]
工藤: うっ…!
(突然、工藤氏が呻き声を上げる。何か、強烈な臭気にあてられたかのような、嗚咽に近い声)
工藤: (咳き込みながら)…なんだ、この匂い…! ひどい…アンモニアと…腐った土みたいな…! うっ…!
(数秒間、彼の激しい咳と、えずく音だけが響く)
工藤: (震える声で)…シートを、少しだけ…めくってみる…。中に、何が…。
(ビリビリッ、という、ビニールシートが破れるような音。そして、直後だった)
工藤: …なんだ…?
(彼の声に、明らかな困惑と、信じられないものを見たかのような響きが混じる)
工藤: …土が…動いて…る…?
[02:36-02:50]
(ゴボッ、という、粘性の高い液体が、圧力を受けて噴き出すような、ウェットで不快な音)
工藤: うわあああああああああああああああああっ!!
(工藤氏の、恐怖の臨界点を超えた、絶叫。それは人間の声というより、獣の断末魔に近い、喉が張り裂けんばかりの叫びだった。絶叫と同時に、ブシュウウウウウッ! という、高圧ガスが噴出するような、あるいは大量の泥が噴き上がるような、激しい音が、マイクの許容量を超えて鳴り響く)
[02:51-03:14]
工藤: …がはっ…! ごふっ…! か、顔に…! 口に…! 息が…!
(泥のようなものを吸い込んだのか、激しく咳き込み、呼吸困難に陥っている、苦悶の音声。ゴボゴボという、溺れるような音と、何かを必死に顔から拭おうとするような、激しい衣擦れの音が続く)
工藤: (途切れ途切れに)…ちが…これは…つちじゃな…ああ…ああ…!
(彼の最後の言葉を遮るように、キィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!! という、耳をつんざくような、極めて高い周波数のノイズが発生。同時に、全ての音声が、最大レベルで歪み、クリッピングを起こす)
[ガガガガッ! ザザザザザザザザッ! ブツッ!]
(激しいノイズと共に、録音は唐突に終了する)
(編纂者による注記:この音声記録を最後に、フリージャーナリスト・工藤██の痕跡は、完全に途絶えている。彼が、あの雑木林の土の中で、一体何を発見し、そして何に襲われたのか。その真実を知る者は、もういない)
資料種別:デジタルボイスレコーダーの音声ファイル(一部破損)からの書き起こし
記録年:2027年
(以下は、工藤氏が失踪後、彼のアパートに残された遺品の中から発見された、デジタルボイスレコーダーの記録である。レコーダー本体は、泥と水分でひどく汚れており、一部が物理的に破損していた。警察の科学捜査班に所属する工藤氏の同期、橋本██氏の非公式な協力により、破損した内蔵メモリから、かろうじて一つの音声ファイルが復元された。ファイル名は「270308_2315.wav」。工藤氏が最後のメモを記した、2027年3月8日の深夜に録音されたものと推定される。音声データは、冒頭と末尾が激しく破損しており、復元できたのは、全体のわずか数分間のみであった。以下は、その音声の書き起こしである)
ファイル名:270308_2315.wav
復元された録音時間:約3分14秒
(録音開始)
[00:00-00:25]
(ザーッという、激しいホワイトノイズ。その奥で、ヒュー、ヒュー、という、風の音のようなものと、工藤氏のものと思われる、荒い呼吸音が、かろうじて聞き取れる。衣擦れの音。コツッ、コツッ、と何かが硬いものに当たるような、断続的な音)
工藤: (息を切らしながら、非常に小さい声で)…クソッ…暗すぎる…。懐中電灯だけじゃ、何も見えねえ…。
[00:26-00:58]
(ガサガサッ、と彼が茂みをかき分ける音。足元がぬかるんでいるのか、ズブッ、ズブッ、という湿った足音が続く)
工藤: (独り言のように)…ブンさんの話だと、この辺りのはずだ…。一番奥の、大きなクヌギの木の根元…。目印になるものは…これか? …いや、違うな…。
(数秒の沈黙。遠くで、獣の遠吠えのような音が、微かに聞こえる)
工藤: …熊か…? いや、今は考えるな。集中しろ。証拠を掴んで、朝までにはここを出るんだ…。
[00:59-01:45]
(ザッ、ザッ、ザッ、という、スコップで湿った土を掘り返す音が、執拗に繰り返される。工藤氏の呼吸は、さらに荒くなっていく。時折、ハッ、ハッ、と短い呻き声が混じる)
工藤: (喘ぎながら)…結構、深いな…。連中、本気で隠すつもりで埋めたのか…。それに、この土…なんだ、この匂い…。腐葉土とは違う…もっと、こう…生臭い…。鉄錆みたいな…。
(ザッ、ザッ…という土を掘る音が、さらに1分近く続く。彼の疲労が、呼吸音からありありと伝わってくる)
[01:46-02:10]
(カツンッ!)
工藤: …ん…?
(土を掘る音が止まる。代わりに、スコップの先端が、何か硬いものに当たったような、乾いた音が、数回繰り返される。カツッ、コツンッ…)
工藤: (息を弾ませながら)…当たった…。硬い、何かに当たったぞ…。石か…? いや、違うな…。もっと、平たい感じだ…。
(手で土を払うような、ゴソゴソという音が聞こえる)
工藤: …これは、ビニールシートか…? そうだ、コンビニの店員が言ってたやつだ…。分厚いブルーシートに、何かを…くるんで…。
[02:11-02:35]
工藤: うっ…!
(突然、工藤氏が呻き声を上げる。何か、強烈な臭気にあてられたかのような、嗚咽に近い声)
工藤: (咳き込みながら)…なんだ、この匂い…! ひどい…アンモニアと…腐った土みたいな…! うっ…!
(数秒間、彼の激しい咳と、えずく音だけが響く)
工藤: (震える声で)…シートを、少しだけ…めくってみる…。中に、何が…。
(ビリビリッ、という、ビニールシートが破れるような音。そして、直後だった)
工藤: …なんだ…?
(彼の声に、明らかな困惑と、信じられないものを見たかのような響きが混じる)
工藤: …土が…動いて…る…?
[02:36-02:50]
(ゴボッ、という、粘性の高い液体が、圧力を受けて噴き出すような、ウェットで不快な音)
工藤: うわあああああああああああああああああっ!!
(工藤氏の、恐怖の臨界点を超えた、絶叫。それは人間の声というより、獣の断末魔に近い、喉が張り裂けんばかりの叫びだった。絶叫と同時に、ブシュウウウウウッ! という、高圧ガスが噴出するような、あるいは大量の泥が噴き上がるような、激しい音が、マイクの許容量を超えて鳴り響く)
[02:51-03:14]
工藤: …がはっ…! ごふっ…! か、顔に…! 口に…! 息が…!
(泥のようなものを吸い込んだのか、激しく咳き込み、呼吸困難に陥っている、苦悶の音声。ゴボゴボという、溺れるような音と、何かを必死に顔から拭おうとするような、激しい衣擦れの音が続く)
工藤: (途切れ途切れに)…ちが…これは…つちじゃな…ああ…ああ…!
(彼の最後の言葉を遮るように、キィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!! という、耳をつんざくような、極めて高い周波数のノイズが発生。同時に、全ての音声が、最大レベルで歪み、クリッピングを起こす)
[ガガガガッ! ザザザザザザザザッ! ブツッ!]
(激しいノイズと共に、録音は唐突に終了する)
(編纂者による注記:この音声記録を最後に、フリージャーナリスト・工藤██の痕跡は、完全に途絶えている。彼が、あの雑木林の土の中で、一体何を発見し、そして何に襲われたのか。その真実を知る者は、もういない)
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