15 / 42
【第一章:予兆の記録(2024年~2027年)】
第15話:資料No.014(工藤の最後の取材メモ)2027年
しおりを挟む
【資料No.014】
資料種別:フリーペーパー『週刊ほくかんリビング』記者・工藤██の取材メモ(スキャンデータ)
記録年:2027年
(以下は、工藤氏の取材ノートの、最後のページに記されていた殴り書きである。これまでの彼のメモが、いかに乱れていようとも、ジャーナリストとしての体裁を保っていたのに対し、この最後の記録は、もはや取材メモではなく、遺書、あるいは決意表明とでも言うべき、極めて個人的で、切迫した独白となっている)
2027/03/08 (月)
件名:最後の調査
Sさんとの面会から、一週間が経った。
この一週間、俺は一歩もアパートから出ていない。眠ることも、食事をすることも、忘れていた。ただ、あのSさんの最後の言葉だけが、頭の中で繰り返し再生されている。
「あの粒子が、もし、人間の肺に入り込んだら、どうなると思う?」
警察は、もう動かない。彼らは、見て見ぬふりをする道を選んだ。いや、もっと正確に言えば、彼らのさらに「上」にいる何者かが、そうすることを決定したのだ。俺が追っているのは、もはや地方のフリー記者が扱えるような事件ではない。国家レベルの、隠蔽された災害だ。
ヤマさん(編集長)にも、もう連絡は取っていない。彼を巻き込むわけにはいかない。これはもう、俺一人の問題だ。俺が、最初にこの異変の匂いを嗅ぎつけてしまったのだから。俺が、ケリをつけなければならない。
全てのピースは、揃った。
起点:△△台団地裏の雑木林
ブンさんの証言から、外国人労働者たちが、善意から、故郷の風習に則って、あの場所で「土葬」を行っていたことは確定した。彼らは、「踊り病」で死んだ仲間を、弔っていたのだ。
震源:雑木林の「土」
Sさんの証言によれば、「泥の男」が被害者の顔に塗りつけた泥からは、「未知の生命体」としか言いようのない、異常な粒子が検出された。あの雑木林の土そのものが、致命的に汚染されている。
波紋①:泥の男
汚染された土から生まれた、あるいは土そのものが擬人化した存在。人間を襲い、顔に泥を塗りつけることで、「何か」を伝播させる。
波紋②:踊り病
泥を塗りつけられた人間、あるいは、ケアマネの高橋さんや医師の五十嵐先生が診ていた、何らかの形で汚染源に接触した人間が発症する、奇妙な病。くねくねと踊り、約一ヶ月で死に至る。それは、俺が最初に無視した、あの「クネクネ」という都市伝説の、本当の姿だったのだ。
波紋③:熊
異常な行動をとる、熊たち。彼らもまた、あの雑木林に引き寄せられていた。ニュースサイトの記事、そして消防団員の証言。熊は、あの雑木林に「餌」があると知っている。住民の間で囁かれていた噂。「熊が、何かを掘り起こしていた」。
そうだ。全てが、繋がっている。
彼らは、「踊り病」で死に、土に埋められた遺体を、掘り起こして、食べていたのだ。
そして、その結果、熊自身もまた、あの「何か」の新たな宿主(ホスト)となり、人里へとその災厄を運び出す、歩く生物兵器と化した。
俺は、一体、何を相手にしているんだ?
菌か? ウイルスか? それとも、Sさんの言う通り、地球上の生命の系統樹から外れた、全く未知の「何か」か。
もう、どうでもいい。
それが何であれ、このまま放置すれば、事態はさらに悪化する。△△台団地を中心とした、あの半径2kmの円は、少しずつ、だが確実に、その汚染範囲を広げていくだろう。
俺は、ジャーナリストだ。
いや、ジャーナリストの端くれだ。
大学時代の面接で、「社会の片隅で、誰にも気づかれずに消えていく声を掘り起こしたい」と、青臭い理想を語った、あの頃の俺は、まだ死んではいない。
警察も、行政も、大手メディアも、誰もこの真実を報じないというのなら、俺がやるしかない。
俺が、この悪夢の連鎖を、断ち切るための証拠を掴む。
全ての事件の起点は、最初の違法土葬現場だ。
警察もあてにならない。
今夜、一人で証拠を探しに行く。
あの雑木林の、外国人たちが仲間を埋めたという場所に、一体、何が埋まっているのか。
そして、熊たちが、何を掘り起こしていたのか。
この手で、確かめる。
スコップは買った。ボイスレコーダーのバッテリーも確認した。
これが、俺の最後の取材になるかもしれない。
もし、俺が帰ってこなかったら。
もし、俺もまた、「泥の男」に襲われ、一ヶ月後に、あの気味の悪い踊りを始めることになったら。
あるいは、このメモを読んでいる誰かがいるのなら、それは、俺が失敗したということだ。
だが、それでも、行くしかない。
これは、俺が始めなければならなかった「物語」であり、そして、俺が終わらせなければならない「物語」なのだから。
(メモは、ここで終わっている。ノートの最後のページは、乱暴に破り取られたかのように、ちぎれていた)
資料種別:フリーペーパー『週刊ほくかんリビング』記者・工藤██の取材メモ(スキャンデータ)
記録年:2027年
(以下は、工藤氏の取材ノートの、最後のページに記されていた殴り書きである。これまでの彼のメモが、いかに乱れていようとも、ジャーナリストとしての体裁を保っていたのに対し、この最後の記録は、もはや取材メモではなく、遺書、あるいは決意表明とでも言うべき、極めて個人的で、切迫した独白となっている)
2027/03/08 (月)
件名:最後の調査
Sさんとの面会から、一週間が経った。
この一週間、俺は一歩もアパートから出ていない。眠ることも、食事をすることも、忘れていた。ただ、あのSさんの最後の言葉だけが、頭の中で繰り返し再生されている。
「あの粒子が、もし、人間の肺に入り込んだら、どうなると思う?」
警察は、もう動かない。彼らは、見て見ぬふりをする道を選んだ。いや、もっと正確に言えば、彼らのさらに「上」にいる何者かが、そうすることを決定したのだ。俺が追っているのは、もはや地方のフリー記者が扱えるような事件ではない。国家レベルの、隠蔽された災害だ。
ヤマさん(編集長)にも、もう連絡は取っていない。彼を巻き込むわけにはいかない。これはもう、俺一人の問題だ。俺が、最初にこの異変の匂いを嗅ぎつけてしまったのだから。俺が、ケリをつけなければならない。
全てのピースは、揃った。
起点:△△台団地裏の雑木林
ブンさんの証言から、外国人労働者たちが、善意から、故郷の風習に則って、あの場所で「土葬」を行っていたことは確定した。彼らは、「踊り病」で死んだ仲間を、弔っていたのだ。
震源:雑木林の「土」
Sさんの証言によれば、「泥の男」が被害者の顔に塗りつけた泥からは、「未知の生命体」としか言いようのない、異常な粒子が検出された。あの雑木林の土そのものが、致命的に汚染されている。
波紋①:泥の男
汚染された土から生まれた、あるいは土そのものが擬人化した存在。人間を襲い、顔に泥を塗りつけることで、「何か」を伝播させる。
波紋②:踊り病
泥を塗りつけられた人間、あるいは、ケアマネの高橋さんや医師の五十嵐先生が診ていた、何らかの形で汚染源に接触した人間が発症する、奇妙な病。くねくねと踊り、約一ヶ月で死に至る。それは、俺が最初に無視した、あの「クネクネ」という都市伝説の、本当の姿だったのだ。
波紋③:熊
異常な行動をとる、熊たち。彼らもまた、あの雑木林に引き寄せられていた。ニュースサイトの記事、そして消防団員の証言。熊は、あの雑木林に「餌」があると知っている。住民の間で囁かれていた噂。「熊が、何かを掘り起こしていた」。
そうだ。全てが、繋がっている。
彼らは、「踊り病」で死に、土に埋められた遺体を、掘り起こして、食べていたのだ。
そして、その結果、熊自身もまた、あの「何か」の新たな宿主(ホスト)となり、人里へとその災厄を運び出す、歩く生物兵器と化した。
俺は、一体、何を相手にしているんだ?
菌か? ウイルスか? それとも、Sさんの言う通り、地球上の生命の系統樹から外れた、全く未知の「何か」か。
もう、どうでもいい。
それが何であれ、このまま放置すれば、事態はさらに悪化する。△△台団地を中心とした、あの半径2kmの円は、少しずつ、だが確実に、その汚染範囲を広げていくだろう。
俺は、ジャーナリストだ。
いや、ジャーナリストの端くれだ。
大学時代の面接で、「社会の片隅で、誰にも気づかれずに消えていく声を掘り起こしたい」と、青臭い理想を語った、あの頃の俺は、まだ死んではいない。
警察も、行政も、大手メディアも、誰もこの真実を報じないというのなら、俺がやるしかない。
俺が、この悪夢の連鎖を、断ち切るための証拠を掴む。
全ての事件の起点は、最初の違法土葬現場だ。
警察もあてにならない。
今夜、一人で証拠を探しに行く。
あの雑木林の、外国人たちが仲間を埋めたという場所に、一体、何が埋まっているのか。
そして、熊たちが、何を掘り起こしていたのか。
この手で、確かめる。
スコップは買った。ボイスレコーダーのバッテリーも確認した。
これが、俺の最後の取材になるかもしれない。
もし、俺が帰ってこなかったら。
もし、俺もまた、「泥の男」に襲われ、一ヶ月後に、あの気味の悪い踊りを始めることになったら。
あるいは、このメモを読んでいる誰かがいるのなら、それは、俺が失敗したということだ。
だが、それでも、行くしかない。
これは、俺が始めなければならなかった「物語」であり、そして、俺が終わらせなければならない「物語」なのだから。
(メモは、ここで終わっている。ノートの最後のページは、乱暴に破り取られたかのように、ちぎれていた)
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる