19 / 42
【第二章:天災と人災(2028年)】
第19話:資料No.018(政府広報・緊急会見録)2028年
しおりを挟む
第二章:天災と人災(2028年)
(編纂者による注記:第一章で提示された記録は、北関東の一地方で発生した、理解不能な、しかし極めて限定的な「予兆」の記録であった。フリージャーナリスト・工藤██は、その点と点を結びつけ、背後にある巨大な法則性に肉薄したが、彼の声が社会に届くことはなかった。そして、全ての予兆は、これから記す、あまりにも巨大な「天災」という現実の前に、完全に不可視なものとなる。この第二章の記録は、巨大な災害が、いかにして人々の目を曇らせ、すぐ足元で静かに増殖していた本当の脅威を、誰もが「仕方がないこと」として受け入れてしまうに至ったか、その悲劇的な過程の記録である)
【資料No.018】
資料種別:内閣官房長官による緊急記者会見・全文書き起こし
記録年:2028年
(以下は、2028年5月1日未明、首相官邸で行われた緊急記者会見の公式記録である。この日、日本という国家のあり方を根底から覆す、未曾有の国難が発生した。この記録に残された、冷静で、統制の取れた言葉の数々は、しかし、これから始まる本当の悪夢の、静かな序曲に過ぎなかった)
日時: 2028年5月1日 午前3時45分
場所: 首相官邸 大ホール
会見者: 内閣官房長官 ██ ██
(会見開始)
長官: …深夜にもかかわらず、お集まりいただき、ありがとうございます。ただいまより、内閣官房長官として、緊急記者会見を始めさせていただきます。お手元の資料をご確認ください。
(会場に、資料をめくる音と、多数のカメラのシャッター音が響き渡る)
長官: 本日、午前2時28分ごろ、紀伊半島沖を震源とする、極めて大規模な地震が発生いたしました。気象庁の推定によりますと、地震の規模を示すマグニチュードは、9.1。震源の深さは約20kmと推定されております。
(記者団から、どよめきと、呻くような声が漏れる)
長官: この地震により、静岡県、愛知県、三重県、和歌山県、徳島県、高知県、愛媛県、宮崎県、大分県、鹿児島県の沿岸部に、大津波警報が発令されております。すでに第一波が到達したとみられる地域もあり、被害の全容は現在、確認を急いでいるところであります。
推定される津波の高さは、最も高いところで30メートル以上に達するとの報告も入っております。
(会場が、完全な静寂に包まれる)
長官: 国民の皆様に、申し上げます。
今、この放送を見ている、沿岸部、津波警報が発令されている地域にお住まいの方は、ただちに、命を守る行動をとってください。
ためらわないでください。少しでも高い場所へ、内陸へ、避難してください。テレビやラジオの情報に注意し、決して、海岸や川の河口には近づかないでください。
政府は、ただいま、官邸対策室を設置いたしました。総理を本部長とする、緊急災害対策本部に切り替え、人命救助を最優先に、政府一体となって、全力で対応にあたります。
すでに、自衛隊、警察、消防、海上保安庁に対し、災害派遣の準備に入るよう指示を出しております。
(ここで長官は一度言葉を切り、カメラを真っ直ぐに見据える)
長官: この地震は、我々が長年、来るべき国難として想定し、備えを進めてきた、南海トラフ巨大地震であると、政府として判断いたしました。
被害は、広範囲に、そして甚大なものとなることが予想されます。
しかし、どうか、冷静に行動してください。デマに惑わされることなく、助け合ってください。
我々日本人は、これまでも、数多くの国難を、不屈の精神と、互いを思いやる心で乗り越えてきました。
政府は、国民の皆様の生命と財産を守るため、あらゆる手立てを尽くすことを、ここに、固くお約束いたします。
私からは、以上です。
詳細につきましては、この後、気象庁および関係省庁より、順次、発表があります。
(質疑応答に移る記者たちの、怒号にも似た呼びかけが飛び交うが、長官は一礼すると、足早に会見場を後にする。残された会場の混乱と、鳴り響く電話のコール音。テレビカメラの赤いランプだけが、これから始まる長い夜を、静かに見つめている)
(編纂者による注記:この歴史的な一夜の記録は、我々の時代の人間にとっては、悪夢の始まりとして記憶されている。だが、当時の人々にとって、これはまだ「想定内の悲劇」であった。彼らは、これから自分たちが対峙するのが、地震や津波といった、理解可能な「天災」だけではないということを、まだ知る由もなかった。この巨大な災害がもたらした、数百万という規模の「死」が、北関東の片隅で静かに芽吹いていた、あの名もなき怪異にとって、かつてない規模の「苗床」を提供することになる、という残酷な事実に)
(編纂者による注記:第一章で提示された記録は、北関東の一地方で発生した、理解不能な、しかし極めて限定的な「予兆」の記録であった。フリージャーナリスト・工藤██は、その点と点を結びつけ、背後にある巨大な法則性に肉薄したが、彼の声が社会に届くことはなかった。そして、全ての予兆は、これから記す、あまりにも巨大な「天災」という現実の前に、完全に不可視なものとなる。この第二章の記録は、巨大な災害が、いかにして人々の目を曇らせ、すぐ足元で静かに増殖していた本当の脅威を、誰もが「仕方がないこと」として受け入れてしまうに至ったか、その悲劇的な過程の記録である)
【資料No.018】
資料種別:内閣官房長官による緊急記者会見・全文書き起こし
記録年:2028年
(以下は、2028年5月1日未明、首相官邸で行われた緊急記者会見の公式記録である。この日、日本という国家のあり方を根底から覆す、未曾有の国難が発生した。この記録に残された、冷静で、統制の取れた言葉の数々は、しかし、これから始まる本当の悪夢の、静かな序曲に過ぎなかった)
日時: 2028年5月1日 午前3時45分
場所: 首相官邸 大ホール
会見者: 内閣官房長官 ██ ██
(会見開始)
長官: …深夜にもかかわらず、お集まりいただき、ありがとうございます。ただいまより、内閣官房長官として、緊急記者会見を始めさせていただきます。お手元の資料をご確認ください。
(会場に、資料をめくる音と、多数のカメラのシャッター音が響き渡る)
長官: 本日、午前2時28分ごろ、紀伊半島沖を震源とする、極めて大規模な地震が発生いたしました。気象庁の推定によりますと、地震の規模を示すマグニチュードは、9.1。震源の深さは約20kmと推定されております。
(記者団から、どよめきと、呻くような声が漏れる)
長官: この地震により、静岡県、愛知県、三重県、和歌山県、徳島県、高知県、愛媛県、宮崎県、大分県、鹿児島県の沿岸部に、大津波警報が発令されております。すでに第一波が到達したとみられる地域もあり、被害の全容は現在、確認を急いでいるところであります。
推定される津波の高さは、最も高いところで30メートル以上に達するとの報告も入っております。
(会場が、完全な静寂に包まれる)
長官: 国民の皆様に、申し上げます。
今、この放送を見ている、沿岸部、津波警報が発令されている地域にお住まいの方は、ただちに、命を守る行動をとってください。
ためらわないでください。少しでも高い場所へ、内陸へ、避難してください。テレビやラジオの情報に注意し、決して、海岸や川の河口には近づかないでください。
政府は、ただいま、官邸対策室を設置いたしました。総理を本部長とする、緊急災害対策本部に切り替え、人命救助を最優先に、政府一体となって、全力で対応にあたります。
すでに、自衛隊、警察、消防、海上保安庁に対し、災害派遣の準備に入るよう指示を出しております。
(ここで長官は一度言葉を切り、カメラを真っ直ぐに見据える)
長官: この地震は、我々が長年、来るべき国難として想定し、備えを進めてきた、南海トラフ巨大地震であると、政府として判断いたしました。
被害は、広範囲に、そして甚大なものとなることが予想されます。
しかし、どうか、冷静に行動してください。デマに惑わされることなく、助け合ってください。
我々日本人は、これまでも、数多くの国難を、不屈の精神と、互いを思いやる心で乗り越えてきました。
政府は、国民の皆様の生命と財産を守るため、あらゆる手立てを尽くすことを、ここに、固くお約束いたします。
私からは、以上です。
詳細につきましては、この後、気象庁および関係省庁より、順次、発表があります。
(質疑応答に移る記者たちの、怒号にも似た呼びかけが飛び交うが、長官は一礼すると、足早に会見場を後にする。残された会場の混乱と、鳴り響く電話のコール音。テレビカメラの赤いランプだけが、これから始まる長い夜を、静かに見つめている)
(編纂者による注記:この歴史的な一夜の記録は、我々の時代の人間にとっては、悪夢の始まりとして記憶されている。だが、当時の人々にとって、これはまだ「想定内の悲劇」であった。彼らは、これから自分たちが対峙するのが、地震や津波といった、理解可能な「天災」だけではないということを、まだ知る由もなかった。この巨大な災害がもたらした、数百万という規模の「死」が、北関東の片隅で静かに芽吹いていた、あの名もなき怪異にとって、かつてない規模の「苗床」を提供することになる、という残酷な事実に)
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
隣人意識調査の結果について
三嶋トウカ
ホラー
「隣人意識調査を行います。ご協力お願いいたします」
隣人意識調査の結果が出ましたので、担当者はご確認ください。
一部、確認の必要な点がございます。
今後も引き続き、調査をお願いいたします。
伊佐鷺裏市役所 防犯推進課
※
・モキュメンタリー調を意識しています。
書体や口調が話によって異なる場合があります。
・この話は、別サイトでも公開しています。
※
【更新について】
既に完結済みのお話を、
・投稿初日は5話
・翌日から一週間毎日1話
・その後は二日に一回1話
の更新予定で進めていきます。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる