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第3章:見届けられる未来
第31話:魂の剣
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越後屋の若旦那が放った渾身の一撃が、宗次へと迫る。
傷を負い、プライドを傷つけられた若旦那の剣は、もはや理性を欠いた獣の咆哮そのものだった。宗次はその狂気の刃を冷静に見切った。これが、全てを決する最後の一太刀となる。
キィン!
再び、金属がぶつかり合う甲高い音が部屋に響き渡る。宗次は若旦那の荒々しい攻撃を、寸分の狂いもなく受け止めた。しかし、その衝撃は宗次の腕を痺れさせ、体勢を僅かに崩させる。若旦那はそれを見逃さず、間髪入れずに次の連撃を繰り出した。
狭い部屋の中、刀の嵐が巻き起こる。宗次は身を低くし、積み重ねられた木箱の陰に滑り込んだ。ガコン!と音を立てて刃が木箱にめり込む。その隙を突き、宗次は一気に若旦那の懐へと飛び込んだ。
この一瞬に、宗次の全てが凝縮されていた。かつて失った家族への贖罪、お梅の最後に託された願い、赤子の未来、そして「あの人」の信頼。それら全てが、宗次の剣に宿る魂となった。
刀を振り上げる宗次の目は、一点の曇りもなく、若旦那の急所を捉えていた。宗次の一撃は、若旦那の剣を弾き、その胴体へと吸い込まれるように突き刺さった。
「ぐ…あぁっ…!」
若旦那の目が大きく見開かれ、苦悶の表情が浮かぶ。その場に倒れ伏す若旦那の足元に、手から滑り落ちた刀がガランと音を立てた。致命傷だった。若旦那の体が痙攣し、やががて動かなくなった。
部屋に、重い静寂が訪れる。
宗次は、荒い息を吐きながら、刀を鞘に収めた。手応えがあった。確かに、この戦いを終わらせたのだ。
しかし、安堵する間もなく、宗次はすぐに意識を切り替えた。目的は若旦那を倒すことではない。ここにある「何か」を手に入れることだ。宗次は血に汚れた床を避け、部屋の中央にある机へと向かった。
机の上には、分厚い一冊の帳簿が置かれている。鉄の金具で閉じられ、ずっしりと重い。越後屋の悪事の全てが記された、まさしく「血の帳簿」だろう。宗次はその帳簿を手に取った。これこそが、越後屋を滅ぼすための、そしてお梅の夫が守ろうとした、決定的な証拠だ。
積み重ねられた木箱の中には、異国の品々や、禁じられた金品が収められているに違いない。しかし、それらは宗次の目的ではない。この帳簿さえあれば、全てが事足りる。
宗次は帳簿を懐にしまい、部屋の隅に倒れている若旦那に、静かに目を向けた。彼の顔には、死の苦痛だけでなく、敗北と、全てを失った絶望が浮かんでいた。
(これが…貴様が選んだ道の果てだ)
宗次は若旦那に情けをかけることはなかった。彼は、多くの者の人生を貪り、お梅のような悲劇を生み出した張本人だ。宗次が斬ったのは、悪に染まった越後屋の象徴だった。
しかし、感傷に浸る時間は無い。宗次が若旦那と戦っていた音で、誰かが異変に気づいた可能性もある。早くここから脱出しなければ。
宗次が部屋を出ようとした、その時だった。
重々しい足音が、開け放たれた扉の向こうから近づいてくる。一人ではない。複数の気配だ。そして、その足音は、用心棒のそれとは違う、より規律の取れた、熟練の動きを示すものだった。
まさか…増援か?
宗次は再び刀の柄に手をかけた。越後屋は、若旦那一人でこの重要な秘密を守らせていたわけではなかったようだ。宗次の前に、新たな、そして予想もしなかった障壁が立ちはだかった。
息を殺し、宗次は開かれた扉の向こうの闇を見つめた。帳簿は手に入れた。しかし、ここから無事に出られるのか? 逃げ道はどこにある?
宗次の潜入は、まだ終わっていなかった。最後の戦いが、今、再び始まろうとしていた。果たして、宗次はこの闇から生還し、お梅の願いを完遂できるのか──。
傷を負い、プライドを傷つけられた若旦那の剣は、もはや理性を欠いた獣の咆哮そのものだった。宗次はその狂気の刃を冷静に見切った。これが、全てを決する最後の一太刀となる。
キィン!
再び、金属がぶつかり合う甲高い音が部屋に響き渡る。宗次は若旦那の荒々しい攻撃を、寸分の狂いもなく受け止めた。しかし、その衝撃は宗次の腕を痺れさせ、体勢を僅かに崩させる。若旦那はそれを見逃さず、間髪入れずに次の連撃を繰り出した。
狭い部屋の中、刀の嵐が巻き起こる。宗次は身を低くし、積み重ねられた木箱の陰に滑り込んだ。ガコン!と音を立てて刃が木箱にめり込む。その隙を突き、宗次は一気に若旦那の懐へと飛び込んだ。
この一瞬に、宗次の全てが凝縮されていた。かつて失った家族への贖罪、お梅の最後に託された願い、赤子の未来、そして「あの人」の信頼。それら全てが、宗次の剣に宿る魂となった。
刀を振り上げる宗次の目は、一点の曇りもなく、若旦那の急所を捉えていた。宗次の一撃は、若旦那の剣を弾き、その胴体へと吸い込まれるように突き刺さった。
「ぐ…あぁっ…!」
若旦那の目が大きく見開かれ、苦悶の表情が浮かぶ。その場に倒れ伏す若旦那の足元に、手から滑り落ちた刀がガランと音を立てた。致命傷だった。若旦那の体が痙攣し、やががて動かなくなった。
部屋に、重い静寂が訪れる。
宗次は、荒い息を吐きながら、刀を鞘に収めた。手応えがあった。確かに、この戦いを終わらせたのだ。
しかし、安堵する間もなく、宗次はすぐに意識を切り替えた。目的は若旦那を倒すことではない。ここにある「何か」を手に入れることだ。宗次は血に汚れた床を避け、部屋の中央にある机へと向かった。
机の上には、分厚い一冊の帳簿が置かれている。鉄の金具で閉じられ、ずっしりと重い。越後屋の悪事の全てが記された、まさしく「血の帳簿」だろう。宗次はその帳簿を手に取った。これこそが、越後屋を滅ぼすための、そしてお梅の夫が守ろうとした、決定的な証拠だ。
積み重ねられた木箱の中には、異国の品々や、禁じられた金品が収められているに違いない。しかし、それらは宗次の目的ではない。この帳簿さえあれば、全てが事足りる。
宗次は帳簿を懐にしまい、部屋の隅に倒れている若旦那に、静かに目を向けた。彼の顔には、死の苦痛だけでなく、敗北と、全てを失った絶望が浮かんでいた。
(これが…貴様が選んだ道の果てだ)
宗次は若旦那に情けをかけることはなかった。彼は、多くの者の人生を貪り、お梅のような悲劇を生み出した張本人だ。宗次が斬ったのは、悪に染まった越後屋の象徴だった。
しかし、感傷に浸る時間は無い。宗次が若旦那と戦っていた音で、誰かが異変に気づいた可能性もある。早くここから脱出しなければ。
宗次が部屋を出ようとした、その時だった。
重々しい足音が、開け放たれた扉の向こうから近づいてくる。一人ではない。複数の気配だ。そして、その足音は、用心棒のそれとは違う、より規律の取れた、熟練の動きを示すものだった。
まさか…増援か?
宗次は再び刀の柄に手をかけた。越後屋は、若旦那一人でこの重要な秘密を守らせていたわけではなかったようだ。宗次の前に、新たな、そして予想もしなかった障壁が立ちはだかった。
息を殺し、宗次は開かれた扉の向こうの闇を見つめた。帳簿は手に入れた。しかし、ここから無事に出られるのか? 逃げ道はどこにある?
宗次の潜入は、まだ終わっていなかった。最後の戦いが、今、再び始まろうとしていた。果たして、宗次はこの闇から生還し、お梅の願いを完遂できるのか──。
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