チュー犬くんと隠れっ子

はる

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雨と傘とチュー犬くん

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……恋なんて、くだらねぇと思ってた。



ケンカしてる方がまだマシだって。



殴られる痛みより、




誰かに心つかまれる方が、ずっと怖ぇから。



だけど






「……あの、大丈夫ですか!?」





そう言って差し出された傘




雨音と同時に俺の恋が始まる音がした

















「お、覚えとけよ!!」






傷だらけの他校の不良たちは、顔を引きつらせながらも、逃げるように捨て台詞を吐き捨てる。



バイクの排気音が夜の空気を切り裂き、遠ざかっていく――その残響だけが、胸の奥に静かに重く残った。













雨音以外何も聞こえない静かな路地裏







俺は壁にもたれ、全身ずぶ濡れで座り込んでいた。





拳は血まみれで、唇も切れてて、呼吸がうまく入らねぇ。







「ははっ、……ざまぁみろ、って……」







そう呟いて強がるように笑った瞬間、急に力が抜けた。





支えてた壁から体がずり落ちて、そのまま地面に横倒しになった。











あぁ、俺死ぬのか…?











全てを諦めそうになった時













――水溜まりを蹴る音。バシャッ、バシャッ、駆け寄ってくる足音。



路地の奥、傘を差した誰かが、雨を跳ね上げながら近づいてくる。






「……あの、大丈夫ですか!?」




顔を上げる。視界が揺れ、光が滲んでその顔ははっきり見えない。



――傘がぼんやりと揺れている。


手元や肩の動きもぎこちない。


怖いのか、緊張しているのか、でも俺のところまで来てくれたんだ――その震えで、分かる。




だからこそこんな俺に巻き込ませたくなかった





「……来んな……」



かすれた声が、喉から絞り出される。



「……酷い傷、救急車……!」


声だけが、俺の耳に飛び込んでくる。


腕を伸ばして、その手を弱々しく押さえる。






「……やめろって言ってんだろっ……、いてっ……」





手が震え、力が抜けていく。






するとその人は自分の鞄を漁りながら何かを取り出した。






「ちょっとだけ染みますよ……」





冷たいものが、傷にそっと触れた。





何かで押さえられている。視界は滲んで、痛みで頭も朦朧としている。





でも、その手だけは、はっきり、あたたかく感じた。







「……なんで……」



かすれ声が意味もなく漏れる。






「……放っておけなくて……」





差していた傘を俺が濡れないように地面に置く





「……これ、使ってください。


風邪、ひかないでくださいね。」



言葉を探す。




「でも、お前濡れるだろ……」



「…折り畳みあるので大丈夫です」



その人は雨に濡れながら、折りたたみ傘を開き始める。






――その動きが妙に独特だった。



傘の一番上の先端を、軽くトン、と地面に当てて開く。



骨が滑らかに動く音と、跳ねる雨粒。



朧気に見えるその仕草は、とても美しく見えた。




もう少しだけ話がしたい。



そんな風に思ったのは初めてだった。








ゆっくり息を吸って、声を出そうとした時










「翔さーん!!どこですかー!!」




「っ、拓斗……」





遠くで舎弟の拓斗の声が聞こえる



その人はびくっと振り返る。






「……もう大丈夫かな。お大事に」







そう言い終わると、ためらう間もなく走り去っていく。



傘を差して、水溜まりをバシャバシャ蹴りながら、背中が小さくなっていく。







――声は届かない。




雨と水しぶきの音だけが、静かに残る。










……顔もはっきり分かんねぇのに








あの手のあたたかさが頭から離れねぇ。


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