Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

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五十六話

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「コマイヌ、そういえばこれはお前に返しておく」

 そう言ってリーシャさんから手渡されたのは求心のペンダント……そういえば貸していた。あのイベントから数日経ってから渡されたので、完全に忘れていた。

「そしてこいつが延滞料だ」

 と言って結構なお金……僕の一日二日分の稼ぎをポンと渡してくるあたりがリーシャさんらしい。これはリーシュ君に渡そうかなぁ、装備作ってくれているし。素材とか渡しているとはいえ最近は調整とかにもよく付き合ってもらっているし。

「お金は貰いますけど……求心のペンダントは好きに使ってもらっていいですよ。たぶん倉庫に入れっぱなしにするんで」

「助かる。ただ一度返した、という事実が大事なんだ。これで次に借りたとしても延滞料はまたそこからにする」

 気にしないでいいけど、リーシャさんがそう言うなら。

 そういえば案外気安い関係になったな。ミヅキ先輩が嫌っていて、リーシュ君もよく怒っているし、僕のことを人外扱いしてくるとは言え、クランに二人しかいない男子仲間なので最近はよく話す。

 もっぱら性癖談義みたいになるけど、僕がまだ義務教育段階だと伝えると大変驚いていた。なのでそこまで生々しい話はされてないが、よく好みの女の話をされる。だいたいわかってるけど。年上好きなんだよね。僕以外のメンバーにだいたいバレてるよそれ。

「それで、お前はこの後何をするんだ?大会まではまだ時間があるが」

 そう、大会に参加することとなった。クラン対抗戦、五対五の対人戦だ。
 正直クランの人たちが参加してくれるかは謎だったけど、ミヅキ先輩は頼りにしてるんですよ先輩~って感じで甘えたら行けた、ちょろい。ボタンさんは試験が終わったらしく、私は自由だー!って言いながら参加を表明してくれた。ハナミさんは誘う前から来る気満々だったし、ドリさんは四人が参加すると言ったら来た。流されやすい人だな。

 とりあえず参加申請だけはボタンさんがしてくれたので、後は本来チームワークを磨いたり集団戦の動きを考えたりしたらいいのだけど……だいたいウチのメンバーは個が強いし。とりあえずそれまでは各々スキルとかレベルを上げましょうってことになった。

 ということで僕は現在、最初の街に来ている。

 レベル上げろって言われただろなんでだよって思う人もいるかもしれないけれど、とりあえずやりたいことがあってここに来たのだ。別に家具が買いたかったとかじゃない。

「じゃあ姫に会いにきたとかぁ?」

 エンジェルさんがいるがそれはない。ちなみに偶然会っただけで特に話はしていない。一応最近の活躍を見てくれているとかなんとか。あなたの周りのプレイヤーの睨みがきついのでやめてください。

 そういえばエンジェルさん、元PKクランのリーダーの彼女は以前は後衛職として戦闘に参加していたが、今度のイベント戦などには参加するのだろうか。彼女ならオネーチャンさん……比較するには微妙だけど彼女のように集団への指示が的確だったたり……

「姫はぁ、そういうのあんまり得意じゃないんだよねぇ」

「一応リーダーですよね……」

「姫が指示出すより優秀な参謀もいるしぃ、姫より現場判断が的確な人もいるからぁ」

 それは確かに。極論言うと社長が事務処理できなくても現場指揮できなくても会社が回るかは別問題みたいな。
 ……いや、違うか?

「それエンジェルさん何してるんですか」

「士気の向上だよぉ、ねぇみんなぁ?」

 黒服たちへ呼びかけると全員が一斉に敬礼をして大きな声を出す。一糸乱れない動作と声量に圧倒される。まぁここまで統率取れてるなら確かに指示が違うだとかは些細な問題に思えるか。

「ちなみに一番姫を好きなのはだーれだ」

「俺です」「は?俺だが」「俺は姫のために仕事以外の時間全てログインしている。睡眠すらBfTの中で取って食事は最低限の栄養食だ」「俺は仕事の時間を全て捨てたぞ」「働け」「課金コンテンツが来たときどうする気だ。RMTが禁止されているとはいえ経済力は重要だぞ」「財閥の御曹司である僕こそが一番だ」「俺は好きなんてものじゃない、姫さえ幸せならそれでいい」

 なんというか、ゲーム内での闇を見ている気がする。アイドル、キャラに声優、配信者やクリエイター、色んな人に恋をしている末路というか、最終形態というか。

 すると一際大きな影、側仕えであるミカエルさんがぬっと出てきて周りの面子を睨みつける。

「俺だ……」

 この人も騎士やってるだけはあるなぁ。

「面白いでしょ?毎回同じ展開になるけど姫この質問好きなんだぁ」

 そしてこの人も姫やってるだけの才能はある。

 ◇

 談笑?もほどほどにして去ることにした。あのままあそこにいたら周りの黒服たちに視線だけで最大HPを削られそうな気がする戦争に巻き込まれていたと思ったので逃げることにした。

 ちなみに何故かミカエルさんとエンジェルさんとはフレンドになっている。僕のフレンド欄がどんどんカオスになってきた気がするが気のせいだ。

 気のせいついでに肉を焼いている巨漢のおじさんに向かってひざかっくんを食らわせる。しかし度重なる攻撃によって耐性がついてしまったのか、おじさんは怯むことなく肉を焼き続けている。
 スーパーアーマーが実装されていたなんて知らなかった。

 おじさんは不敵な笑みを浮かべ後ろを向いてくる。僕の顔を確認しまた笑みを深めた。

「さっすがに慣れたぜ……何の恨みがあってこんなことしてんだ」

「ハナミさんたちに僕の情報とか売ったじゃないですか。あれ通報ギリギリラインですよ」

「まぁ相手を見て売ってるからな。それに初心者の少年一人なら……おい、街中だからって決闘申請を送るな」

 決闘申請は街中でのPvP機能だ。受理されると街中でも普通に攻撃が通るようになる。一応一定範囲内に戦闘フィールドが発生し、サーバーが分かれて周りからの妨害も及ばなくなる……んだったかな?

「俺がレイドボスを討伐した化け物に叶うはずないだろ」

「最近よく言われるけど人間です」

「ドラゴンの肉とか出てないのか、高く売れそうだし買い取るぞ。なんなら前みたいにウサギ肉でもいい」

 話を聞いてくれないのに話を振ってくる。しかも要求が豪華だ。

「食品類はほとんどハナミさんに渡してるので……ああ、でもウサギ肉はこの後手に入るかもしれないです」

「ほう、第二の街の先にウサギ型モンスターなんて出てきた情報はないな」

「いや、この後……平原で」

 少しばかり成長したので、最初の思い出。雪辱戦と行こうと思う。
 カッコいい感じで立ち去ろうとして、でもその前に気になってたことがあった。

「そういえば動画とかスクショ解禁ムードですけど情報屋なんて儲かるんですか?」

「むしろ最近クエストがコンテンツ解放に関わってるから情報屋界隈が賑わってるくらいだ。大抵wiki'sに買い取られてしまうがそれでも今までとは別種の稼ぎができている」

 ああ、そういえばそんなことありましたね。なんでもレイドイベントなどはオネーチャンさんたち主導での発見だったらしいが、それ以外の小規模な連続クエストなどは情報屋たちが活躍しているらしい。でも情報屋が界隈できるほどいるのはちょっと嫌だよ僕。

「それにスクショや動画の持ち出しが許されても、外部のwikiやサイトに書かれた情報を持ち込むのは記憶力だけだ。俺みたいにちょっとばかし小賢しい奴はページの隅から隅まで全部覚えている物だ」

 へー、なんか久しぶりにローステンさんを尊敬した気がする。でもなんかむかつくので今度のひざかっくんはスキルを使って全力でやろう。

 ◇

 久しぶりに視界の端に表示される始まりの草原と表示される。最近じゃクランハウスの機能で移動することが多いので久しぶりにここに来た。さて。あたりを見回すと初心者プレイヤーはだいぶ減っただろうか。僕がログインした時より断然減っている気がする。まぁまだまだ品薄状態だろうし、次のが並ぶまでしばらくこの状態が続くかな?

 まぁこれからやることは人が少ないほうが楽にできるけど。ウサギがぴょこぴょこと跳ねているところへ近づく。徒歩で近づいている気分なのに、最初に遭遇した時の全力疾走ほどの走力がある気がする。もう昔のことで思い出せないけど。

 手刀を叩きこむように鋭く腕を振り下ろし、刃を展開する。ウサギは怯み、僕から逃げようと体を動かすが、向きを変えた程度の時間で、振り上げた刃に切り裂かれポリゴンを散らす。

 うん、スキルを使わないで二撃。成長したな。

 獣型モンスターというのは実力差を見極めることができるのか、ゲームを始めた当初はあれだけ僕に飛び掛かってきたウサギも今や全力で走り去っていく。

 まぁ逃がさないけど。

 剣を射出し、突き刺さるだけでウサギの足が止まる。そのまま走り寄ってスラッシュをすればそのままチリとなる。射出した剣に鎖を付けたままにすれば動かずとも切り裂ける。ウサギ程度の移動速度なら鎖付き射出でも逃げられることはない。
 三、四回ほど狩ってみたが今の僕なら作業みたいにチェインできるな。

 さて、ウサギ狩りだ。


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