Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

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六十九話

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レオさんことレーベリオさんの話を聞きながら歩いていると目的の洞窟前まで歩いていた。あの人β時代に残した伝説が多いらしく聞いてるだけで楽しい。暴風さんとはライバルみたいな関係でよく対人戦をして遊んでいたらしい。

βのころは暴風さんとの喧嘩が起こるとすぐに掲示板や全体チャットに流れ、喧嘩場がお祭り騒ぎになって露店が立ち並んだほどらしい。二つ名持ちは何人もいるけれどやっぱり暴風と要塞の名が有名らしい。

僕は鼠返しもかっこいいと思いますというとミヅキ先輩は顔を軽く赤く染めながら僕へ針を投擲してきた。ははは、もうその程度の針投げなら首を傾けるだけで避けられますよ。ていうかなんで三本投げた針が目と頭を狙って飛んできてるんですか。急所ですよ。首傾げて避けられる部分に攻撃飛ばさないんですよ仲間は。

「ついた」

針を回収して湖に到着する。

湖というから現実のような整備された、観光地のような場所を想像していたが実際には違い、水面は魚かモンスターか、どちらかわからないが生き物によって定期的に揺らされている。静かになった湖を覗き込むと水底を映さずに、濁り切ったお茶のような濃い緑色を見せつけてくる。実際のところ観光地や整備されたものでもない湖なんてこのようなものなのだろう。

僕は実際には行ったことないので知らないが。
というかこの湖渡ってくんですか。中央の洞窟まで。

「そろそろコマイヌ後輩なら水の上走れたりしない?」

「いくら何でも……たぶん無理ですね」

鎖とか使って全バフ乗せて……と思ったけれどさすがに無理だろうな。やはり何もない空中や水の上も走れるようになりたいけど何かしらいいスキルないだろうか。

「ちょっと悩むところがやばいのですよー」

「後輩ならいずれできると信じている。頑張ってほしい」

ドリさんは半分面白い物を、半分呆れるように。ミヅキ先輩は幼い子供が新品のおもちゃで遊ぶ時のように目を輝かせながら言葉を吐いた。なんかいい感じのスキルあったら教えてください。

「やっぱりそういうのは魔法系に多いですかねー。魔法ってー、何もないところからMP使って何かを出すスキルなのでー?」

「やっぱり魔法系スキルですよねー……MPがなぁ」

「装備でMPリジェネも入ってるですよねー。それでも足りないですかー?」

「【血兎《アルミラージ》】伸ばしたりスキル回したりすると全然足りなくて……やっぱり何か新しいの組み込んだほうがいいですかね」

「わかる。私もMPは結構きつい。ステータス振るけど」

ミヅキ先輩は結構バランス良い振り方してるから器用そうでいいですよね。僕一点突破の大砲タイプなので……リーシュ君に相談……いや今シバさんの装備で忙しいだろうからなぁ。なんかだいぶ前からずっとMPで悩んでる気がする。

「しょうがないけどMPポーションがぶ飲みするしかないんじゃないですかー?」

「MPポーションはまぁ買ってはいるんですけど……」

「やっぱり回復量が足りない」

そうなんですよね。リーシャさんに聞いてみたところHPポーションの素材になるアイテムは第三の街付近で収穫出来て、さっそく農業班が量産体制に移っているらしいんだけど、上位のMPポーションとなるアイテムがまだ発見されていないらしい。おそらく第三の街から第四の街の間であるだろうと推測されているらしい。

ちなみに発見したら公表する前にリーシャさんに渡すように再三言われた。たぶんリーシャさんの知り合いとかですら発見できてないのを僕が発見することはないと思うのでそれは大丈夫だと思う。

しかしそれさえ発見してしまえば大量の報酬に加えて回復量の多いMPポーションまで手に入るので本格的に探してもいいかもしれない。PvPイベントが終わったら。
とりあえず今は湖を渡って洞窟へ向かうか。アスレチック形式になってしまうが一応足場になりそうな岩が洞窟まで並んでいるので僕やミヅキさんは問題ないだろう。

問題があるとすると……

「え、夢無理ですよ」

そういって激しく首を横に振るドリさんだ。まぁ確かに……無理そうではあるが。
腕を組みミヅキ先輩と二人でどうするか相談タイムに入る。どうしますあれ。え、僕が抱えていくんですか。まぁできると思いますけど……あれ?
指をさし確認を取るも無言でうなずかれる。ドリさんは

「人に指さしちゃ行けません」

うん、まぁドリさんが問題なさそうだしいいか。ドリさんを抱え≪ライトウェイト≫≪脱兎之勢≫起動。それじゃあ洞窟まで≪ダッシュ≫。

ひぅ、と短く悲鳴のように息をのむ音が聞こえた気がするが気のせいだろう。



洞窟までは無事につくことができたが小動物のように震えて布団をかぶるドリさんを落ち着かせるまで数分かかった。ちなみにこれ以外の方法となるとミヅキ先輩が大量に分身してバケツリレーみたいにドリさんを運ぶプロジェクトとなります。

落ち着きを取り戻したドリさんは何事もなかったようにきつ然とした態度で立ち上がる。ドリさんがそれでいいのなら僕らはいいんですけど。

「それで、この洞窟のどこで釣りをすればいいの」

「ふぅ……。え、ああ。この洞窟の先ですねー。一応ダンジョンとかフィールド扱いではない特殊なエリア扱いですのでー、モンスターとかは出ないんですけどー。その分釣りで釣れるのがでかいっていうことらしいですー」

「疑問だったんですけどその情報ってどこから仕入れてるんですか」

いくらドリさんが事情通とはいえ、別にこのクランに釣り人がいるわけでもないのになぜそんな情報を。総合スレとかで話題になったのかな。だとしたら他の人も知っていると思うしミヅキ先輩も調べてると思うけど。

「釣り師スレですけどー?」

思わず拳を握りしめて叫びだしたい衝動を抑える。
なんでそんなスレ見てるんだ。あなた釣り師じゃないだろ……!
と言ってもこの人のその雑食性というか、どんなスレでも見る好奇心の強さに今回ミヅキ先輩は救われたようなのでこれは別に良しとしておこう。

言われた通りに洞窟を進み、最深部と思わしき場所にたどり着く。岩に囲まれた場所だが、周囲の湖の水が流れ込んできているのか、洞窟内部にさらに小さい湖が作られていた。しかし先ほどの濁った水たまりか調子に乗って大匙十杯茶葉を入れたお茶と違って、さらさらと透明な水が満ちており、水底には小さい魚が泳いでおり、時折跳ねて水面を揺らすのが視認できた。

今回の冒険の所以たるミヅキ先輩はすでに小さい椅子や餌を取り付けた釣り竿などをいそいそと準備している。ドリさんは……木工用のハンマーだろうか?なぜか木材を並べハンマーを振るう。正直この人は時々理解に困ることがあるので放置だ。

「ミヅキ先輩、とりあえず僕は」

「これ使って」

そういいこちらを一瞥することもなくミヅキ先輩の隣へ配置された椅子と、そこのそばに立てかけられた釣り竿を指される。こちらはミヅキ先輩用ではなく、僕用の設備だったらしい。

言われた通りに椅子に座り、釣り竿を手に取る。釣り竿を手に取った瞬間にシステムメッセージで『釣りスキルを開放しました』とわざわざ通知が出る。

なるほど、こうして釣りスキルが開放されるのか。漁師スキルとは別カテゴリなんだな、釣りスキル。

「釣りスキルはとらないでも、その釣り竿ならある程度補正入る」

こちらが何を言おうとしたのか察してミヅキ先輩が先に言葉を発する。僕が楽しめるように一応用意してくれたのだろう、こちらの釣り竿には盗品と書いてないし。
実際釣りなんてしたことないので楽しみだ。現実で楽しめないことをまた一つ、こんなところで楽しめるとは思ってなかった。



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