17 / 21
センター試験
しおりを挟む
とうとう2学期が終わってしまった。3年生は3学期にはほとんど登校しないのだ。暖冬で木枯らしが吹かない昨今だが、俺の心は木枯らしどころか吹雪いていると言ってもいい。
それでも、3学期の始業式には3年生も登校する。あと10日ほどでセンター試験だ。特進クラスのほとんどの生徒がセンター試験を受ける。みなピリピリしているかと思いきや、久しぶりに会った友達とふざけ合っている。登校日は少ないが、良いストレス発散になっているようだ。
体育館での始業式が終わり、生徒の後から我々教師がクラスへ向かうと、暖冬とはいえそれなりに寒い廊下で、颯太と坂口が肩をくっつけて座っていた。教室の前である。
「おい、お前たち。寒いから中へ入りなさい。風邪ひくぞ。」
俺は思わずそう声をかけた。案の定、坂口がぎろっと睨む。颯太は・・・素直に見上げるその瞳・・・キラキラとして眩しい!
「はーい。」
颯太はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。当然、顔が近づいてくる。胸が、苦しい。
「調子はどうだ?」
離れがたくて、そう声をかけた。
「うん、まあ。」
颯太はそう答えて、俺の目を見た。しばし見つめ合う。
「ちゃんと寝てるかー?目に隈ができてるぞ。」
「え、うそ。」
颯太はとっさに手を目の下に当てた。ああ可愛い。坂口はまだ座っていたのだが、このやりとりを見て、シュタっと立ち上がった。そして、
「行こう。」
颯太の手を取り、教室の扉を開け、颯太を中へ引っ張って行った。坂口め、手を繋ぎやがって。許せん。だが、現実を見ると、二人は仲がいい。トホホ・・・。
最後のセンター試験。来年からは共通テストになるらしい。1月18日土曜日。我が校の生徒は、試験会場が3カ所に分けて割り当てられた。その一つ、東京の外れにある国立大学のキャンパスが、俺の割り当てられた会場だった。俺が試験を受けるわけではない。門の前に立ち、やってきたうちの学校の生徒と握手をして励ますのだ。
曇天の空。この後雪が降るとの予報である。とにかく寒い。ベンチコートを着込んで、靴の中にカイロを入れて、俺は朝早くから門のところに立っていた。耳当てがあったら良かったのに。何しろ顔が冷たい。耳ももちろん冷たい。手袋は、握手をするためにあえて外している。指先が冷たすぎて感覚がない。暖冬はどこへ行ったのやら。
うちの生徒が歩いてきた。
「田中!頑張れよ。」
俺はそう声をかけ、田中の手を取って握手をした。田中は強張った顔で、少し笑った。寒くて強張っているのか、緊張で強張っているのか、その両方だろうか。
「おう、木村!頑張れよ。」
またうちの生徒が来たので握手をした。木村は俺を見ると驚いた顔をし、握手をされてちょっと照れて笑った。
しかし、そう次々とうちの生徒が来るわけではなく、暇である。とはいえ、見逃してはいけないので、じっと受験生の列を見ていなければならない。
あ!颯太だ。良かった、とにかく無事に受けに来られたな。他の学校や予備校の教師もいて、あちこちで握手会が勃発している。颯太はそう言った人たちをチラチラ見ながら歩いて来た。
「颯太!」
俺は、颯太の事を少し迎えに行くような形で近づいて行き、
「頑張れよ。」
と言いながら颯太の手を取り、握手をした。手袋をしている生徒が多い中、颯太はしていなかった。俺は颯太の温かい手を直に握った。冷え切った体の芯にビリっと電気が走り、胸が少し温かくなる。すると、颯太は手を握ったまま俺の顔を見上げた。
「先生。」
颯太は、見るからに不安そうな顔をしている。
「どうしたぁ。大丈夫だよ。きっと実力を出せるって。」
俺はそう言いながら、左手で颯太の腕をポンポンと軽く叩いた。握手をしている右手は、そのまま離せずにいた。颯太も離そうとしない。
「ねえ先生、これだけの為に来たの?」
「ん?ああ、まあね。」
「じゃあ、もうすぐ帰っちゃうんだ。」
「そりゃまあ、試験が始まったら帰るよ。」
と言ったものの、颯太の不安そうな顔を見たら、このまま帰ろうとしても、相当後ろ髪引かれるだろうなという予感しかしない。
「何だよ、まさか終わるまで待っててくれ、なんて言わないよな?」
流石に、それはないと思いながらも冗談めかして言ってみる。待っててなんて言われたら、俺はそれこそ舞い上がっちまうぞ。
「そんな事言うわけないじゃん。」
颯太はそう言いながら、手をブンと振って離した。
ああ、二重に残念。だが、ちょっと怒ったような顔をした颯太は、次の瞬間笑った。良かった。青ざめていた颯太の顔に、赤みが差した。
「大丈夫だ、落ち着いていけ。始める前に深呼吸しろよ。」
俺はそう言って、今度は颯太の肩をポンポンと叩いた。
「うん。行ってくる。」
颯太がそう言ったので、俺は両腕でガッツポーズを作った。颯太はそれに頷いて応え、校舎の方へ歩き出した。
少しして、またうちの生徒が歩いて来た。
「おう、奈良橋、頑張れよ!」
俺はそう言って、奈良橋と握手をした。手を離すと、奈良橋はにやっとして、
「八雲先生、さっき誰かとしばらく手を握り合ってなかったー?俺とはすぐ手を離すのにー?」
お前は余裕か?ああ、こいつは私立大希望で、センター利用はするが重きを置いてないんだった。いわば受験の練習のためにセンターを受けに来たようなものだった。
「何言ってんだよ。不安だっていうから励ましていただけだよ。余計な事考えないで、しっかり受けてこい。」
俺は奈良橋を追い払うように背中をぐいぐい押した。
「はいはい。」
奈良橋は後ろでにバイバイと手を振って行った。ああ俺、さっきまでの寒さはどこへやら。今は暑いとさえ感じている。顔を扇ぎたいくらいだ。そして、胸の中も熱い。恋は胸を焦がす、とはよく言ったものだ。
今日を皮切りに、3年生の入学試験が次々と入ってくる。どうかみんなが実力を発揮し、望む結果を得られますように。その後は・・・卒業だ。とうとう颯太がいなくなってしまう。俺は忘れられるのだろうか。諦められるのだろうか。だが、忘れなければならない。また前のように、淡々と教師を続けていくのだ。颯太のいなくなった学校で、恋など忘れて生きて行かなくてはならない。
それでも、3学期の始業式には3年生も登校する。あと10日ほどでセンター試験だ。特進クラスのほとんどの生徒がセンター試験を受ける。みなピリピリしているかと思いきや、久しぶりに会った友達とふざけ合っている。登校日は少ないが、良いストレス発散になっているようだ。
体育館での始業式が終わり、生徒の後から我々教師がクラスへ向かうと、暖冬とはいえそれなりに寒い廊下で、颯太と坂口が肩をくっつけて座っていた。教室の前である。
「おい、お前たち。寒いから中へ入りなさい。風邪ひくぞ。」
俺は思わずそう声をかけた。案の定、坂口がぎろっと睨む。颯太は・・・素直に見上げるその瞳・・・キラキラとして眩しい!
「はーい。」
颯太はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。当然、顔が近づいてくる。胸が、苦しい。
「調子はどうだ?」
離れがたくて、そう声をかけた。
「うん、まあ。」
颯太はそう答えて、俺の目を見た。しばし見つめ合う。
「ちゃんと寝てるかー?目に隈ができてるぞ。」
「え、うそ。」
颯太はとっさに手を目の下に当てた。ああ可愛い。坂口はまだ座っていたのだが、このやりとりを見て、シュタっと立ち上がった。そして、
「行こう。」
颯太の手を取り、教室の扉を開け、颯太を中へ引っ張って行った。坂口め、手を繋ぎやがって。許せん。だが、現実を見ると、二人は仲がいい。トホホ・・・。
最後のセンター試験。来年からは共通テストになるらしい。1月18日土曜日。我が校の生徒は、試験会場が3カ所に分けて割り当てられた。その一つ、東京の外れにある国立大学のキャンパスが、俺の割り当てられた会場だった。俺が試験を受けるわけではない。門の前に立ち、やってきたうちの学校の生徒と握手をして励ますのだ。
曇天の空。この後雪が降るとの予報である。とにかく寒い。ベンチコートを着込んで、靴の中にカイロを入れて、俺は朝早くから門のところに立っていた。耳当てがあったら良かったのに。何しろ顔が冷たい。耳ももちろん冷たい。手袋は、握手をするためにあえて外している。指先が冷たすぎて感覚がない。暖冬はどこへ行ったのやら。
うちの生徒が歩いてきた。
「田中!頑張れよ。」
俺はそう声をかけ、田中の手を取って握手をした。田中は強張った顔で、少し笑った。寒くて強張っているのか、緊張で強張っているのか、その両方だろうか。
「おう、木村!頑張れよ。」
またうちの生徒が来たので握手をした。木村は俺を見ると驚いた顔をし、握手をされてちょっと照れて笑った。
しかし、そう次々とうちの生徒が来るわけではなく、暇である。とはいえ、見逃してはいけないので、じっと受験生の列を見ていなければならない。
あ!颯太だ。良かった、とにかく無事に受けに来られたな。他の学校や予備校の教師もいて、あちこちで握手会が勃発している。颯太はそう言った人たちをチラチラ見ながら歩いて来た。
「颯太!」
俺は、颯太の事を少し迎えに行くような形で近づいて行き、
「頑張れよ。」
と言いながら颯太の手を取り、握手をした。手袋をしている生徒が多い中、颯太はしていなかった。俺は颯太の温かい手を直に握った。冷え切った体の芯にビリっと電気が走り、胸が少し温かくなる。すると、颯太は手を握ったまま俺の顔を見上げた。
「先生。」
颯太は、見るからに不安そうな顔をしている。
「どうしたぁ。大丈夫だよ。きっと実力を出せるって。」
俺はそう言いながら、左手で颯太の腕をポンポンと軽く叩いた。握手をしている右手は、そのまま離せずにいた。颯太も離そうとしない。
「ねえ先生、これだけの為に来たの?」
「ん?ああ、まあね。」
「じゃあ、もうすぐ帰っちゃうんだ。」
「そりゃまあ、試験が始まったら帰るよ。」
と言ったものの、颯太の不安そうな顔を見たら、このまま帰ろうとしても、相当後ろ髪引かれるだろうなという予感しかしない。
「何だよ、まさか終わるまで待っててくれ、なんて言わないよな?」
流石に、それはないと思いながらも冗談めかして言ってみる。待っててなんて言われたら、俺はそれこそ舞い上がっちまうぞ。
「そんな事言うわけないじゃん。」
颯太はそう言いながら、手をブンと振って離した。
ああ、二重に残念。だが、ちょっと怒ったような顔をした颯太は、次の瞬間笑った。良かった。青ざめていた颯太の顔に、赤みが差した。
「大丈夫だ、落ち着いていけ。始める前に深呼吸しろよ。」
俺はそう言って、今度は颯太の肩をポンポンと叩いた。
「うん。行ってくる。」
颯太がそう言ったので、俺は両腕でガッツポーズを作った。颯太はそれに頷いて応え、校舎の方へ歩き出した。
少しして、またうちの生徒が歩いて来た。
「おう、奈良橋、頑張れよ!」
俺はそう言って、奈良橋と握手をした。手を離すと、奈良橋はにやっとして、
「八雲先生、さっき誰かとしばらく手を握り合ってなかったー?俺とはすぐ手を離すのにー?」
お前は余裕か?ああ、こいつは私立大希望で、センター利用はするが重きを置いてないんだった。いわば受験の練習のためにセンターを受けに来たようなものだった。
「何言ってんだよ。不安だっていうから励ましていただけだよ。余計な事考えないで、しっかり受けてこい。」
俺は奈良橋を追い払うように背中をぐいぐい押した。
「はいはい。」
奈良橋は後ろでにバイバイと手を振って行った。ああ俺、さっきまでの寒さはどこへやら。今は暑いとさえ感じている。顔を扇ぎたいくらいだ。そして、胸の中も熱い。恋は胸を焦がす、とはよく言ったものだ。
今日を皮切りに、3年生の入学試験が次々と入ってくる。どうかみんなが実力を発揮し、望む結果を得られますように。その後は・・・卒業だ。とうとう颯太がいなくなってしまう。俺は忘れられるのだろうか。諦められるのだろうか。だが、忘れなければならない。また前のように、淡々と教師を続けていくのだ。颯太のいなくなった学校で、恋など忘れて生きて行かなくてはならない。
0
あなたにおすすめの小説
マネージャー~お前を甲子園に連れて行ったら……野球部のエース♥マネージャー
夏目碧央
BL
強豪校の野球部に入った相沢瀬那は、ベンチ入りを目指し、とにかくガッツを認めてもらおうと、グランド整備やボール磨きを頑張った。しかし、その結果は「マネージャーにならないか?」という監督からの言葉。瀬那は葛藤の末、マネージャーに転身する。
一方、才能溢れるピッチャーの戸田遼悠。瀬那は遼悠の才能を羨ましく思っていたが、マネージャーとして関わる内に、遼悠が文字通り血のにじむような努力をしている事を知る。
俺の幼馴染が陽キャのくせに重すぎる!
佐倉海斗
BL
十七歳の高校三年生の春、少年、葉山葵は恋をしていた。
相手は幼馴染の杉田律だ。
……この恋は障害が多すぎる。
律は高校で一番の人気者だった。その為、今日も律の周りには大勢の生徒が集まっている。人見知りで人混みが苦手な葵は、幼馴染だからとその中に入っていくことができず、友人二人と昨日見たばかりのアニメの話で盛り上がっていた。
※三人称の全年齢BLです※
孤毒の解毒薬
紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。
中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。
不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。
【登場人物】
西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。
白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
病んでる愛はゲームの世界で充分です!
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。
幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。
席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。
田山の明日はどっちだ!!
ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。
BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。
11/21
本編一旦完結になります。小話ができ次第追加していきます。
刺されて始まる恋もある
神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる