モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央

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すれ違い

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 「慣れ」というのは恐ろしいもので、あれだけつらいと思っていた事が、つまり、海斗と毎日会えない事が、岳斗にとって普通の事になってきた。電話が出来ない事にも慣れて来た。それは海斗にとっても同じはずだ。岳斗が慣れてつらいと思わなくなると同時に、海斗も、岳斗に会えない事に慣れて普通になってしまうはずである。それが、岳斗にとっては不安材料なのであった。
 海斗が最初に一泊で帰って来たのが五月下旬で、次に帰って来たのが六月下旬だった。六月に帰って来た時には、驚きもせず普通に家族で海斗を迎え入れ、海斗も五月の時ほど岳斗にべったりでもなかった。別れる時も、割とドライだった。もちろん、海斗と岳斗は一晩一緒に寝たのだが。狭い岳斗のベッドで。
 日常がそれなりに流れ、一カ月が経つ。また海斗が来てくれると信じ切っていたから、岳斗はそれに向けて無心に試験勉強なども出来たし、無事に試験をクリアした。
 だが、七月下旬、この週末に海斗が来るだろうと岳斗が予想していたところに、海斗から連絡があった。もうすぐ夏休みだから、今週末には帰らないという内容だった。味気ないメッセージで。
 岳斗の心がザワリとした。いや、夏休みに長く帰って来るのだから、その少し前に帰らない事は当然だ。だが、岳斗に会えないのがしんどくて、頑張ってバイトをして交通費を稼いでいる海斗。バイトばかりしているから、電話もする暇がない二人。それが、帰って来ないというのを、電話ではなく文字で送ってきた海斗。何だか本末転倒のような気がする岳斗である。同時にその事(文字で送って来た事)は、帰って来ない事がお互いにとってそれほど重大な事ではないという証明のようで、岳斗の心がざわつくのだ。そして不安がよぎる。だが、夕方から夜は海斗がバイトなので電話しても出ない。他の変な時間を見つけてかけても、もし出てくれなかったり、忙しいからと適当にあしらわれたりしたら……そういう怖さがあり、かけられない。いや岳斗は、全然慣れていないし、つらくないわけではなかった。蓋をしているだけなのだ。海斗がいないという事実に目を向けないようにしているだけなのだ。
 それでも、夏休みになれば海斗が帰って来る。岳斗はそれを楽しみに待っていた。海斗の夏休みは、自分の履修した授業の試験が終わる七月二十六日に始まる。二十七日か、遅くとも二十八日には帰って来るだろうと岳斗は踏んでいた。ちなみに、夏休みが始まる日は、洋子が把握していたのであって、海斗から岳斗に連絡があったわけではない。ここも、岳斗が引っ掛かる所である。
 ところが、七月二十七日に海斗から家族LINEに連絡があった。
「友達と鉄道で帰ります。あちこち旅をしながら、数日かけて帰ります。」
まさか、そんな事が……岳斗は愕然とした。五月に、岳斗の元に飛んで帰って来たあの海斗はどこへ行ったのだ、と信じられない思いでその文字を眺めた岳斗。洋子が「了解」と入力したが、岳斗はリアクション出来なかった。しばらく経ってから、隆二が「いいね」のスタンプを送っていた。岳斗は、泣いているスタンプでも送りたい気分だったが、家族LINEにそれは恥ずかしいのでやめた。
 分かったぞ、と岳斗は思った。海斗は、七月の下旬に帰って来なかったので、その分の浮いた交通費をこの鉄道旅に使うのだろう。そもそも、一緒に旅をする友達とは誰なのだ。同じ高校から行った人なのか。男か、女の子もいたりするのか。
(ああ、ダメだ。全然ダメだ。俺は女々しくてジメジメしていて……海斗にふさわしくない。)
岳斗は今、気づいてしまった。自分は、海斗とお似合いではない。それに、海斗は毎日毎日、岳斗の事ばかり見ていたから好きになったが、しばらく見なければ、岳斗が大した事ない男だという事に気づくに違いない。もっと可愛い子や素敵な人がいるという事に、そろそろ気づいた頃なのでは。
 海斗は結局、六日間帰って来なかった。そんなにも長く、旅を楽しんできたわけだ。しかも、六日後の八月二日は、岳斗たち山岳部の合宿の出発日だったのだ。今回は少し遠くへ行くので、夜に出発して夜行バスで現地まで行き、早朝から山登りを開始する事になっていた。
 八月二日。夕飯を済ませた岳斗は、大きいリュックを背負って玄関を出ようとした。そこへ、海斗が帰って来たのだ。予告もなしに。
「ただいま!」
海斗が玄関を開けて元気よくそう言った。
「あれ?岳斗、今から出かけるのか?」
久しぶりに会ったのに、なんだかその普通の声かけが、岳斗の神経を逆なでした。すぐ帰ってきてくれなかった事に、ただ拗ねているだけなのかもしれない。だが、素直に帰って来た事を喜べない岳斗である。
 岳斗は、視線だけ海斗の目を追ったが、結局何も言わずに玄関を出た。夜行バスの時間もある。ゆっくり立ち止まって話している暇はない。だが、そうではないだろう。自分でも分かっている。時間がなくても、もう少し愛想の良い出迎え方があったはずなのに。後悔、そして自己嫌悪。
(俺はこれから山に登る!これが最後の部活動なのだ。海斗の事は忘れて!……いや、俺が忘れたら、海斗も俺を忘れるよな。うう、泣きたくなってきた。やっぱり女々しいよ、俺。)
岳斗は心で泣いた。
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