沼ハマの入り口

夏目碧央

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父親の責任

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 朝陽はかなり動揺した。
「知ってるって、どういう事?もしかして祐作さん、姉ちゃんの事を知ってるの?」
「いや、まだ確信はないが。お前の姉ちゃんは、菱形建設に勤めていたか?」
「……そう、菱形建設に勤めてた。」
「だよな。俺も、菱形建設に勤めてるんだ。さっき思い出したんだ。潮さんっていう女性がいた事を。」
「姉ちゃん?」
「写真、あるか?姉さんの。」
朝陽はスマホを操作して、過去の写真を出してくれた。
「これ、遺影に使ったやつ。」
それは、まさしく俺の知っている潮さんだった。
「間違いない。」
「それで、姉ちゃんが付き合っていた男を知ってるの?」
「ああ。知ってる。だが、それも確証はない。俺が確かめてもいい。」
「祐作さん……。もし当たりだったら、どうするの?」
「まずはお線香を上げに来てもらおうじゃないか。って言っても、ここに仏壇はないから、鳥取まで行ってもらうか。それから、里奈の養育費の事だ。拒まれる可能性もあるが、相手にも責任がある。」
「でも、もし里奈を引き取りたいと言って来たらどうするの?俺、嫌だよ。里奈を知らないやつに渡したくなんかないよ!」
朝陽は徐々に激高し始めた。
「分かった。朝陽、落ち着け。そうだな、よく考えような。」

 会社で柴田の顔を見る度に、モヤモヤした。早くスッキリさせたい。だが、朝陽が言うように、万が一里奈を引き取りたいなどと言われたら、そしてもし裁判沙汰にでもなったら、朝陽に勝ち目はなさそうだ。第一に経済力。そして育てるのが独りという事も。
 朝陽は、両親とも相談するという事で、柴田に確かめるのかどうかの結論はなかなか出なかった。そんなある日、朝陽から緊急の連絡が入った。
「祐作さん、ごめん、実は俺、今大事なミーティングがあって抜けられないんだ。だけどほら、保育所に迎えに行く時間だからさ、あのー……申し訳ないんだけど、頼めないかな。」
かなり言いにくそうだったが、つまり俺に里奈を迎えに行って欲しいというお願いだった。俺は1つため息をつき、
「分かったよ。里奈を迎えに行ってくればいいんだな?それで、お前んちに行けばいい?」
実は、既に合い鍵をもらっていた。
「ありがとう!恩に着るよ!それじゃ、ごめん切るね。」
忙しそうだ。きっとビッグチャンス到来なのだろう。ここを外したら、仕事がもらえないという危機。仕事をしていれば誰にだってそういう時はある。だが、子供の世話は一日とて休めない。誰かにサポートしてもらわなければ、成り立たない。
 それが、俺だという事実はどうなのだ。俺はいいのだ。朝陽がそれで喜んでくれるのだから。だが、本来なら里奈の父親がある程度責任を持つべきなのに、何もしていないのがモヤモヤする。そもそも、子供が生まれた事さえ知らない可能性がある。潮さんはひっそりと会社を辞め、恐らく会社の誰にも知らせずに子供を産んだ。そして、命を落とした事も、朝陽やご両親は辞めてしまった会社の関係者に知らせてはいないだろう。
 そうだ、朝陽の姉、潮美香と付き合っていたかどうかだけでも、聞いてみるか。まあ、とにかく今は里奈のお迎えだ。
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