戦国ブロマンス

夏目碧央

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冷たい態度の裏に

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 「頭栗様、どうかお達者で。」
「うむ。お前も達者でな。美成をよろしく頼むぞ。」
「はっ。」
頭栗は城を立ち、二度と戻れないかもしれない道を歩んでいった。剣介は涙を堪え、いつまでも頭栗の背中を見送った。
「おい。」
後ろから声を掛けられ、剣介が振り返ると、美成が立っていた。
「あ、美成様。」
剣介はその場に跪いた。美成の事は、時々見かけることはあっても、口を利いたことはほとんどない剣介だった。あの、小さい頃に膝に乗せたのが最後だったと言っていい。
「兄上は行ったか。」
「はい。」
「寂しいか?」
「・・・。」
どう返答したらよいか分からず、剣介は顔を上げた。美成はその大きな目でこちらを見ている。表情からは、その心が読めない。
「これからは俺の世話をするのだよな?いつまでもめそめそしていては困るぞ。」
剣介は目を丸くした。だいぶ年下の美成から、このような言葉を掛けられようとは。しかも、頭栗は美成の兄である。兄がいなくなったのに、まるで自分とは無関係のように。
「分かったのか?」
「はい。」
仕方なく、剣介は返事をした。どうも、これからが思いやられてならない。

 剣介は剣の腕が立つ。これだけはそんじょそこらの武士には負けない。当然、年若い美成になど、負けるわけがない。剣の稽古をすれば、当然美成を打ち負かす。
「うむむ、おのれ剣介!お前、少しは手加減しろ!」
美成が尻餅をついてわめく。
「今までは手加減してもらっていたのですか?」
剣を前に構えた剣介が、ニヤリと笑ってそう聞くと、美成は何も答えず、悔しそうに歯ぎしりをした。
「くそう、えいやー!」
そして、二度目に尻餅をついた時には、木刀を投げ捨ててしまった。
(やはり、これまで甘やかされて育った美成様は、とてもわがままだな。)
やれやれ、と剣介は木刀を拾い、まだ立ち上がらない美成を見下ろした。
(さて、どうしたものか。)
「そうだ。私から一本取ることが出来たら、何かご褒美を差し上げましょう。」
剣介が言うと、美成が見上げた。
「お前からもらえる物などないわ。あ・・・いや、そうだな。」
相も変わらず悪態をついた美成だが、ちょっと考え込んだ。剣介は、嫌な予感しかしない。
「お前から一本取ったら、頭を撫でてくれるか?」
「は?」
剣介は、あまりに予想外な言葉を聞いて、礼儀を忘れてぽかんと口を開けたまま突っ立っていた。
「おい、聞いてるのか?」
「は、はい。えーと、頭を、ですか?」
「そうだ。ダメなのか?」
「いえ、そんな事は・・・。」
狼狽えてから、ふと我に返った剣介。そうだ、一本取られるわけがない。どんな要求だろうが関係ないのだ。
「分かりました。何でもいいでしょう。どうせ、私から一本なんて取れるわけがありませんから。」
自分を取り戻し、剣介はそう言った。
「なにー、見てろよ!絶対一本取ってやるからな。約束忘れるなよ!」
生意気な事を言う美成。そんな態度とは裏腹に、ご褒美に頭を撫でろとは。よもや、剣介には理解不能であった。
 しかし、剣介が美成に一本取られる事なく、月日は流れた。
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