ちょっとした小話

ラズ

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登山へ行ったときの話

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これは中学生の時のお話です。

ある夏の日、一泊二日の登山へ行きました。
どこの山かなんて昔すぎて覚えていないけど、そこまで高くない山だってことは覚えています。

朝から登山をしていた私たちは、夕方になってバンガロー見えてきました。
私たちはそのバンガローに泊まることになっていたのです。
登山でヘトヘトになっている人も多く、みんなのろのろとバンガローへ入り決められた部屋に向かいます。
私も疲れていたので部屋へ向かいました。
その途中、廊下に小さな額縁に入れられた夕日の絵が目にとまりました。
なんてことはない、どこにでもありそうな絵です。だけど、私はなんとなくその絵が気になりました。
じっと見つめても気になる理由はわからず、首をかしげてから部屋に入りました。

ベッドが四つあるだけの簡素な部屋です。
ルームメイトは荷物を部屋の隅に置いて休んでいました。私も荷物を置いてベッドに腰掛けて同じ部屋の友人Aと他愛ない話をしていました。

それから15分後くらい経った頃、いきなり廊下から甲高い悲鳴がしたのです。
思わずルームメイトと顔を見合わせてしまいました。
外であったのなら熊かもしれないと思ったのですが、ここは室内。廊下の窓を開けた拍子に猿でも入ってきたのかとも思いましたが、猿の鳴き声や群れた騒がしさはありません。
ドアを開けて廊下を確認すべきか迷いましたが、わけもわからない恐怖より好奇心が勝ってそっとドアを開けました。

廊下をみまわすと倒れている一人の女子と座り込んで泣いている四人の女子がいました。
何があったのかわからないけど、倒れている様子からしてただ事ではないと思い、慌てて部屋から飛び出して駆け寄ります。
友人Aも後から続いて状況を把握すると先生を呼びに行ってくれました。
とりあえず、泣いている女子に何があったのかききました。
けど、彼女たちは…

「絵が…絵が…」

「お札が…お札が…」

「女の子が…女の子が…」

「怖い…怖い…」

と繰り返すばかりで全く要領を得ませんでした。

絵とはなんのことだろうと顔を上げると、そこにあるのは気になっていた夕日の絵。
そっと触れて裏を見ると古いお札が貼られていました。
彼女たちの様子を見て触る気にはなれず、そっと絵を元に戻しました。
そのとき、視界の端に赤黒いナニカが見えたのです。でも、一瞬のことだったのでそれがなんなのか…私にはわかりませんでした。

ほどなくして先生が来てくれました。
先生に何があったのかと聞かれたけど、何かあった後に来たのでわからないと答えました。
先生は少し疑っているようでしたが、何も言わずに倒れている女子を抱え、泣いている女子を引き連れて去って行きました。
残された私たちは言い様のない気味悪さを感じて、ふるりと震えました。

よく考えればおかしいのです。甲高い悲鳴が聞こえたのに廊下に出てきたのは私たちだけでした。
先生を呼びに行ってくれた友人Aも先生は廊下の曲がり角近くにいたというのです。
顔が青ざめていくのがわかります。

私達は慌てて部屋に入りました。
怖くて怖くて二人で抱き合ってしまいました。
それでも恐怖心はおさまらず、ガタガタと震えてしまいます。

それから、大広間で夕飯を食べて早めに寝ることになりました。
明日は日の出前にここを出て山頂まで登り御来光を見に行く予定だからです。
私たちは怖くて仕方なかったので二人で一つのベッドに寝ることにしました。
少し狭いけど、怖さに比べればマシです。
私は部屋に背を向けて、友人Aは壁に背を向けて、向かい合うように寝ることにしました。
私たちは近くに温もりがあることに安心をして、いつしか眠りに落ちたのです。

真夜中、誰かの動く気配で起きる時間なのかと思い、私は目を醒ましました。
豆電球のついた部屋でうっすらと目を開けると一緒に寝ていたルームメイトの顔があります。
しかし、友人Aは大きく目を開いて固まっています。心なしか顔が青ざめているように見えました。
嫌な予感がした私は目を閉じて、耳に集中しました。

ピチャン…ピチャン…

ニチャッ…ニチャッ…

ズル…ズル…

液体の落ちる音、粘性を帯びたモノが動く音、何かを引きずる音。私は怖くて仕方ありませんでした。
きっと、友人Aはこのナニカを見て固まっているのでしょう。
私には振り返る勇気はありません。

「うぅ……いたい…よぉ………お…かあ……さ…ん……た…すけ…て………」

ゴボボッ……ボタボタ…

ひどく聞き取りにくい幼い女の子の声がしました。女の子は助けを求めているようです。
でも、ここにいるのは中学生。幼い女の子なんていないのです。

きっと、泣いていた女子が言っていた女の子とはこの子のことでしょう。
怖いというのも頷けます。私は聞いているだけで鳥肌が立ち、震えそうになっているのですから。

私はもう一度目をうっすらと開けて友人Aの顔を見ました。
さっきと変わらず大きく目を開けて固まっています。
そのとき、私は友人Aの瞳の中に見てしまったのです。
それは…

真っ赤に染まった女の子でした。

頭は割れて脳みそが見え、
片目は完全に飛び出て揺れて、
顔は血で真っ赤に染まり、
首もおかしな風に折れていて、
到底生きているようには見えません。

友人Aの瞳の中ではそれの全体を見ることはできなかったけど、それだけで十分でした。
私は一目見た瞬間から意識が遠のき、気絶してしまったのです。

気付いたら次の日の朝でした。
他のルームメイトに起こされて、気がつきました。友人Aも若干顔を青ざめさせながら起きています。
ふと、窓を外を見ると嵐でした。
風は吹き荒れ、雨が降り、雷まで鳴っています。とてもじゃないけど御来光を見行くことはできません。
時計を見ると出発予定時間を大幅に過ぎていました。
ルームメイトは今から朝食になるからと、起こしてくれたようです。

大広間へ行き朝食を食べていると、先生は

「嵐がおさまるまでここから出ることはできない。おさまりしだい下山するから用意だけして、あとは自由時間だ」

と言いました。

私と友人Aは早くここから出たい気持ちでいっぱいでしたがどうすることもできません。
なるべく人の多い場所で過ごすことにして、手早く下山の用意を終えました。

荷物を持ったまま大広間に戻ると管理人さんと先生がいました。
私は管理人さんに昨晩のことを話し、何か知っているかききました。
管理人さんは一度目を閉じるとこんな話をしてくれました。

『何年か前の雨の日のこと。母娘おやこで登山に来ていた二人がこのバンガローに泊まった。
  娘は登山で疲れていたが廊下に飾られている絵を見て目を輝かせた。

「あたし、これほしい!」

母親は困った顔をしたが、管理人さんは笑って娘に言った。

「いいよ。この絵はお嬢ちゃんが無事に登頂したらあげよう。登頂したらまたここにおいで」

小さな絵とはいえ、かさばるものは邪魔になると思い、管理人さんはそう言った。
娘は登頂の意味を母親に教えてもらってから力一杯頷いて明るく笑った。

だけど、娘が登頂することはできなかった。

山肌がでて岩がゴロゴロしている場所があり、そこで落石であったのだ。
早く登頂したいと母親の少し前を歩いていた娘は上から来る岩に気づくことなく当たり、母親の目の前で吹っ飛ばされて、斜面を転がり落ちていった。
発見された娘はひどい状態で即死だったようだ。

それから幾日かして、客から幽霊が出ると苦情が来た。
それが娘の気に入った夕日の絵の前と母娘が泊まっていた部屋だった。
寺に依頼をして払ってもらおうにもここは山の中。来てくれるかわからないから…とお札を貼ることにした。
絵の裏とベッドの下…それから、見る者は減った』

「君たちが使っていた部屋が泊まっていた部屋なんだ。昨日の子達もお札に触ったっていうし…怖がらせてしまったね」

最後にすまないと謝られました。
なぜ絵をその子の墓に供えなかったのか聞くと、

供えてもいつのまにか戻ってきてしまう

と教えてくれました。

真相を知ってもどうにかできるわけでもなく、私たちはいつのまにか人の集まってきた大広間で時間をつぶしました。

お昼頃になってようやく嵐はおさまり、下山ができるようになりました。
大広間で点呼を取りバンガローを出る。
そのとき

「おいて……いか…ないで………」

耳元で聞き取りにくい幼い女の子の声がしたのです。
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