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プロローグ
しおりを挟む人間は強欲であるべきだ。ある男がそう言った。
人間は強欲で、傲慢で、嫉妬深いからこそ、強く生き、進化するのだと。退屈だった私の耳に、男の言葉は気持ちのいいくらい浸透していった。
私には男の言うそれらの感情がなかった。人間としては酷く不出来だったのかもしれない。人間というものがどうしても理解できずにいた。
私の中にあったのは探求心のみ。それ故に男の言葉を理解したかった。
男はこうも言った。人間は何かを成すために様々な感情を抱き、努力し、成長するのだと。それが憎しみからくる醜いものでも、成すべきことのために己を進化させるのだと。
人間はどうしても、自分の力に似合わないことを成そうとし、それを野望にして生きるらしい。野望が叶えば、また次の野望を抱く。そうして寿命を全うする生き物だと男は私に語った。
ならばその野望とやらがたった一つ、どんなに願っても叶わないような願いが簡単に叶ってしまうのなら、人間はどのように変化するのだろう。叶えるために成長する生き物なら、その到達点を失えば、成すべきことの容易さから衰退でもしてしまうのか。それともまた新たな道を作り出し、それまでと同じように生きていくのか。
男の話はそこから殆ど耳に入ってくることなく、私は人間の変化が楽しみで仕方なくなった。
野望も、使命も無く、ただ人間の欲を監視し続けた私に開かれた新たな道。もう随分見失っていた。
希望に満ち溢れた。人間の欲は見飽きた。
男は必死に私を止めようとするが、それはできない。あらかじめ私に触れられないように設定がされている。以前にもここに来た人間が私を殺そうとしたことがあった。その経験が生かされている。
ともあれ、私は誰の妨害を受けることなく、己の探求心に任せて世界を変革する。
人間たちに、空から贈り物を。彼らはそれをどのように使うのか。
ギフトを受け取った人間の一人が大地を震わせた。次の一人は海を裂いた。あぁ、なんということだ。絶対的な力を手にすると、人間はこんなにも大胆な事をするのか。
目の前に座り込む男にはできなかった。そんな大胆さはなかった。今思えば、なんともつまらない人間だったのだろう。何故、私はこの男に力を授けたのか。
もう男への興味は微塵もない。今は明らかに変化しつつある地上の観察で手一杯だ。少し目を離せば、広く発展していた都市が一つ消滅している。愉快、愉快。地上に降りて彼らの様子を眺めるのもいい。
だが、そのためにはこの男を排除しなければ。この空間に置いて行くわけにはいかない。自分の無力さに涙を流すだけの人形になった男に近づく。
ここまで来た褒美に、男にも望みを叶える機会を与えよう。そう言ってやると、男は死にきった感情で願いを打ち明けた。
―――それが、その男との最後の会話だった
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