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第1話「終ワル夢ノ始マリ」
2.転校生
しおりを挟む「ねぇ、今日転校生が来るんだって」
教室に着くなり、どこからともなくそんな話声が聞こえてきた。まるで漫画の世界のようなセリフだ、と軽く聞き流し自分の席へと向かう。肩から鞄を降ろし支度をしている間も、話声の大半は転校生を噂していた。
確かに珍しいものではあることは理解できる。しかし教室を埋め尽くす「転校生」という存在に早くも嫌気がさしていた。
転校生に罪は全くない。だが、私の中では興味が全く向かない存在になりつつあった。
暫くして担任の教師が教室に入り、始業を知らせるチャイムが鳴った。教室内は已然として騒がしい。心なしか緊張し、そわそわとしている教師に視線を向ける。「あんたがそんなんでどうする」と小さく言い放ち、呆れながら椅子に深く凭れ掛かった。
教師の調子が狂ったまま進行した朝礼後、やっと転校生の紹介が始まった。入ってくるように教師が扉に声をかけると「失礼しまーす」と気の抜けた返事が返ってきた。
ガラッと音が届き、他の生徒同様扉のほうへ視線を向ける。声の正体、もとい転校生は見慣れない制服を着ていた。
腰より低い位置まで伸びた茶髪を揺らし、黒板の前まで進む。そしてチョークをつまみ黒板へ腕を伸ばす。
「えーっと、春夏秋冬の秋に、山登りの山。沙羅双樹の沙に、お姫様の姫で秋山沙姫って言います。親の都合で急に転校ってことになっちゃって制服はまだ前の学校のまんまなんだけど、みんなよろしくお願いします」
「……え」
初めて聞くはずの声。初めて見るはずの姿。お道化た様子も呑気な顔も知らないはず。それなのに、秋山沙姫が別人に見えて仕方がなかった。
それは夢の世界の住人であり、ユウがいつも遠くから見つめていた人物。笑うことは少なく全世界の悲しみを抱えているかのような、そんな顔ばかり見せていた少女。
ユウが仕える国の姫、シャラはそんな人間のはずなのに。秋山沙姫のへらへらとした顔に彼女の顔を重ねてしまい、目が離せない
「ん?」
沙姫が私の視線に気付く。まずいと思った時にはもう遅く、沙姫は席を潜り抜けて近づいてきた。
必死に視線を逸らして対抗しようとしたが、差し出された手と笑顔によって全て無駄なものとなった。
「よろしくね!」
「……え、えぇ」
よく言えば社交的。悪く言えば図々しい奴。そんなイメージが私の中で生まれてしまった瞬間だったが、教卓付近に戻ろうと背中を向けた沙姫にもシャラを重ねてしまう。
勘弁してくれ、と頭を抱えた。シャラは沙姫のようにその元気で全てを薙ぎ倒しそうな人間ではない。
それに今まで懸念していたことが起きてしまったのだ。現実の世界でも夢を見ているような、そんな錯覚に陥る人物、風景、ものはなかった。
それがついに目の前に。しかもクラスメイトとして現れしまった以上、見て見ぬふりをするのも難しい。ただでさえも毎日見ている夢に悩まされている私にとって、逃げ場を失ったにも等しいことだ。
そのうち考えるのも嫌になった。まさか起きている時間にも夢で見る顔を見ることになるなんて。
私はいつの間にか始まっていた授業も碌に聞かず夢の世界に逃げることにした。
自ら夢に逃避するなど普段はしない。しかし確認のためにも、と考えた。実際に夢の世界でシャラの姿を確認し、沙姫とは全く違うということを自身に証明するために。
きっと何かの間違いだ。そう信じてゆっくりと目を閉じた。
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