魔法使いは人間が好きだと言うが。

はるかぜ

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娘と魔法使い

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  トントンと扉の叩く音が聞こえ、結衣は読んでいた本を閉じてから扉へ向かう。扉を開ければそこには結衣の真っ赤な髪の毛とは対照的な真っ青な髪の毛をした男が立っていた。男の名は春香と言って、その名前を聞けば跪く人間もいるほどに強い力を持った魔法使いだ。通称、青の魔法使い。
  結衣の命の恩人であり同居人であり親代わりでもある彼が帰ってくるのは半年ぶりというのにも関わらず何も変わっていないのは、単に人間ではなく魔法使いだからだろう。

「ただいま、結衣」
「……おかえり」

  軽く挨拶を交わすと春香は目を細めた。ほっとしたような、落胆するような、そんな表情をする春香に気づかないふりをして結衣は家へと入る。春香もその後、なんとも言えない表情で家へ入った。

  二人の出会いは、結衣が七歳の頃。
  結衣の両親は魔法使いだ。それも春香よりは弱いものの、魔法使いとしては強いレベルに入る物の魔法使い、花の魔法使い。
  両親はそれはもう確信をしていた。自分たちの娘が花の魔法使いであるということを。
  しかし、魔法が目覚めるという七歳の誕生日に結衣はなにも目覚めなかった。
  両親はひどく落ち込んだ。嘘だと何度も結衣に魔法を使うよう命じた。それでも結衣が魔法を使えることはなかった。
  この世界において魔法使いでないものは二割と少なく魔法が使えるのが当たり前だった。だから両親は恐れた。世間とは違う娘を見た世間の反応を。
  それからの両親の行動は早かった。新しく娘を作り、結衣を山奥へと捨てた。
  結衣は自分の妹が花の魔法使いであるということ、人間の自分は両親にとって必要ではないということを自覚していた。だからこそ両親に手を引かれ山奥へ連れていかれた時なにも言わなかった。

「何、してるんだ、君」

  山奥をふらふらと帰る場所もなくなった結衣が散策しているところに春香は現れた。
  警戒心の強い結衣は近くに落ちていた木の棒を拾って威嚇した。だか所詮人の子。色の魔法使いは世界で一番強いとされており、人を殺すどころか世界さえ滅亡させることができると言われている。そんな色の魔法使いである春香には猫の威嚇にしか見えず、大きく笑った。

「君面白いな。気に入った! 名前は何だ?」
「………教える気はない」
「もしかして俺のことを知らないのか?」
「……?」
「俺は色の魔法使いだ。君を殺すことは簡単だぜ?」
「……殺せばいいさ」

  生きる場所がなくなったんだからと自嘲気味に言う結衣に春香は顔を歪めた。それから腕を組んで何かを考え込むようにしたあと、春香は結衣の腕を掴むと何処かに向かって歩き出した。
  結衣は当然抵抗した。 殺すことは簡単だと言われた相手だ。殺せばいいなんてのは口だけで、結衣はまだ死にたくなかった。嫌だ死にたくないと叫ぶと、とうとう結衣の目から涙がこぼれた。

「やだ……、死にたくない……」

  やだやだと年相応の反応を示す結衣に、春香は掴んでいた手を離し目線を合わせるようしゃがみ込んだ。
  目を強くこする結衣の手を優しく包み込み、涙を流し続ける目を見つめ春香はなるべく優しく告げる。

「すまない、ちゃんと言うべきだったな。俺は君を殺さない。さっきのは脅しだ。本当にすまなかった。……それと、今から向かうのは俺の家で君を家族として受け入れたいと思ったんだ。帰る場所が無くなったんだろう? うちに来ればいいさ」

  春香は自分の話がまだ幼い結衣にも分かるよう、一語一句をゆっくりと言う。しゃっくりをあげる結衣の背中をぽんぽんと一定のリズムで叩き、家族になろうともう一度告げる。

「……でも、私、魔法使えない……」
「良いさ。俺は人間の方が好きなんだ」
「……私の名前は」
「あ、待て。君、魔法使いに名前を教えてはいけないこと知ってるよな?」
「……うん」
「なら良い。君の名前は?」
「私の名前は結衣」
「結衣か。俺の名前は春香だ。よろしくな」

  その日から二人は家族となった。
  一緒に過ごし始めてから知ったことは春香は家を留守にすることが多いこと、家事があまり得意ではないこと、そして人間が好きだと言うのは嘘だと言うこと。

「結衣、俺は明日から黄色の魔法使いに会いに行くからな」
「……うん、分かった」

  身勝手な男だと結衣は思う。決して口には出さないが、そんな身勝手な男が少しでも後悔するよう結衣はこの家で生涯を終えると決めている。
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2018.03.24 ユーザー名の登録がありません

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