聖女の如く、永遠に囚われて

white love it

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魔女がいる

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 旧伯爵家の末裔、秦野幸子はたのさちこが、すでに百歳だということは、戸籍を見れば簡単に分かることだった。
 幸子が、ずば抜けて美しいということも、知ろうと思えば簡単に知れた。
 その抜けるような肌の白さ、長いまつ毛に縁取られた、どこか憂いを帯びた瞳、形よくすっと通った鼻梁、軽やかなウェーブで肩まで無造作に伸びた艶のある髪、スリムでありながら、女性らしさを存分にたたえるという離れ業をやってのけたそのスタイル。たとえ化粧や流行のファッションに身をまとわなくても、幸子は並ぶもののないほど美しかった。
 実際、幸子は若き日に、何度か新聞社の取材を受け、その写真が新聞に載ったり、舞踏会で外国の要人や貴族から婚約を申し込まれることがあった。その時の記事に関しては、今も図書館のデータベースに残っている。
 だが、幸子が二十代後半から、外見上の老化を一切しなくなったことに関しては、ほとんどの人が知る由もなかった。
 唯一、その真実を知っているのは、彼女が住む館がある、首都圏のC県C市O町の住人、それも古くからの住人達だけだった。
 第二次大戦後、財閥が解体され、秦野家も資産の大部分を失ったが、それでもまだかなりの貴金属や土地、有価証券を保有していた。O町の中には、秦野家からの融資や出資を受けて、商売や事業を成している人々が何人もいた。
 彼らは、秦野家の人間で、ただ一人戦火を逃れ生き残った幸子が不老という特異体質を発症していることに、1960年代には気づいていた。だが本人がそれを秘密にしておきたがったことに加え、メディアや世論で騒がれれば、自分達にとっても煩わしいという理由から、秦野幸子のことは他言しないと決めた。
 町の外れにあった旧秦野家の所有する館、通称緑亭館りょくていかんを大きく改修すると、幸子ができるだけ外出せずに暮らせるよう、様々な手伝いを交代で行うことが、暗黙の取り決めとなった。
 だが実のところ、町の大人達は彼女の不老の美しさに、ある種の怖れを抱いていた。決して邪険にしたりするわけではないが、近寄りがたく思っていた。美しき魔女。それが町の大人達の持つ、幸子のイメージだった。
 そのため、今は主に遠山和人とおやまかずとという中学三年生の少年とその家族が、彼女の世話と館の手入れを請け負っていた。
 和人は、両親と中学一年生の妹とこの町に暮らしており、父親は古くは明治時代からの家系なので、当然幸子のことは知っていた。父親が館や庭の手入れを、母親と妹が買い物や料理を、そして和人が館内の掃除や様々な手伝いを請け負っていた。
 遠山家の人々は、生来どこかのんびりとした性格で、幸子の美しさや体質にもあまりおののくということはなかった。
 特に和人の接し方には少しも屈託がなく、幸子の方も気楽な様子だったので、町の人々はこれでいいと思っていた。
 実は幸子には、その不老の美しさの他にもう一つ、天賦ともいえる推理力があり、町の大人達はその力にも怖れを抱いていた。
 だがそれを知っても尚、少年の態度は変わることはなかった。
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