聖女の如く、永遠に囚われて

white love it

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真っ逆さまに

2.

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 和人はクラスでも特に目立つ存在ではなかった。ただ何人かのクラスメイトや教師は、和人に遠慮しているように良子には感じられた。その理由は、和人の一家が訪れている家にあるのではないかと、良子は睨んでいた。
 和人とその家族が、町の外れにある家にたびたび出入りしていることは父、守から聞いた。

「前に聞いたことがあるんだ。二十代後半ぐらいのものすごい美人の名探偵がいるって。うちの会社の人で、家庭内でちょっとしたもめ事があったんだけど、その人に解決してもらったってさ。どうやら凄いお金持ちなんだけど、一人暮らしらしいから、家のこととか、その和人くんの家族に手伝ってもらってるらしいんだ」

 和人の父親、遠山昇とおやまのぼるは、水道管や水回りの補修や交換をする小さな会社の社長が本職だった。
 確かに女性が一人暮らし、それも大きな家に住んでいれば、いろいろと手助けが必要なのは分かる。

「ねえ、あなた。まさか、その美人がいるから、この町に越そうって決めたんじゃないわよね?」

 佐奈が守を睨む。

「え、いや、違うよ。本当に違う。この辺に住んでるらしいって、聞いてただけで……」

 佐奈は簡単には納得していなかったが、良子にはそんなことはどうでもよかった。
 それからしばらくして、良子はすぐにその緑亭館と呼ばれる屋敷を訪れた。
 秦野幸子のことは、守の会社の人間も詳しくは知らなかった。お金持ちの美人で、名探偵ということくらいしか教えてもらえなかった。ただ昔の伝承や逸話を好むというのは興味深かった。まるで年寄りみたいな趣味だ。
 といってもいきなりチャイムを鳴らすわけにはいかない。行儀が悪いのは分かっていたが、まずは庭をぐるりと囲む塀と柵の間から中を覗くことにした。
 その日、良子は自分が目にしたものを決して忘れることはないだろうと思った。
 庭には、噂の名探偵と思しき女性が佇んでいた。
 少し寂しそうな目で、庭の草花を見ていた。
 彼女はあまりにも美しすぎた。
 ありきたりのワンピースに化粧をまるでしていない様子だったが、美しさの点では、かつて東京で二度も芸能事務所からスカウトを受けた良子でさえ決して及ばないのは一目瞭然だった。
 それは単純に、透き通るような肌をしているとか、スタイルがずば抜けていいというような話ではない。
 人間としての器の大きさ、深さがそのまま違いとなって表れているのだ。
 良子は家に帰ると、部屋に閉じこもった。
 膝を抱え込んだまま、じっとしていた。
 身体中が痛くなった頃、幸子は立ち上がった。
 
「和人くんにとって、幸子さんってどんな存在なの?」
 
 知りたかった。
 幸子は少し前に、F県にある父親の実家って起きたある事件のことを思い出していた。
 確かに祖父は犯人のことを目撃していたのに、地元に住むその男はなぜか捕まらなかった。
 祖父母が無事だったことや引っ越しの準備などもあり、両親も良子も、そこまでは気にしてはいなかった。
 不可解な事件……
 名探偵……
 良子はなんとしても、幸子と和人のことを知るつもりだった。
 知ってどうするのかまでは決めていない。でもそれが、若さというものでしょう?
 良子は自分にそう言いきかせた。
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