聖女の如く、永遠に囚われて

white love it

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真っ逆さまに

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 良子が和人を最初に意識したのは、転校してきてすぐだった。
 新しいクラスに入るとき、普通は担任に紹介されるものだと思っていたが、良子はまず自分で教室の席について待つように言われた。
 それまでいた都会の学校よりは少し田舎。ただし、本当の田舎とは比べものにならないほど発展している。それが、このO町に対する良子のイメージだった。
 都会から田舎の学校に転校すると、環境の差に打ち解けるのが大変だったり、カッコつけてると思われ、嫌われることがあるという。
 だがこの学校では、その心配はなさそうだというのが良子の見立てだった。
 案の定、クラスの子たち、特に女子は良子に対して、バカにするような態度も媚びるような態度も示さなかった。少し距離を取りつつ、適度に会話し、打ち解けながらも、絶えず観察し、品定めするような視線を向けてきた。
 それは意識しなければ苦痛というほどのことではないが、良子としては、高校に入るまでは本当の意味での友人はできないだろうと覚悟していた。もっとも以前の中学に本当の友人がいたかと問われれば、返事には困るのだが。
 転校して一週間ほどした頃、たまたま親の買い物につきあってスーパーに来たときに、良子は和人に会った。
 スーパーの駐車場はかなり特殊なコインパーキング制で、良子や母親が見たことのないタイプだった。それは先に料金を支払い、出てきたカードを持ってある程度買い物をしてからカードにマークをつけてもらい、そのカードを帰りに駐車場の機械に差し込むと、時間内なら料金が返却されるというものだった。
 だが良子の母親、佐奈さなはそんなことは知らず、車を停めるとさっさ店内に買い物に入ってしまっていた。良子も、コインパーキングなら帰りに駐車番号さえ入力して、支払いをすればいいと思っていた。
 だから実際にはカードを取っていなければいけないことや、料金を先払いしなければいけないと知って佐奈は少し慌てた。
 なじみのある町なら、そんなに慌てることもないだろう。だが、まだ勝手に知らない町。誰に聞けばいいのかも分からず、そして同時にプライドの問題から、佐奈は軽くイライラして、良子を叱った。

「なんで気づかないのよ!? 言ってくれればいいじゃない?」

「車を運転してるのは、お母さんでしょ!?」
 
「スマホばっかり見てるからよ」

 言い争いが白熱してきたときだった。

「あ、良子さん?」

 突然、自転車に乗った和人の声がした。

「え? 確か同じクラスの……」

 痩せた、ごくごく平凡なクラスメイト。それが良子の和人に対する第一印象だった。

「もしかして、駐車券事前に取り忘れたんじゃない? ここの、ちょっと特殊だから」

 そう言って和人は笑った。
 それは馬鹿にするでも、カッコつけるでもない。自分をよく見せようともしていない。さわやかで、優しくて、そしてとても素直で笑い方だった。
 良子もつられて笑った。
 そしてそんな自分に驚いた。もうここ最近、そんな風に誰かと一緒に笑ったことはなかったから。そんなのはカッコ悪いと思っていたから。

「このコインパーキングは、スーパーとは別管理なんです。分かりにくいけど、この2次元コードからアクセスして事情を説明すれば、大丈夫ですよ」

 和人が母親に説明するのを見ながら、良子は和人のことをもっと知りたいと思った。
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