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魅入られたのか
5.
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「私は三年前にここにお店を出させてもらったけど、半年前に、あのものすごい美人が訪ねてきたときのことは今でも覚えてる」
凛は少し自慢するような口調になった。
「全然化粧も、おしゃれもしてないのに、あれだけ美人なんてちょっと考えられないわよ。その場にいるだけで、空気が浄化されていくような、そんな人だと思ったわ。ただね」
凛は和人のほうを見た。
「今のあなたたちの関係はやっぱりどこかおかしいんだと思う」
凛がはっきりとそう言うと、ゆきは俯いた。少し恥ずかしげに俯く妹の姿を見て、和人は居た堪れなくなった。そして、なぜか無性に申し訳なさを感じた。
「この町の人たちにとっては特別な存在なんだと思う。昔からある名家のご出身なんでしょ? でもいくら、お金持ちのお嬢様だからって、普通は中学生の男の子と泊まりがけで旅行に行ったりはしないわよ。一歩間違えたら、ただの犯罪よ。なぜ、今まで誰もそのことを指摘しなかったの」
凛は幸子の不老の秘密を知らないのだから、そう思うのも無理はない。実際には彼女はもう老婆なのだ。
和人はそう思った。
ただ、和人はそれを言うつもりはなかった。
子供の頃から幸子を見てきたせいで、その美しさを知ってはいても、どこか見慣れていた。幸子の本当の年齢を知っていることもあり、特にその美しさに心動かされることもなかった。
和人にとって、幸子は姉であり、教師であり、人生の先輩であり、そして友人であって、決して恋人や憧れの対象ではなかったのだ。
少なくとも、これまでは。
だが和人はあることを忘れていた。
いや、あえて考えないようにしていたのかもしれない。
幸子は不老でも、和人は年をとるのだということを。
このままいけば、和人は幸子の年齢に追いついてしまう。
年齢が釣り合ってしまう。
そうなったときに、これまでと同じように幸子と接せられるのか、和人自身、まったくの未知だった。
というより、無理なのではないかと思えた。
おそらく、今回の言い伝えで40代の女性と未成年の子供が、二人の間で子供をつくったかもしれないと推理してしまったことで、これまで考えないようにしていた事実に思いあたったのだということに和人は気づいていたが、今さらどうしようもなかった。
「お兄ちゃん。幸子さんの家に、緑亭館に行くの、やめる?」
ゆきが真剣な顔つきで聞いてきた。
「いや。いきなり、そんな失礼なことはしたくないよ。それに事件にケリをつけないままにはしたくない」
「もう止まっていた時計は動き出しちゃったみたいだけどね」
ゆきがそう言ってから、置いた紅茶のカップの音がやけに響いて聞こえた。
何でもお見通しなんだな。
和人は、その言葉を黙って飲み込んだ。
ミルクの最後を飲み干したが、言葉を飲んだせいか味はしなかった。
凛は少し自慢するような口調になった。
「全然化粧も、おしゃれもしてないのに、あれだけ美人なんてちょっと考えられないわよ。その場にいるだけで、空気が浄化されていくような、そんな人だと思ったわ。ただね」
凛は和人のほうを見た。
「今のあなたたちの関係はやっぱりどこかおかしいんだと思う」
凛がはっきりとそう言うと、ゆきは俯いた。少し恥ずかしげに俯く妹の姿を見て、和人は居た堪れなくなった。そして、なぜか無性に申し訳なさを感じた。
「この町の人たちにとっては特別な存在なんだと思う。昔からある名家のご出身なんでしょ? でもいくら、お金持ちのお嬢様だからって、普通は中学生の男の子と泊まりがけで旅行に行ったりはしないわよ。一歩間違えたら、ただの犯罪よ。なぜ、今まで誰もそのことを指摘しなかったの」
凛は幸子の不老の秘密を知らないのだから、そう思うのも無理はない。実際には彼女はもう老婆なのだ。
和人はそう思った。
ただ、和人はそれを言うつもりはなかった。
子供の頃から幸子を見てきたせいで、その美しさを知ってはいても、どこか見慣れていた。幸子の本当の年齢を知っていることもあり、特にその美しさに心動かされることもなかった。
和人にとって、幸子は姉であり、教師であり、人生の先輩であり、そして友人であって、決して恋人や憧れの対象ではなかったのだ。
少なくとも、これまでは。
だが和人はあることを忘れていた。
いや、あえて考えないようにしていたのかもしれない。
幸子は不老でも、和人は年をとるのだということを。
このままいけば、和人は幸子の年齢に追いついてしまう。
年齢が釣り合ってしまう。
そうなったときに、これまでと同じように幸子と接せられるのか、和人自身、まったくの未知だった。
というより、無理なのではないかと思えた。
おそらく、今回の言い伝えで40代の女性と未成年の子供が、二人の間で子供をつくったかもしれないと推理してしまったことで、これまで考えないようにしていた事実に思いあたったのだということに和人は気づいていたが、今さらどうしようもなかった。
「お兄ちゃん。幸子さんの家に、緑亭館に行くの、やめる?」
ゆきが真剣な顔つきで聞いてきた。
「いや。いきなり、そんな失礼なことはしたくないよ。それに事件にケリをつけないままにはしたくない」
「もう止まっていた時計は動き出しちゃったみたいだけどね」
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